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第5.5話 狼煙

# 第5.5話 狼煙


――何も、なかった。


気づいたときには、もうとっくに限界は過ぎてた。

でも俺は、気づかないふりをしていた。

“あと少し”にしがみついてるうちに、とっくに落ちてた。


──追い出されるって決まった日、

内側で、何かが崩れた。


怒ってた。誰に、なんて分からない。

でも、全部がムカついた。

荷物を抱えて歩く金髪の男が、やけに眩しくて、

笑ってる顔が、目の奥に焼きついて、苛立った。


……俺だけが苦しいなんて思いたくない。

でも、じゃあ、なんで俺だけ?



---


少し調べれば、出てくる出てくる。

過去のやらかし、自慢げなSNS、裏の顔。

クソみてぇなやつばっかじゃん。

……なのに、なんで俺だけ。


一人ずつ引きずり出して晒したって、

すぐにまた沈む。

ああ、俺は“こいつらよりマシ”だって思えたのは、

ほんの一瞬だけだった。



---


だからもう、これでいいと思った。

どうせ消えるなら、誰かに殺されるくらいがちょうどいい。

派手に嫌われて、ぶっ潰されて、

……終われば、それでいい。


投稿ボタンを押すたび、心臓が少し跳ねた。

“ここにいる”って、少しだけ叫べた気がした。


バズったって、何も変わらない。

飯もない、居場所もない。

ただ、静かだった。

何も返ってこないのが、むしろ心地よかった。


でもどこかで、

誰かが怒ってくれたら、

誰かが見てくれたら、

……そんな風に思ってた。


見てくれよ。

見つけてくれよ。

叩いて、殺してくれよ。


……クソは、俺だよ。



---


昨日も食ってない。風呂にも入ってない。

もう、寝る場所すらない。

身体から漂う自分の匂いが、

この世で一番気持ち悪い。


でも、自分で死ぬのはもっと嫌だった。

痛いのはもう充分だったし、

それでもまだ、

誰かに“終わらせてほしかった”。


――誰かが、

俺を「片付け」に来てくれたらいいって、

ずっと思ってた。



---


ノックの音がした。

ビクッと体が跳ねる。

来た、と思った。


覗き穴の向こうに、黒髪と金髪の男。

でも、“普通”じゃない。すぐに分かった。


……これが、俺の死神か。


指先が震える。

でも、口元は勝手に笑ってた。

泣くのと同じ顔だったかもしれない。


「……入るぞ。」


──やるなら、やれよ。

……俺を、終わらせてくれ。



クラウンが見ていた世界は、

こんなにも冷たくて、苦しかったのかもしれない。


……けれど、彼の「終わらせたい」は、

狼煙となって、さまざまなものを呼び寄せていく。


次回――

バトル、バトル、そしてバトル。

そして、中毒性の高い“彼”が、ついに登場します。


お楽しみに。

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