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箱庭シンドローム  作者: 彩音
1章 空白の記憶~Diary~
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第一章 空白の記憶~Diary~ 2話

アレクサンダーさんは商店街みたいな所の洋服店に入って行きました。

そこは内装も可愛くて、若い女の子用の服が並んでます。



「いらっしゃいませー。・・・って勇者様!?」



店員の女の人がアレクサンダーさんを見るなり、かなり大げさに驚いてました。


昨日、お医者さんに聞いた話ではアレクサンダーさんは10年前、

この世界を支配していた魔王を倒して以来、人々から勇者と呼ばれているそうです。



「・・・その呼び方は辞めろ。こいつのサイズに合う服をくれ。」



ただ、本人は勇者と呼ばれることを快く思っていないらしい・・・・

というお医者さんの説明通り、アレクサンダーさんはかなり不機嫌そうな顔をしてます。



「は、はい!それなら・・・その、ショーウィンドウのワンピースはいかがでしょう?」



店員さんは店のショーウィンドウを指差しました。

道路側に面しているショーウィンドウには、お店の看板と

フリルのついた真っ白なワンピースをきたマネキンが置かれてます。



「あのワンピース、当店の新作なんです・・・あ、あの!勇者様ならお代とかいらないんで!」




「でも、真っ白じゃすぐ汚れんじゃねーか。」




「そんなことないですよ。わたしは、とても素敵だと思います!」



女の子なら一度は憧れる白いワンピース。


生地も相当良いものを使っていて、かなりお上品な感じで・・・・



実は、わたしも一度真っ白なワンピースを着るのが夢だったんです。



普段は真っ白なワンピースなんて着ないから。




「試着してみていいですか?」



店員さんがうなづいたのを確認して、わたしは試着室でワンピースを試着してみました。

新しい服に袖を通すというのはとてもドキドキします。



「どうですか?アレクサンダーさん!」



わたしは、ワンピースを着て、試着室から出ました。



「うわぁ!お似合いですよ!」



すぐに店員さんが笑顔で拍手します。


肝心のアレクサンダーさんはというと・・・無表情のまま、



「まあ、いいんじゃねーか?」



と適当すぎるコメントをしました。




なんというか、もっとちゃんとわたしを見てコメントが出せないんでしょうか。


アレクサンダーさんは乙女心を分かっていなさすぎです!



お世辞でもいいから、可愛いと言ってくれたっていいのに・・・・



「じゃあ、これ下さい。」



全然わたしを見ないでアレクサンダーさんはわたしに背を向けました。



むむう。なんだか悔しいです。


もっと、美人だったり・・・胸が大きければいいんでしょうか・・・。



わたしは、お店の鏡の前でない胸をどうにか大きく見せようと試行錯誤します。



「おい、会計終わったぞ・・・って、何やっているんだ。」



会計の終わったアレクサンダーさんはわたしを見るなり怪訝な顔をしました。



アレクサンダーさんに見られて、わたしの顔は赤くなります。



「な、な、なんでもないんです!」



わたわたとわたしは腕を振ってなんでもないことをアピールしました。

アレクサンダーさんはますます眉を寄せながら、



「おい、行くぞ。」



と言ってお店から出ました。




「ま、待って下さい!」



わたしも慌ててお店から出ます。




「お前、そのワンピース汚すんじゃねーぞ。また買いに行くのは嫌だからな。」



「大丈夫です。汚しません。」



「・・・・えらい自信があるんだな。」



アレクサンダーさんがわたしの顔を不思議そうに覗きながら言いました。



「はい。だって、わたしが強く思って言葉にしたことはだいたい「その通り」になるんです。

今、わたしは「このワンピースを汚さない」と思いを込めて言ったので、そういう風に運命が回るんです。」



「・・・・そうなのか?」



アレクサンダーさんがイマイチ信用できないように首を捻りました。



「はい。心配しなくても大丈夫ですよ。「絶対」にそうなりますから。」



わたしは、彼を安心させようと笑顔を見せましたが、

アレクサンダーさんはうさんくせーな、とぶつぶつ言いながら首を捻るだけでした。



どうして信じて貰えないんでしょうか。さみしいです。



だって、これはわたしにとっては「当たり前」のことなんです。

人間が呼吸して生きるように、わたしが言葉を使って運命を操れるのも当たり前すぎることなんです。




でも・・・アレクサンダーさんにはその当たり前すぎることを理解して貰えませんでした。





アレクサンダーさんにとって、これは当たり前ではないということなのでしょうか。




ううん、アレクサンダーさんだけじゃない。




もしかしてーーーー世間一般的にこの感覚はおかしいのでしょうか。




だと、したら・・・このわたしの当たり前だと思う感覚はーーー一体なんなんでしょうか。







--------------



化学工場の町を抜け、山を登って下りた所にノー村はありました。


工場の煙で街全体が汚れていたノルディックタウンとは違い、

ノー村は自然が豊かで・・・きっと、ここに人がいたらのどかな農村だったでしょう。




でも・・・・もう今は誰もいません。




所々にある血痕が事件の痛ましさを残してました。



誰もいない家屋や、血痕を見るとわたしの心はぎゅっと締め付けます。




唯一、救いだったのは、ここに倒れていたはずの人達が、皆いなくなっていたことでした。




さすがに、また、たくさんの死体を見るのは・・・辛いことですから。




アレクサンダーさんに聞いてみたら、村人は全員彼の手で弔ったということでした。

わたしは、アレクサンダーさんにお墓の場所を聞いて、お墓参りをしました。



「・・・何か思い出したか?」



お墓参りを終えて、ずっと黙っていたアレクサンダーさんが口を開きました。


わたしは黙って首を振ります。



ここに来てから事件のことを何か思い出せれば・・・と思ってましたが、

やはり、まだわたしの記憶はからっぽのままでした。



「・・そうか。今日は遅いから俺ん家に泊まっていけ。」



「えっ?アレクサンダーさん家に泊まってもいいんですか?」



わたしは少しだけ目を輝かせてアレクサンダーさんを見ました。

何だろう、アレクサンダーさんに家に泊まれるなんて、わたしはとっても嬉しいんです!



「・・・他に泊まれる所ないだろ。」



アレクサンダーさんは面倒くさそうに頭をかきながら、わたしに背を向けて歩き出しました。



「寝顔とか見てもいいですか?」



「却下。」



ううっ、何もそこまで即答しなくてもいいのに・・・



でもここで落ち込んでいたら彼に置いてかれてしまいます。

なので、わたしは一生懸命彼の後を追いました。



アレクサンダーさん家は、とても質素なお家でした。

勇者と呼ばれているくらいすごい人だと伺ったので、

もっと大きな家に住んでいるかと思いましたが・・・普通の家よりも少し狭い平屋の家でした。


中はとてもキレイで・・・あまり物を置いてませんでした。

必要最低限の家具があるだけです。



「アレクサンダーさんの家って意外と質素なんですね。

勇者と呼ばれているくらいなのでもっとすごい家かと思いました。」



「すごい奴がすごい家に住んでいたら嫌みみたいだろ。俺はこのくらいの狭さがいーの。」



アレクサンダーさんはそう言いながらタバコに火をつけてタバコを吸いはじめました。



「あー、またタバコ。だめですよー。」



「一本くらいいいだろ。今日は我慢していたんだから。」



そういえば今日ノー村についてからアレクサンダーさんはタバコを吸ってません。




・・・もしかして、遠慮していたのでしょうか?



「ほら、もう夜も遅いんだ。お前も寝ろよ。」



アレクサンダーさんに言われ、わたしはしぶしぶアレクサンダーさんの部屋を出て、自分の部屋に戻りました。



ベットに横になって・・ふと、部屋にある棚にある一枚の写真を見ます。



きっと、アレクサンダーさんの昔の写真なのでしょう。アレクサンダーさんがとても若い気がします。

アレクサンダーさんは、たくさんの人に囲まれて、笑顔で映ってました。



・・・今のアレクサンダーさんから想像できない、無邪気な笑顔で。



(・・・当たり前ですけど、アレクサンダーさんにはわたしの知らない過去があるんですよね。)



わたしは今まで、自分に記憶がないことを引け目に感じていたりしてませんし・・・。

あまり記憶がないことを気にしてはいないんです。



だけど、こういう写真を見ると、自分にもこういう幸せだった時があったのではないかと思います。




記憶がない、ということは良いことも悪いことも全部、全部・・・忘れてしまっているということです。




幸せだった時のことまで・・・忘れてしまったままで、いいのでしょうか?




例えば、わたしの家族や友人のことを思い出さないままでいいんでしょうか?





・・・でも、もし、思い出してしまったら?





記憶が戻ったら、きっと、わたしは今のままではいられないはずです。

もしかしたら・・・ううん、きっと、わたしはアレクサンダーさんと一緒にいることはできないでしょう。







ーーーアレクサンダーさんと一緒にいられないのなら、いっそのこと・・・・・





記憶なんて、思い出さない方がいいんです。





---------


トイレに行くため、真夜中にわたしは目が覚めました。

トイレを済ませた後、わたしは、あれさんの寝室の前で立ち止まります。



(・・・ちょっとだけなら・・・いいですよね。)



わたしは、音を立てないようにそっとドアを開けました。


静かな寝息を立てて、アレクサンダーさんが寝ていました。




アレクサンダーさんの寝顔は、とても安らかで・・・幼くて・・・わたしはつい、見入ってしまいます。







「シーナ・・・・」






ぽつり、とアレクサンダーさんは誰かの名前をつぶやきました。




そのつぶやきは・・・そう、まるで・・・・愛しい誰かの名前を呼ぶようでーーー




「・・・シーナって、誰?」



わたしは、アレクサンダーさんのことを何も知りません。

だから、そう・・・アレクサンダーさんに恋人がいるとか・・・そういう話は知りません。




わたしは、そっと、ベットを離れ、自分の部屋へと戻りました。




ぱたん、と後ろ手にドアを閉めて、その場に座り込んでしまいます。




―――違います。きっと、あれは、大事な友人の名前で・・・恋人ではないはずです。




そう、恋人だと決めつけるのはよくないんです。




でも、心の中が、もやもやして・・・頭の中はぐるぐる回って・・・・





わけのわからない感覚のまま、一晩が過ぎ・・・・わたしは、結局それから一睡もできませんでした。





END


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