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第12.5話 残滓

#第12.5話 残滓



最初は、光の中だった。


下校の途中、駄菓子屋の角を曲がると、いつもそこにいた人。

夕暮れを背にした笑顔。

紙袋を片手に、少し照れくさそうに言った。


「ルカちゃん、私ね、結婚するんだ。」


彼女の声は、風に乗って耳に残った。

ルカは、うまく言葉にできずに頷くだけだった。

なんだか胸がざわついて、でも、その理由が分からなかった。


---


夢は、そこから突然、場面を変える。


濁った空気。

裏通りに、誰かの呻き声。

足が、勝手に向かっていた。


いつもなら通らない場所。

見なければ済むはずの場所。


だがその日は違った。


汚れた壁に、何かが蹲っている。


やせ細った体。

乱れた髪。

破れた服。


近づくほどに、心臓の音がうるさくなる。

そして、その女が顔を上げた。



――あの、お姉さんだった。


痩せこけた頬、焦点の合わない瞳、かすれた唇。


「……ルカ……ちゃん……」


その声を聞いた瞬間、呼吸が止まった。

声が出ない。

足も動かない。


お姉さんの手が、ゆっくりと伸びてきた。


ルカは――逃げた。


走った。無我夢中で。

その声からも、現実からも、すべてから。


振り返らなかった。

耳の奥に残る呼びかけを、振り払うように。


--- 


目が覚めたとき、ルカはベッドの上で荒く息を吐いていた。

汗が背中を伝い、シーツを濡らしている。


ナオがキッチンでコーヒーを淹れている音が、遠くで響いていた。


ルカは、開いた掌をじっと見つめた。


何も握っていないはずなのに、

そこにはまだ、“何か”の感触が残っていた。


「……まただ…、くそ。」


その呟きは、誰にも届かなかった。



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