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第21.5話 狼貪虎視

#第21.5話 狼貪虎視



小さく震える電子音が、静かな室内に響く。


燈坂は机の上に置かれたスマートフォンを手に取り、液晶を一瞥した。

鷹宮忠勝。

表示された名を見て、眉がわずかに動く。


「――どうだった。」


応答と同時に、微かな通信ノイズの向こうから、落ち着いた声が届く。


『……薬の拡散に動いていた男、蜂須賀晶哉の死亡を確認した。』

「……そうか。」


短く返したが、声が、沈んでいた。


『ただし、背景までは追えていない。自殺だ。

死体は回収したが、何か掴めるかは……すまんが、そちらでも詰めてくれ。』

「……分かった。」

『以上だ、また詳細は送る。』


ピッ――。


通話が切れる。 無機質な音が、部屋に小さく残った。

燈坂はしばらく、スマートフォンを見つめたまま動かなかった。


そして、ふぅ、と長い息を吐きながら、背を椅子に預ける。

背中が重力に引かれるように沈み、天井を仰いだその顔には、疲労の色が濃く浮かんでいた。


「……結局今回も、何も拾えてねぇ。

あっちは死人、こっちは煙……ってか。」


低く掠れた声で呟く。

指の間から滑るスマホを、机の上に無造作に置き直した。


目を閉じ、ほんの一瞬だけ、力を抜く。

と、燈坂の肩に重く沈んでいた沈黙を、切り裂くように――

背後から、乾いた声が響いた。


「……へぇ。ルクシオンも頼りねぇな。」


燈坂が顔を上げるより早く、黒崎 臣が窓際の影からふらりと現れる。

カーボン義手をポケットに突っ込んだまま、口元だけで薄く笑った。


「……あ、違ぇか。頼りねぇのは“ジュニア”の方、だな。」

「……お前な……」


燈坂の眉がぴくりと動いた。

また始まった、という顔だ。


「……疲れるんだよ、ほんとに……お前の相手は。」

「鷹宮のオヤジが動いたから、俺も今回は期待してたんだよ。」


そう言って、臣は無遠慮に椅子の背にもたれかかる。


「……でもさ、今どんな顔してんだろうな、あの“ジュニア”くん。

大口叩いて任務失敗、挙げ句に自殺ショーのおまけつき。

いやぁ……見てぇなぁ、その顔。」


燈坂が眉間を揉む。


「おい、臣ぃ。……余計なこと、すんなよ。」

「してねぇよ。まだな。」


燈坂の声に軽く返しながらも、臣の目は、笑っていなかった。


「――ジュニアくんと、遊んでみてぇ…ってだけだ。」


臣がそう呟いた瞬間、


「……っ、おら……」


ガタン、と椅子が鳴る。

燈坂が無言で立ち上がり、

歩み寄って、臣の頭に――ゴンッ、と拳を落とした。


「っだー……。」

「……余計な火種を増やすんじゃねぇ、戦争になんぞ。」

「……じゃー冗談にしとくわ。」


臣は頭を撫でながら笑ったが、

……その目の奥に潜んでいたのは、

獲物を見つけた捕食者の――微かな、笑みだった。


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