第17.5話 スパダリ
#第17.5話 スパダリ
――これは少し前の、2人の日常。
朝、台所にて。
ルカが冷蔵庫の扉を開けたまま、やたらと重々しい顔で唸っていた。
「……んだよ、牛乳、切れてんじゃん……」
まるで裏切られたかのようなトーンでぶつぶつ文句を漏らしながら、
引き出しの中をごそごそと漁り始める。
リビングのソファでは、ナオがいつも通り無言で端末を操作していた。
ニュースか、何かの報告書か。
視線は画面から外さないまま、低い声だけが返ってくる。
「昨日、コンビニ行ってたよな。買っとけよ。」
「うっせ、あると思ってたんだよ……!」
反論というより、言い訳に近い声で返しつつ、
ルカは棚の奥から使いかけのインスタントコーヒーの瓶を引っ張り出す。
その弾みで、紙片が一枚、ひらりと床に落ちた。
「ん……?」
拾い上げて見ると、それは小さなメモ用紙だった。
書かれていたのは、ナオの整った字。
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・牛乳
・食パン
・ルカの好きなアレ(→ルカがいつも聞き返すやつ)
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数秒の沈黙のあと、ルカの口元に、くしゃっとした笑いがこぼれる。
「……おまえ、出来た嫁だな。」
にやけ顔で振り返るルカに、ナオはようやく顔を上げる。
しかしその表情はいつも通り――むしろ、いつもより一段階冷たい。
「うるせぇ。わがままハニーが居着いてるせいだ。」
「俺がわがままハニーなら、ナオはスパダリだな。」
「……のせようとしても無駄だ。」
ルカがうんざりしたようにメモを握りしめる。
でも、どこか嬉しそうな、その顔。
ナオはまた端末に視線を戻した――ふりをして、
実はルカの手元をちらりと横目で見ていた。
口元に浮かんだ、ごくわずかな笑みだけが、
“まあ、悪くねぇか”という答えを語っていた。




