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広間ではまだ副宰相の捕物が続いていた。
なぜなら、副宰相が声を上げたからだ。
「ちっくしょー! 私は命令されてやっただけだ! 皇后だ。皇后に命令されたんだ!」
それを聞いた広間は騒然となった。
「副宰相! 往生際が悪いぞ! 僕の母上を愚弄するとは恥を知れ!」
ジョシュアが叫ぶ。
"ちっ、マザコンが"
ミツキが毒を吐いた。
そこで、副宰相の口から驚くべき内容が飛び出した。
「貴様ぁー! ジョシュア! そもそもお前が母親に頼んだんだろ!」
「な! 馬鹿を言うな!」
ジョシュアは真っ青になって反論するが、副宰相は続ける。
「みんな聞け! 今回の件は、皇太子がシャーロットを力ずくで手に入れたくて、皇后に泣きついたんだ!
皇后は息子が可愛いくて計画を立てた。
私を投獄すると言うのなら、皇后と皇太子の悪事を全て暴露してやる!
この二人はいくつも犯罪をおかしてる!
ジョシュア! お前も道連れだーー!」
「や、やめろーー!」
ジョシュアは泣きそうになりながら叫んだ。
すると、副宰相を捕らえている憲兵隊長が口を開いた。
「……殿下。いずれあなたも断罪されなければならないようですね」
「あわわ、あわわ……」
ジョシュアは真っ青で視線が定まらない様子。
そんなジョシュアを見て、周囲の貴族達は口々に囁き始めた。
「何てことかしら。殿下はもう終わりね」
「皇太子が犯罪を犯すなど、国の恥だな」
「それにしても皇后様に縋るなど、つくづく情けない方だ」
そんな声を聞くと、たちまちジョシュアの顔色は変わった。
「……しょう……くしょう、畜生、畜生、畜生……。
……せいだ。……えのせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ……」
ジョシュアはぶつぶつと何かを呟き始めた。
そして、徐々に歩きだすと──。
「お前の! お前のせいだぁーーっ!」
ジョシュアは私に向かって走り出した。
突然のことで誰もジョシュアを止めようとはしない。
ジョシュアは、走りながら腰のレイピアに手を掛けた。
「なっ!」
予想外の事態に、私は驚いた。
"危ない! ローズ!"
ミツキが叫ぶも、私は動けない。
逆上したジョシュアは私の前まで来ると、レイピアを鞘から抜いた。
「死ねぇぇ! ローズぅぅぅ!」
まずい!
私は一瞬、スローモーションのように景色が止まった。その時──。
"あたしの推しに触んな! マザコン野郎!!"
ミツキの声が聞こえたかと思うと、まるで私の身体は爆発したように熱くなって──。
"肘当て呼吸投げ"
私の右手はさっと、ジョシュアが抜刀した右手首を抑えた。
そして、すぐさま私の身体は回転してジョシュアの側面に立つと、ジョシュアの右肘を下から抱えこんで、ジョシュアを前方に投げた。
ジョシュアは耐えきれず、レイピアを離して前転し、背中を床に打ちつけた。
「うげぇっ!」
広間からは歓声が上がる。
「おおー!!」
そして、私の頭の中でミツキが言った。
"合気道有段者をなめんな!"
「ぐっ……」
ジョシュアは床に這いつくばっている。
周囲にはさぞかし無様に映っていることだろう。
私は、取り上げたレイピアをジョシュアに向かってシュッと突きつけた。
「ひっ!」
刺されると思ったのだろう、ジョシュアは情けない声を出した。
私は口を開く。
「──ジョシュア。貴方は今まで何一つ私を喜ばせようとしてくれなかった。
けれど、今日、初めて、貴方は私を喜ばせてくれたわ」
私は圧倒的にジョシュアを見下して──。
「貴方が、想像以上に愚かで良かった」
「くっ……」
ジョシュアは諦めたようにうなだれた。
"ふふ、やっぱ、ローズはかっこいいわ!"
ミツキが笑ってそう言った。