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第25.5話 夜風とキャバ嬢

#第25.5話 夜風とキャバ嬢



居酒屋に向かって歩き出した三人の足取りは、

戦いの熱をまだ少し引きずっていた。

乾きかけた血の匂い、折れた空気。

路地裏を抜けた夜風が、火照った頬をそっと撫でていく。


それでも――その中を歩く彼らの足取りは、妙に軽かった。


「……鼻、止まったか?」


前を歩くナオが、肩越しにルカをちらと見る。

ルカは片手に丸めたティッシュを持ったまま、わずかに顔をしかめた。


「うーん……止まりかけだけど、ズキズキする……てか鼻息で飛ぶんだよな、これ。」

「飛ばすなよ。」

「いや、これ反射だから。物理現象。」


ぼやきながらも、ルカの声にはすでにいつもの調子が戻りつつある。

その隣で、臣がニヤッと口角を上げた。


「血が出るほどぶん殴り合ったあとの空気って、案外悪くねぇよな?」

「うるせぇよ。鏡見ろよ、血の涙出てんぞ。」

「お前もだって。」


くだらないやりとりが、小さな笑いに変わる。

三人の足音が、ゆっくりと夜のアスファルトに重なっていった。


灯りのない横道を曲がったところで、臣がふと声を上げた。


「で?もしキャバ行ってたらさ――

お前ら、どんな嬢がタイプなんだよ。」

「は?」


ナオが足を止め、振り返る。

ルカはティッシュ片手に、少しうんざりしたような顔をした。


「……何その振り。怖いんだけど。あと雑すぎ。」

「命のやりとりの後ってさ、

次は女の趣味を語り合いたくなんね?」

「……いや、なったことねぇよ。」

「そういうの、大事だろ。心のリハビリ。」


臣は義手でポケットをトントン叩きながら、口角を上げる。


「俺はな、面倒見よくてちょい強めな姐さん系が好きなんだよなぁ。

酒強くて、ツッコミ鋭いやつ。包容力あって、でも油断するとぶん殴られるタイプ。」

「……そのまま鏡に話してろ。」


ナオが無表情のまま返すと、ルカがふいに笑った。


「……あー、じゃあ俺はギャルかな。

アハハって、明るく笑ってくれる子。」

「……お前が選ぶそういう子、大概、裏で泣いてるタイプだぞ。」

「……なんで刺してくんの。」


間を置いて、ぽつりと呟くように言う。

その声が妙に真面目で、臣が吹き出した。


「はっは、ガチで刺さってんじゃん、ジュニア!」


臣の笑いに一瞬黙ったルカだったが、

小さく口角だけで笑ってみせる。


(……まあ、こういうのに臣がどう乗るか、見てみたかっただけなんだけどな。)


「うるせー……じゃあナオはどういうのがタイプなんだよ。」


不意の質問に、ナオはわずかに目を逸らして、小さくため息。


「……俺は、静かな子。あんま喋らないスレンダー系。」

「貧乳って言え。」

「言わねぇ。てか、胸が全てじゃねぇ。」

「「胸は大事」」


二人の声が綺麗に重なり、

一拍の沈黙のあと、三人揃って肩を震わせて笑った。


「てかさ、全員違うタイプなんだな。綺麗にバラけててウケるわ。」

――臣が肩を揺らしながら言えば、


「ギャル・姉御・無口って、どんなバランスだよ……」

――ルカが苦笑いで続けた。


「……指名、被らねぇな、これ。」


最後にぽつりと、ナオが呟いた。


三人の笑い声が、夜の通りにかすかに響く。

そのあとに――ほんのわずかな、静かな呼吸。


「……な?女の話すりゃ、大概なんとかなんだよ。」


臣が、ニヤリと笑って呟いた。


ルカが片眉を上げて、ティッシュを詰めた鼻の奥で鼻を鳴らす。


「……ずいぶん古臭い手口だな。」


声のトーンは軽い。

けれど、その瞳の奥には探るような揺れが残っている。


「なーに怖い顔してんだよ、ジュニア。

その鼻にティッシュ詰めてる状態で。」

「……やめろ、言うな。すべてが台無しになる。」

「もう十分、間抜けだ。」


また、ふざけた空気が戻ってくる。

けれど――その一瞬、空気に沈んだ“探り合い”の残り香だけは、

笑いと一緒に風に紛れていかなかった。

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