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第10話「なろうの女神」

「どうなってるのよ!」


 ノートPC相手にブツブツと文句を言っている女神。何が起きたのかは分からないが、体は自由を取り戻していた。

 とりあえず地面に座ってノートPCを操作する女神の右隣まで歩いていった。特に何かしようとしたわけでなく、何となく気になったから見に行っただけだ。

 パソコンの画面を見ると、小説家になろうのページが映し出されていた。女神が今書いてる小説のページだろう。

 ブックマーク数は……おぉ、3桁もあるじゃないか。だ女神の割りには結構やるな。そう思って見ていたが様子がおかしい。

 女神が更新ボタンを押すたびにブックマーク数が減っていってるのだ。


「おっ、なろうか」


 体の自由を取り戻した魔王が、女神の左隣に立っていた

 小説家になろうの事を「なろう」と略すと言う事は、魔王も小説家になろうを利用した事があるのか?

 へー、と声を出した魔王が更新ボタンを押すたびにブックマークが剥がれて発狂する女神を見て、不思議そうな顔をしている。


「これは、もしかして女神が書いた小説か?」


「あぁ、俺は女神が小説のネタにするために異世界転移させられたんだ」


 死んでるからこの場合は転生と言うべきか?

 でも体は元のままだし、実は死んだのを蘇生させて転移の可能性もあるけど。それはどっちでも良いか。

 そんな風に話している俺達の声が聞こえていないのか、それとも興味が無いのか女神はパソコンと睨めっこをしたままだ。


「小説の為に転移って。もしかしてお前が今までしてきた冒険って、俺を倒すとかじゃなくて小説を書くためだったのか?」


「ま、まぁそんな感じ? リアリティが欲しいからって理由で異世界に飛ばしてあげると言われてさ」


「……なんかなろうのファンタジー系に出てくる悪役みたいだな」


「それな」


 先ほどまでの女神のテンションとか完璧に悪役だったし。

 ところで、一体この女神は何をしてしまったのだろうか?

 次々とブクマが剥がれるなんて中々無いけど。


「もしかして。もうヒロインが死ぬ展開で更新しちゃった?」


 女神を呼んだ時に、来るまでに割と間があった。

 もしかして更新作業中で、投稿が完了したからコイツは強気で俺に「用済み」と伝えに来たと言う事か?


「そ、そうよ!」


 あー、やっぱり。それで絶賛炎上中と言う事か。


「なろうは鬱展開を嫌う人が多いのに、いきなりヒロインを殺しちゃダメだろ」


 魔王、殺したのはお前だぞ。


「うるさいわね! アンタが殺すからいけないんでしょ!」


 そして殺すように誘導したのはお前だ。

 あっ、ついにブックマークが2桁になった。

 感想欄にコメントが増えてるみたいだけど、何が書いてあるのか大体想像がつく。


「ど、どうしよう。これ一発逆転で読者が帰って来る展開何か出来ない?」


 女神は目に涙を溜めながら、縋るように俺達に聞いて来るがこれはもうどうしようもない。

 

「無理だな」


「無理だろ」


 一旦離れた読者を再び呼び戻すのは相当難しいと思う。

 もし何か一発逆転の展開が作れて新規を呼びこめたとしても、やはりヒロイン殺しの回でブックマークが剥がれてしまうだろう。せめて殺すのなら何らかの死亡フラグをちゃんと立てておかないと。


「……もういいわ」


「えっ?」


 青白い光が魔王を包んでいく。

 突然の事で驚くも、その光は一瞬で消え、魔王は自分の体をペタペタと障りながら異常がない事を確かめている。


「コイツに与えていた時間の流れを遅くするチートとか魔王のアンタに全部あげたから、あとはその女と一緒に国相手に復讐でもなんでも勝手にすれば良いわ」


 突然チートを授かり、魔王は目を丸くして女神を凝視している。

 その女と一緒にって、俺はどうなるんだ?


「アンタは次の作品書くために、私と行くわよ」


「次の作品って、今書いてる作品はどうするんだよ?」


「……それは良いアイデアが浮かんだら続きを書くわよ」


 必死に目を逸らしながら「やる気はあるのよ、でも今はほらそういう気分じゃないし」と言い訳を続けている。それ絶対に書かなくなるやつだから。


「いや、エタらずに最後まで書けよ」


「うるさいわね! さっさと行くわよ」


 反論をしようとする俺だが、女神の癇癪と同時に足元に魔法陣が浮かび上がり。問答無用で異世界へ飛ばされた。

 その後、俺は女神と色々な異世界で色々な物語を作り続けた。



 ☆ ☆ ☆



 気が付くと自分の部屋に居た。


「あれ、俺は死んだはずじゃ?」


 口に出して違和感を感じた。なんで俺は自分が死んだと思っているんだ?

 確かネトゲーで味方にキレてたらマウスを落として。そうだ、その時マウスを拾おうとしてケーブルに引っかかりパソコンが落ちて来たんだっけ。

 自分の顔に目がけて落ちて来た気がしたけど、そのパソコンは地面に居る。もちろん俺の顔に当たった様子は無い。

 ペタペタと顔を触ってみるが何か外傷があるようには見えない。鏡を覗き込むとそこにはナイスガイ、とは言い難いいつも通りの俺が映っている。

 なんだろう、何か凄く長い時間を過ごしてきた気がするけど思い出せない。これが世にいう厨2病と言う奴だろうか? それなら俺は相当イタイな。

 小首を傾げながらもパソコンを机の上に戻していく。起動ボタンを押すと問題なく動いた。


「なんだかネトゲーする気分じゃなくなったな」


 いつものネトゲーは起動させず、適当に何するわけでもなく適当にネットを見ている。

 ニコニコ動画を見ながら、ふと思い立った。

 

「小説、書いてみようかな」


 小説を書いた経験は無いけど、普段から小説のような話の妄想はしているからそれなりに自信はある。

 そうだな、例えば異世界転移で言語チートを持った主人公が、解読されていない古代文字をいきなり解読して、それを見た冒険者のおっさん達と一緒に冒険するお話とかどうだろうか?

 戦士さんマジカッケーっすとか応援しながら旅を進める話だ。うん、ダメだな。

 テンプレ外し過ぎだろ! そもそもおっさんってどこ需要だよ。

 じゃあ美少女にするか? いやいや、美少女を出せば良いってもんじゃない。


 主人公が強くないとダメだよな。

 こう、なんていうか。剣道で全国大会優勝した高校生がトラックにはねられて異世界行っちゃうとか。

 それで異世界についたらチート持ちになっていて、そこで女の子の悲鳴が聞こえるから助けに行ったら、なんとその女の子はレ●プされてました。うん、これもおかしいな。

 

 先ほどからテンプレを考えているのに、何故かテンプレから外れていく。

 読者だった頃は「なんでそんな展開にしたんだよ」とか他人の書いた小説を鼻で笑っていたけど、いざ書いてみると思った通りに書けないもんなんだな。

 そうだ。女神が小説を書くけど毎回テンプレから外れてツッコミを入れるギャグ作品を書いてみるか。

 これならいくらテンプレから外れても、女神のせいにして突っ込むだけで良いし。

 タイトルはそうだな。



 『なろうの女神』

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