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二つ一つと儚く散る

サッちゃんはイッちゃんと遊んで帰りました。今度来る時にはお土産を持って来てくれるそうです。楽しみなのです。

イッちゃんが『また来る気かよっ!?』と怒鳴ってました。そしたらサッちゃんが悲しみの余り再びイッちゃんに殴りかかっていました。

イッちゃんは服がボロボロなってましたがサッちゃんは心がボロボロになっていました。

こうやってお互いの感情をぶつけ合い、男同士の友情?愛情?は育まれてゆくのです。一つ残念なのはここが夕日が沈む川原でないことです。

だからサッちゃんには場所を正しく選ばないと駄目なのですと、コッソリ教えてあげました。

私の助言にサッちゃんは涙ながらに感謝していました。私はまた一歩、良い女になりました。

でも私は悪女でもあるのです。私の情報はタダではないのです。そんなお手軽の安い女ではないのですよ。だから情報の対価にお土産+α(王室御用達銘菓)を貰うのです。

悪女は対価以上の物を貢がせる職業なのです。


サッちゃんが私の助言を受けてようやく自分の間違いに気付いてくれたので、イッちゃんとの痴話喧嘩?をやめて意気揚々と帰っていきました。

グッタリしたイッちゃんにもサッちゃんが帰るように計らってくれてありがとうと感謝されました。


今度は夕日が沈む川原で再会なのですが、イッちゃんには内緒なのです。 'さぷらいず' なのです!


イッちゃんには感謝の言葉より行動で示してもらう為、下着作成を強制依頼しました。

イッちゃんは無精無精ながら作ってくれるそうです。

これで旦那様も悩殺出来ます。


サッちゃんにはお土産+α(王室御用達銘菓)。

イッちゃんには下着。

旦那様には下着IN私をプレゼントにメロメロ。


ふっ。これぞ一石二鳥ならぬ一石三鳥なのです。









そして完璧な戦装束を身に包んだリンは決戦を目前に控えていた。

真っ赤なベビードールは女の局部しか隠されず、赤に透けた白い肌が強調されている。

可愛らしいデザインの赤いベビードール。


そこにはリンの体型に相応しくない不自然な二つの塊がより強調されていた。

何を隠そうリンの似非胸である。


当初ラードを使用するはずだった胸の材料はイチの断固反対により阻止され変更された。

しかし胸を諦めるリンではない。


二人はある食材で妥協した。


柔らかく、甘く、儚く、夢がつまったものへ…………


…………しかし二人は忘れていた。


それを身に付ける(リン)が大層な甘党でありることを…………









そして迎えた夜本番。

寝室にはキングサイズのベット、本棚、ソファー。テーブルには一目でわかるラベルが擦りきれた年代物の高級ワインと光輝くクリスタルグラスが二つ。

いかにもな貴族らしくが品があり、質ありな高級品な家具はけして成金趣味の金銀豪華絢爛な家具ではない。

シンプルで実用的でありながら細部には彫刻や細工が施されており、名ある職人が丹誠こめた品々だと一目で分かる。また家具のみならずカーテン、絨毯、照明、グラス等一つ一つの品が王家へ献上してもなんら可笑しくない品で品良く室内がまとめられていた。


そんな寝室にリンではなく何故かイチが呼び出されいた。


「兄さん…………僕は何から突っ込めばいいの…………」

「?」


「?じゃっない!これから嬢ちゃんが突撃して来るのが分かっていて、どうして僕を呼びつけたっ!?嬢ちゃんなんて『期待しながら待つ旦那様。そして夜這い勧告しながら中々姿を現さない私。きっと旦那様はムラムラするのです!これぞ悪女秘伝の奥義【焦らしプレイ】なのです!』なんて言ってたんだぞ!焦らされてムラムラするどころか、こっちは何時現れて何をしでかすか分からない自称悪女(リン)に焦らされてハラハラしてるわっ!……………こんなことなら嬢ちゃんの焦らしプレイ待機場所に僕の部屋を譲らなければ良かった……」


長台詞を息継ぎなしにイチは言い切ったが、ちゃっかり自分も夜這い計画にオーダー下着作成、似非胸作成補助、待機部屋(イチの自室兼作業場)提供の協力をしていた。

これもあれもリンの為………………とは言わず、普段澄ましているアレスをギャフンと言わす為である。


……………なのにアレスがギャフンとなるどころか現状はイチがギャフンとされていた。


「そもそも何だよ!この寝室はっ!!」


イチが指差す方向にはファンシーなウサギのぬいぐるみが我が物顔でベットに鎮座していた。


それだけではない。


骨董品である青磁の花瓶には毒草と聖花が混在され、テーブルにはワイン以外に猫の手マグカップが置かれ蜂蜜入りホットミルクがほかほかと湯気を上げている。そして床にはこれぞまさしく宝箱と言わんばかりの豪奢な箱は蓋が開けられたままになっており、猫ジャラシやボール等の玩具が入っていた。


一つ一つ品がセンスがあるのに、そこで使用、設置されている物が残念過ぎる。


「リンのウサギのぬいぐるみだけど」


指差された方向を見るもアレスはなに当たり前のことを聞いてるの、とっばかりに視線をウサギからイチへと戻す。アレスはベットにファンシーウサギぬいぐるみが居ることを当然のことのように受けとめていた。


が、それだけでイチが騒ぐわ………けはあるが、それだけでここまで騒ぐのには別の訳があった。


「違っーう!そうだけど違うの!下っ!ベットの下!!何かはみ出してるんだけど!!何っ!?なんなのっ!?」


可愛らしいウサギのぬいぐるみの下からどす黒いナニカがはみ出していた。

干からびたのか、元からかは不明であるが、黒くて、細くて、虫の脚にも見えるが大きさは成人男性の手くらいある。

それが狙ったかのようにファンシーウサギぬいぐるみが鎮座する下から少しはみ出している光景は恐怖を及ぼす。


もはやイチには可愛らしいウサギが腹黒いドヤ顔したウサギにしか見えなかったが、そんなイチの心情に配慮するアレスではない。


「ん?ああ、これか。いつもの事だよ…………………死んでると気配がないから分からなかったな……」


またしても、さも当然のことのように返答する。


「いつも!?これが日常的なの!普通なのか!!しかも何っ!?後半の台詞ボソリと言わないで!言うなら聞こえないよう配慮して!何それっ!?生き物!?生き物だったの!?」


イチは混乱状態に陥った。


だがアレスにはイチが何故こんなに騒ぐかが分からなかった。


猫には習性がある。

暗くて、狭い所が好きだったり、狩った獲物を主人に自慢したり等々。

猫であった時からリンはお気に入りをベットの下に隠す習性があった。たまに隠したことさえ忘れているが、再度隠す際にその存在に気付くことも多々ある。その時には既にお気に入りではなくなっているので、躊躇わず邪魔物のごとく処分していた……………マァムが。


アレスにもマァムにとっても些細?なことであった。

ちなみにイチが見た黒い物体はリンとサイが追いかけっこして遊んでいた時にしとめた盟友記念魔物であったが、幸か不幸かそのことをイチは知らない。


「煩いね。夜なんだから静かにしたら?はぁ、落ち着いてこれでも飲みなよ」

「落ち着けるか!そして常識知らずが常識を諭すなっ!」


ワインをそそいだグラスを渡されるも、イチの視線はベットの下に釘付けだ。

庶民がけして飲めぬ高級ワインも台無しだが、滅多に飲めない極上品であるのも確か。

イチはそんな極上品を一気にあおった。

人はそれをやけ酒と言う。


「そんなことより」

「そんなこと!?」


「はぁ、俺が態々話してあげてるんだから少し黙りなよ」

「……………(もう嫌)」


「明日、君とリンはランスロット侯爵令嬢主催の茶会に出席してもらうよ。ついでに俺は馬鹿が馬鹿をやらかして馬鹿な協力をした馬鹿を潰しに王宮に行くから」

「はっ?」

「君は伯爵家長子イチ=アイリス=カリフとして行きなよ」

「えっ?ちょっと、はっ?」

「令嬢は好きにしていいから」

「いや、待って!展開についていけ……」

「リンに近づく男はきちんと始末するんだよ。君が潰しがっていたシュークの父親は俺が代わりに潰してあげるからイチは娘の方で我慢しなよ」

「いや、いや、いや、いや、ちょっと待てぇっ!」

「嫌なの?娘だけで我慢出来ない?じゃあ次期ランスロット侯爵子息もあげるよ。本当にイチは我儘だね」

「僕は駄々っ子じゃない!それに何なのその言い方!?僕は両刀無節操野郎かっ!!」

「えっ、違うの?」

「違うわっ!!」


イチは脳内情報過多で息切れ、動悸、目眩に襲われながらも必死に脳内細胞を活性化し、アレスの決定事項の事後承諾の内容をどうにかまとめようとした。


ランスロット侯爵。

→シュークの父親。


馬鹿(ランスロット侯爵?)が何やらやらかした。

→兄さん馬鹿撲滅運動施行予定。


ランスロット侯爵令嬢より茶会へ招待される。

→嬢ちゃんと僕が行くのは決定事項。


僕は伯爵長子イチ=アイリス=カリフとして茶会に強制出席。

→僕の人権なし。


ランスロット侯爵令嬢と、ついでに子息も好き放題にしていい許可書発行。

→断じて僕の我儘ではないことをここで宣言する!


脳内情報整理完了しました。


「意味わからんわっ!つーか僕が不憫なことだけを悲しくも理解して泣ける…………」

「鬱陶しいから泣くなら自分の部屋で泣きなよ。用件も伝えたし部屋に戻っていいよ……………リンがそろそろ来る………」


バタンッ!

アレスの言葉は扉に遮られた。


「旦那様お待た…せ………なんで、なんでイッちゃんが旦那様といるのですか!?私という者がありながら浮気ですか!私に焦らしプレイを推奨しながら自分は旦那様と二人っきりになるべく虎視眈々と狙っていたのですね!イッちゃんの裏切り者!このっ泥棒猫っ!」


「どうしてそうなった!?」


「…………信じていたのに……まさかイッちゃんが旦那様を……なんて……」

「………イチ………悪いけどイチの気持ちには答えられないよ。俺にはリンが居るからね」

「……旦那様」

「……リン。愛してるのは君だけだよ」

「っ~旦那様!私も……私もですわ。お慕いしております」


「やめろーーーーーーーーーーーっ!!!!!」


「イッちゃん違うのです!そこは『そ、そんな……どうして……どうしてよ!』と泣き叫ぶところなのです」

「そしたら隠し持っていた武器でリンに斬りかかるんだよ。その時『なんでっ!なんでっ!あんたなんかっ!!』を忘れずにね」


イチは抱き合う二人からダメ出しされた。


「僕は愛憎劇の悪役じゃない!しかも女役かよっ!ふざけんなっ!!」


「イッちゃんノリが悪いのです。それでは舞台女優にはなれないのです」

「ノリが悪いね。端役も出来ずにして主役が務まるとでも思ってるの」


「そんなの望んじゃいねーよっ!だいたいさっきから何なの!兄さんもノリ良過ぎっ」


「イッちゃんにも見せたのですよ」


リンがアレスの本棚から『悪女の条件』を取り出し目的のページを開いて、はいっとイチに渡した。


そこにはドロドロ渦巻く女の愛憎劇が綴られていた。

そして最後にこう締め括られていた。


『悪女とヒロインは表裏一体よ。立場を逆転するのが悪女の真髄。自称ヒロインは恋のエッセンスに必要不可欠。燃える恋をしたいそこの貴女!倦怠期に憂いる貴女も!ヒロインとの修羅場を作り上げてこそ悪女よ!刺激的な体験がより一層男性との仲を深めるわ☆………………………ヒロインがいないのなら自称ヒロインを作れば良いのよ!』


最後に私良いこと言ったとばかりに書かれた書物。どこぞのお姫様かいなっ!と突っ込みをいれたい。嫌あれより酷い。

某お姫様は世間知らずの箱入り娘で庶民の暮らし等知るはずがなかった。だから『パンがなければお菓子を食べればいい』等と言ったのであろう。

だがこの本の作者は知っているにもかかわらず傍若無人な行為を推奨、しかも策略的であった。


強制的に自称ヒロインの立場?役柄?に位置付けられたイチは項垂れるしかなかった。


出来るならリンに悪影響しか与えないこの本を今すぐに破り捨てたい。


しかし現実は無情である。


そんなことして見ろ。もしそれでリンが泣きでもしたら、アレス+α(シューク(精霊)+使用人,s+自称祖父(魔獣))による制裁措置がとられる。

まさにヒロインなはずが悪女の立場に早変わり。しかも修羅場という名の一方的な殺戮場になること必須。


イチは大人な対応=スルーすることにした。


現実はいつも残酷で過酷だ。

試練など乗り越える勇気はイチにはない。


本から目を離しリンを見るとそこには不自然な胸。

似非胸であるからして不自然なことは知っていた。だがより不自然な形になろうとは思わなかった。


リンの胸はまっ平らからボインボインのメロンサイズになっていた。

いくら何でも盛りすぎる。


柔らかく、甘く、それでいて色、形も調整された似非胸はそれは素晴らしい出来であった。

そこには涙ながらに(けして喜びではない)形成、着色した料理長の思いが伝わってくるほどの完璧な似非胸。


肌色に小さなピンク色の乳首に関してはリンが料理長を試行錯誤させ何回もやり直しをさせたほどだ。

余談だが似非胸完成後の料理長は灰になっていた。


しかし残念だ。非情に残念な結果になってしまった。


リンの二つあるはずの巨乳が片方のみになっていた。


「……………特大マシュマロにしたのは間違いだったか…」

「誘惑する前に誘惑されたみたいだね」

「甘い誘惑に負けたのです。美味しかったのですよ」


今回の多大なる被害者は料理長であった。




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