表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/19

第1話 知らない森に落ちた。

「……え?」

ハルが目を開けた。

最初に感じたのは、土の冷たさだった。

「痛っ……」

ゆっくり身体を起こす。

そこは、見たこともない森だった。

巨大な木々が空を覆い、葉の隙間から差し込む光が地面にまだらな模様を作っている。

「ここ……どこだ?」

スマホを取り出そうとポケットを探る。

しかし――ない。

「マジかよ……」

周囲を見回しても、人の気配はない。

道路もない。 建物もない。

聞こえるのは鳥の声と、遠くで何かが鳴いている音だけだった。

ハルは立ち上がった。

「とりあえず、人を探さないと」

歩き始めた、そのとき。

ふわっ。

鼻に甘い香りが入ってきた。

「……?」

ハルは足を止める。

「なんだ、この匂い?」

花のような香り。

けれど、普通の花とは少し違う。

なぜか、その匂いが妙にはっきり分かった。

「こっち……?」

匂いを頼りに歩いていく。

木の根元を通り過ぎ、茂みを抜ける。

すると、小さな青い実がたくさんなっている植物を見つけた。

「これ……食べられるのか?」

ハルが実に顔を近づける。

甘い匂い。

でも、その奥にほんの少しだけ苦い匂いが混じっている。

「……やめとこう」

なぜか危険だと感じた。

その直後。

ガサッ!

背後の茂みが揺れた。

「!」

ハルが振り返る。

茂みの中から――

一匹の小さな狼のような生き物が姿を現した。

だが、普通の狼ではない。

額に小さな角が生えている。

「……え?」

ハルは息をのんだ。

角狼もハルをじっと見つめる。

そして――

グルルル……。

低い唸り声。

「いやいやいや……」

ハルは一歩後ろへ下がった。

「俺、武器なんて持ってないぞ」

角狼が地面を蹴った。

「来る!」

ハルはとっさに横へ飛び退いた。

角狼が通り過ぎる。

「危なっ……!」

その瞬間だった。

ハルの鼻に、強烈な匂いが届いた。

血。

そして――毒のような匂い。

「……待て」

ハルは角狼を見る。

「お前、怪我してるのか?」

角狼の前脚から、わずかに血が流れていた。

その匂いの奥に、腐ったような異臭が混じっている。

「毒にやられてる?」

角狼が再び唸る。

だが、先ほどほどの勢いはない。

ハルはゆっくり両手を上げた。

「攻撃しないから」

もちろん、角狼に言葉が通じるはずはない。

それでもハルは近づいた。

「……これだ」

近くに生えていた草から、角狼の傷と似た匂いを感じる。

「この草……毒を抑える匂いがする」

ハルは草を摘んだ。

自分でも不思議だった。

なぜ分かるのか。

けれど、鼻だけは確信していた。

この草なら大丈夫だ。

そしてハルは、まだ知らなかった。

この異世界で彼に与えられた力が――

《超嗅覚》

という、誰にも真似できない特殊能力だったことを。

そして、この角狼との出会いが――

「鼻の勇者」と呼ばれる少年の、最初の仲間との出会いになることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ