第9話「魔王vs女神」
「勘違いするな。お前の為じゃない、コイツが気に食わないだけだ」
やだ。この魔王様ツンデレかしら、惚れてしまいそうだわ。
そんな風に思ったのもつかの間、女神様に一瞬でボコられ、今は俺の横で正座をさせられている。
俺も同じように正座をさせられている。多分女神の力だろう、動くことが出来ない。
「オーッホッホッホッホ、その程度でこの私に逆らおうなんて、オーッホッホッホッホ」
もう完全に悪役だろお前。
しかし現実は無常なり、この悪魔を倒してくれる正義の味方が現れる事なんてない。
「そういえば魔王。アンタもコイツと同じ異世界の人間なのよね」
「だからどうした?」
「アンタも私に忠誠を誓うっていうなら、コイツと一緒に私の小説を書くお手伝いをさせてあげても良いわよ」
「断る!」
「そう。せいぜい後悔しない事ね」
そう言うと、新たな水晶を持ち出し映像を映し始めた。
また部屋の映像だけど、これは俺の部屋じゃない。部屋の中には所狭しと魔法少女みらくる☆くるりんちゃんのフィギュアが飾られており、壁にはポスターが隙間なくビッチリと貼られている。
羨ましい位のオタク部屋だ。俺は家族の目を気にしてここまでやれないというのに。
『今日もみらくる☆くるりんちゃんが大暴れだぞ☆』
恐ろしく気持ちの悪い声が聞こえて来た。
画面がゆっくりとスライドしていくと、パソコンに向かっている魔王の姿が見えた。
パソコンの画面に映ってるネトゲーはPS●2か。くるりんちゃんっぽくメイキングされたキャラを操り、この凄い速度でタイピングを打つ魔王。
ハイテンションでくるりんちゃんの決めセリフを呟きながら、同じセリフをチャットで打つ。なりきりプレイか。
まぁなんだ。この程度なら俺は気にしないよ。それだけそのキャラが好きなんだろうし。
だが隣に居る魔王は明らかに冷や汗を大量に流しながら、バツの悪そうな顔をしている。
『はぁ? お前ちゃんとスプレッドシート読んだのか? 火力職なのにDPSゴミじゃねぇかコイツ!』
味方にキレだす魔王。その気持ちはよぉくわかる!
キレてぶつぶつ言いながらも、チャットの画面ではくるりんちゃん口調を崩さずに丁寧に注意する辺りは流石だと思う。
結局仲間の人が攻略情報を見ないで参加していたことが発覚すると、「ごめんね、ちょっと用事出来たから抜けるね」と言ってパーティを抜ける魔王。
そのまま魔王に釣られて他の人も抜けていく。そして抜けた人全員にwisを送り調べてなかった人以外を集め、再編成して挑み始める。
「コミュ力があって良いじゃないか」
あからさまなプレイスタイルにドン引きしつつも、精いっぱいの褒め言葉を魔王にかける。
実際になりきりキャラで高難易度クエストに行けるメンバーを集めるだけでも対したコミュ力だと思うよ。この手のなりきりスタイルってネトゲーでは敬遠されがちだから。
スプレッドシートとかも用意してるし、魔王とならネトゲー一緒にやってもいいかなとさえ思う。
相変わらずキモイなりきりセリフをブツブツと呟きながらも、高難易度のボスを作業で次々と倒して周回していく魔王。
『皆今日もありがとう。幸せくるくる、みらくる☆くるりん♪まったね~』
そう言ってルームを解散していった。うん、きついけどこの程度問題ないんじゃないかな?
女神はバカ受けしてゲラゲラ笑っているけど。まぁ全然俺と比べればマシだよ?
『ところで、くるりんちゃんは彼氏いるの?』
『ううん、居ないよ。だって私ブスだし><』
は!?
ちょっと待って、彼氏いるの? って魔王お前男やんけ?
しかも何でブスだしとか答えちゃってるの? おかしくない?
『それより今日もくるりんちゃんの写真が見てみたいです!』
『え~、どうしよっかな~?」
写真って、野郎の写真何か見て喜ぶのかコイツら?
いや、まさか。魔王お前……
『はい、今日のくるりんだよ。恥かしいから保存しちゃだめだゾ☆』
『キター』『くるりんちゃんマジ女神』『(*´Д`)ハァハァ』
そこには、魔王には似ても似つかぬ少女の下着姿の画像が貼られていた。
ネカマな上に、信じさせるために人の写真使うってお前……
ネカマで姫で他人の写真使いながら「私ブスだし><」って、最高にゲスだ。
「うあああああああああああああ、見ないで、見ないでくれえええええええええええ」
叫び出す魔王。そりゃあこんな過去をばらされるのは流石にキツイ。
「おい、女神。いい加減こんなことはやめるんだ!」
「やめるも何も、本命はこの後なんだけど?」
本命って、まだあるのかよ。
そのままネトゲーが終わり、本棚から薄い本を取り出す魔王。魔法少女みらくる☆くるりんちゃんのスケベブックか。
内容は至って健全なR18、シチェーションも妹なら別に良いと思うけどな。俺のレ●プ物よりは……
そして映像の中ではナニを始める魔王。
「も、もうこの程度では動じないでゴザル」
半べそをかきながら語尾がおかしくなった魔王を見て、女神がまたもはニヤァと下品な笑みを浮かべて映像を一時停止させた。
「流石魔王様ですねぇ、この程度では動じないのですか?」
そう言って静止画像が段々と部屋の右へ右へと動いていく。そこには半開きのドアが、ブルータスお前もか!
しかしドアの隙間から見ているのは母親ではなく少女だった。歳は中学生くらいでポニーテールは活発な印象を与える。顔は割と美少女に部類に入るだろう。
だがその少女の顔に見覚えがある。まぁ見覚えがあるも何も先ほどの写真に写っていた下着姿の少女だから。
「ほらほら、妹さんに見られていますよ」
もはや叫ぶことも出来ず、魔王は口をパクパクさせながら完全に放心していた。
そして早送りされると、魔王が居なくなった部屋で魔王の妹が物色を始める。
「だ、だめだ。お兄ちゃんの部屋に入っちゃだめだ!」
そこで魔法少女みらくる☆くるりんちゃんの薄い本を見つけ、絶句している。
リアル妹が居るのに妹本って、そりゃあきついよなぁ……
そのままPCを起動させ、フォルダを漁り始めるとソレはすぐに見つかった。そう魔王が妹の下着姿の写真を大量に入れてあるフォルダーだ。
『いやああああああああああああああああああああああ』
泣き叫ぶ魔王の妹。
ドタドタと足音が聞こえてくる。魔王の妹の叫び声を聞いて両親がかけつけたようだ。
部屋にある本とPCを見て絶句する両親。母親は魔王の妹を強く抱きしめながら泣いており、父親は顔をゆでだこのように真っ赤になっている。
「うああああああああああああああああああああああああああ」
「ちなみに魔王さんはこの直後、この世界に転移してしまったようです」
「うあああああああああああああああああああああああああああ」
必死に叫ぶ魔王。それを女神がニヤニヤしながら近づいていく。
「叫んでも脳内に聞こえるように出来るんですよぉ」
「うああ……あっ……悪魔!」
「悪魔だなんて、そんな事言われると傷ついちゃいます。あ、そうだ、それなら元の世界に転移で帰らせてあげますよ。ほらほら転移魔法陣起動」
魔王の足元に魔法陣が浮かび上がり、青白い輝きを放ちだす。必死に「やめてくれ」と叫びながら懇願する魔王に対しニヤニヤ笑っている女神は、やはり悪魔か邪神にしか見えない。
「あ、あれ? どういう事よ!」
完全に心が折れた俺と魔王は虚ろな気分で女神を見ていたが、もう抗うのは止めよう。そう思っていると勝ち誇っていた女神が急に慌て始める。
気が付けば水晶は無くなっており、ノートPCを開いて何やらカチカチやっている。
「こんなの絶対おかしいよ!」
女神の叫び声が魔王城に響き渡った。