↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アラサーOL、働きたくないので結婚します!  作者: 野花ことり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/5

第1話 働きたくないので婚活します


「働きたくない」


 それが、私の人生における最大の願いだ。


 私は田中美咲。二十九歳。独身。彼氏なし。


 顔は中の中。体型はややぽちゃ。料理はレシピがあれば作れるし、掃除も洗濯も一通りできる。


 結婚相談所のプロフィールには、こう書けるだろう。


『家庭的で、穏やかな性格です』


 嘘ではない。


 家庭的なのは家にいるのが好きだからで、穏やかなのは面倒ごとが嫌いだからだ。


 私の夢は、専業主婦になること。


 朝は目覚まし時計に起こされず、好きなだけ眠る。昼は友人とランチを楽しみ、午後は美容院やショッピング。夕方には夫のために夕食を作り、帰宅した夫を笑顔で迎える。


 夫は私を愛していて、生活費は十分に渡してくれる。


 私は家を守り、夫は外で働く。


 なんて素晴らしい役割分担だろう。


 もちろん、これは単なる夢ではない。実現するための計画もある。


 まずは結婚相手を探すこと。


 そこで私は、友人とのランチ中に宣言した。


「私、結婚相談所に入会する!」


「……急にどうしたの?」


「人生を変えるの」


「転職じゃなくて?」


「働きたくないから婚活するの」


 友人は飲みかけのコーヒーを置いた。


「相手に求める条件は?」


「年収八百万円以上。正社員。優しくて清潔感があって、ギャンブルも浮気もしない人」


「年齢は?」


「三十歳から四十歳くらい」


「身長は?」


「できれば百七十五センチ以上」


「顔は?」


「普通でいいよ。清潔感があれば」


「家事は?」


「私がやる!」


「子どもは?」


「今のところ考えてない」


 友人は一つずつ指を折り、最後に私を見た。


「……あんたは?」


「愛嬌がある!」


「ほかには?」


「家事ができる!」


「仕事は?」


「結婚したら辞める!」


「貯金は?」


「二百万円!」


「資格は?」


「普通自動車免許!」


「特技は?」


「寝ること!」


 友人は額に手を当てた。


「それ、履歴書だったら落ちてるよ」


「婚活は就活じゃないもん」


「でも、相手にも選ぶ権利があるんだよ?」


「もちろん。だから私も選ぶんだよ」


「年収八百万円の男性が、専業主婦希望の二十九歳を選ぶと思う?」


「思う!」


「……もう少し現実を見たほうがいいんじゃない?」


「そうだね。だから結婚相談所に入るんだよ」


「いや、そういう意味じゃなくて」


「大丈夫。プロの人に任せれば何とかなるよ!」


 友人は深いため息をついた。


 私はスマートフォンを取り出し、結婚相談所の入会ページを開いた。


 登録画面には、希望条件を入力する欄が並んでいる。


 年齢、年収、学歴、職業、身長、居住地。


 その下に、こんな項目があった。


『お相手に求める結婚後の生活』


 選択肢は三つ。


 共働き希望。専業主婦希望。どちらでもよい。


 迷う必要はない。


 私は迷わず、専業主婦希望を選択した。


 さらに自由記入欄に、こう入力する。


『結婚後は家庭に入り、夫を支えたいと考えています』


 うん。完璧だ。


 働きたくないという本音を、上品な言葉に変換できた。


「ねえ、本当にそんな条件で結婚できると思ってる?」


 友人が呆れたように尋ねる。


「できるよ」


「どうしてそんなに自信があるの?」


「だって、私と結婚したら幸せになれるもん」


「……その根拠は?」


「私が幸せに暮らせるから!」


 友人は何も言わず、コーヒーを飲んだ。


 私は友人の忠告を聞き流し、スマートフォンを操作して、入会手続きを進める。


 必要書類の一覧が表示された。


 独身証明書、収入証明書、プロフィール写真。


 思ったより本格的だ。


 でも、ここで怯んではいけない。


 私の人生がかかっているのだから。


 好きでもない仕事を続ける人生なんて、もううんざりだ。


 毎朝決まった時間に起きて、満員電車に揺られ、上司に頭を下げ、疲れ果てて帰宅する。


 そんな生活をあと何十年も続けるくらいなら、婚活くらいやってやる。


 私はスマートフォンを握りしめた。


 待っていてね、未来の旦那様。


 料理も洗濯も掃除も頑張ります。


 誕生日にはケーキを焼くし、記念日にはちょっと豪華な夕食を用意します。


 あなたが疲れて帰ってきたら、笑顔でお迎えします。


 だから、お願い。


 私を一生働かせないでください。


 ……できれば、家事もたまには手伝ってください。


 これは贅沢ではない。


 お互いが幸せになるための、合理的な結婚なのだ。


 私はそう信じて疑わなかった。


 その週、私は必要書類を揃え、プロフィール写真を撮影し、結婚相談所にオンラインで提出して入会手続きを済ませた。


 次の日、結婚相談所から、入会手続きについてのメールが届いた。


 添付されていた注意事項に目を通し、メール本文に目を移した。


『ご希望条件に合う男性をご紹介できるよう、担当者がサポートいたします』


 そこまでは普通の案内だった。


 しかし、その下に続く一文を見て、私は目を見開いた。


『つきましては、早速ご紹介したいお相手がいます』


 私は思わず笑みを浮かべた。


 ついに来た。


 私の理想の結婚生活への第一歩が!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。