第15.5話 その声に応えて
#第15.5話 その声に応えて
叉道街に入った瞬間、ナオは足を止めた。
張りつめた空気。 人気の少なさが、妙に不自然だった。
(……何かが、違う)
そんな気配を振り払うように、ナオはイヤーカフに触れる。
『ルカ兄、少し前にボスと連絡取ってたみたい。
まだ近くにいると思う。』
雪の声が、鼓膜に落ちた。
「了解。急がせて悪いな。」
『大丈夫、クラウンがいるからね。』
通信越しのやりとりだけでも、雪とクラウンの連携が伝わってくる。
どこか遠い場所で、背中を合わせ、街を“視て”いるのが分かる。
ナオは足を踏み出した。
雑踏の消えたこの街は、まるで息を潜めた獣の腹の中みたいだった。
(ルカ……)
あいつがどこまで一人で踏み込んだのか、まだ分からない。
だが、胸の奥に引っかかるものがある。
明確な根拠なんてない――ただ、分かる。
『…雪、ここ。ルカ兄に誰か接触してる。』
「…っ――どこだ?」
ナオは足を速める。
背後の雑音が遠のき、ただ、足音だけが街に響いた。
そして――
「……ぉ……」
そのとき、耳の奥で、微かに何かが揺れた。
風の音でも、ノイズでもない。
もっと、近くて、切実な――“声”。
「……ルカ……?」
足が、止まる。
一拍遅れて、イヤーカフに指を添えて通信を確認するが、声はない。
それでも、ナオの胸に、何かが突き刺さる。
(……やばい)
心拍が、跳ねた。
理由なんて、ない。 証拠も、兆候も、ない。
でも――呼ばれた。
確かに、あいつの声が、あった。
「……ルカっ!」
ナオは駆け出す。
通信も、ナビも、もう関係なかった。 ただ、その声のあった“気配”だけを追って。
「……ナオっ…!!」
聞こえた。
今度こそ、確実に。
息を呑むような緊張が走る。
そして――
視界の奥。
薄暗い路地の先に、膝を折りかけた男の影が見えた。
「っ……!」
瞬間、ナオはその身体を抱きとめる。
「……っ、ルカ、聞こえるか……!」
応答は、ない。
けれど、まぶたが、微かに震えた。
(――気を失った、でも)
まだ、生きてる。
ナオはその体重を支えながら、細く、息を吐いた。
「……雪、ミツさんに連絡!すぐにルカを連れて戻る!!」
何もかもが、混ざり合っていた。
見つけた安堵と、青ざめた顔への恐怖。
ひとりで突っ走ったルカへの怒りと、守りきれなかった自分への悔しさ。
でも――今だけは、迷ってる暇なんかない。
まだ間に合う。
今度こそ、"間に合わなきゃいけない"。




