第二章 心を持ったロボット~Love and hate~ 4話
朝からアレクサンダーさんの口数が少ない。
いや、確かにアレクサンダーさんは元々口数が少ないけれど、ここまで少ないのもちょっと変だ。
僕がいくら話しかけても生返事しかしないし・・・全く、どうなっているんだか。
昔・・・それこそ10年前はよく喋る人だったのに、どうして人はここまで変わるんだろうなー。
・・・やっぱり、あの事が原因だよね。
確かにあの事は僕もショックだし、今でも正直割り切れない部分がある。
・・・でもさー、それでスネて性格変わるなんて子供じゃないんだし、
ホント、僕より年上だなんて思えないよね、この人。
まあ、それを口にしたら怒られるから言わないけれど。
・・・それにしても、やっぱり、アレクサンダーさんの様子がおかしい。
あの子が言霊使いと知ってから、なーんか距離を置いている気がするんだよなー。
全く、ちゃんと僕らが普通に接してあげないとダメなのに・・・・。
でも、しょうがないか。
きっと、アレクサンダーさんはあの子を見ているとシーナさんを思い出してしまうんだろう。
シーナさんとあの子はなんとなく似ている気がする。
僕でさえ、そう思うんだから、きっと、アレクサンダーさんはもっと強く感じているはずだ・・・・。
でも、それでもあの子を捨てられないのは、シーナさんに似ているから、だろうな。
シーナさんが側にいてくれるような気がするから、
だから、アレクサンダーさんはあの子を捨てられない。
・・・・・・。
あの子がこのことを知ったら・・・あの子はどうなってしまうんだろう・・・。
あの子はほとんど盲信的にアレクサンダーさんを慕っているし・・・。
あの子の箱庭的な世界が崩れてしまったら・・・どうなるんだろう。
・・・やめた。そんな不吉なことを考えたって仕方が無い。
まずは目の前の事を考えよう。
とりあえず、街中でいくつか聞き込みをしたけれど、どれもまだ噂レベルの情報しかない。
つーか、この街は人が少なすぎてまず情報が集まらない。
・・・・どうしたものか。
「ねー、アレクサンダーさん、どうする?全然情報集まらないけど?」
「・・・・・」
アレクサンダーさんはぼーっとしていて返事を全くしない。
無視かい。
さすがにヤル気ないといえこれはひどい。
もう、僕一人でやろうかな、と思い始めた時、変な音が聞こえた。
みわわわーんという歪んだ音だ。
「・・・おい、何だ、この音は?」
アレクサンダーさんは不快そうに耳を塞ぎながら言った。
確かにずっと聞いていると頭痛くなりそうな音だけれど、僕は、逆に耳をすます。
「・・・これ、何かの魔法だね。」
「何かって何だよ?」
「えっ?そんなの分かるわけないじゃん。」
アレクサンダーさんがそんな事も分からないのかよという顔で僕の事を睨む。
そんな顔で睨まれたって分からないものは分からないんだからしょーがないじゃん!
「・・・魔法使いだろ?分からないのかよ?」
「あのね、いくら僕が天才魔法使いだとしても、
音を聞いただけで何の魔法か判別するのなんて無理だよ。
他人のパソコンの暗証番号をノーヒントで解除しようというようなものなんだよ?」
「・・・・そうなのか?」
「あのね、すぐこれは何の魔法だって分かったら戦闘の時に不利でしょ?
呪文も魔法陣も、一人一人違うものを使っているわけ。
だから、この魔法を解析するとしたら早くても一周間はかかるよ。」
全く、魔法使いだからと言って、魔法の事何でも分かるだろうというのはやめてほしい。
確かに僕たちは、魔法を使って簡単そうに色んなことができるけれど、
魔法を使えるまでには地道な研究と解析が必要だというのをもっと分かって欲しい。
という事をアレクサンダーさんに言いたいけど、まあ・・・半分も聞いてくれなさそうなので黙っておく。
そんなこんなしているうちに音が止んでしまった。
アレクサンダーさんがつっかからなきゃもう少しじっくり聞けたのになー。
「・・・気をつけて。たぶん、何か来ると思うよ。」
「だから、その何かって何だよ?」
アレクサンダーさんはかなりイライラしている。
確かにこんな適当な返事していたら怒るのも分かるけど・・・もっと大人になろうぜ。
「それが分かったら苦労はしないよ。・・・でもさ、さっきからロボットの動きが止まっている気がしない?」
「・・・はあ?」
そう言って、アレクサンダーさんは僕につっかかるのをやめてロボットを見る。
音が終わったあたりからせわしなく動いていたロボットの動きがずっと止まってる・・・気がする。
しかもなんかウイーンっていう変なモーター音まで聞こえはじめたし・・・何かがまずい気がする。
「・・・もしかして、これ、街中のロボットを操る系の魔法だったりして・・・」
「はあ?」
僕の嫌な予感が当たったのか、周りにいたロボットが一斉にこちらを向いた。
「ニンゲン発見・・・殲滅します・・・」
不気味な機械音でご丁寧に予告までしてくれるとは。
サービスがよろしい事で。
「あー、当たっちゃったみたいだね。」
「他人事のように言うなよ!」
アレクサンダーさんは慌てて剣を抜く。
「ちょっとー、アレクサンダーさん、この数をまともに相手する気?」
周りにいるロボットはたぶん、100を超えているだろう。もしかしたらもっと来るかもしれない。
さっきの音でこの街の全部のロボットが人間を狙っているんだとしたら、シャレにならない。
中には戦闘に特化したヤツだっているのに・・・どう考えても人間が不利だろう。
「他にどうしろっていうんだ?」
アレクサンダーさんはそれ以外に方法はないだろう、という感じで言った。
・・・全くこの人は・・・正攻法で突破すること以外頭にないんだから。
まあ、このくらい数ならアレクサンダーさん一人でも余裕で突破できる実力があるんだけどね。
「まともに相手していたら疲れるでしょ。
ベトット博士とマグノリアちゃんが心配だし、一旦戻るよ!」
僕は、ロボット達が攻撃をしかける前に空を飛ぶ魔法を使って杖に乗って飛ぶ。
アレクサンダーさんも乗せ、一気に上空までかけ上がった。
「・・・確かこの街には空を飛べるロボットもいるんじゃねーか?」
僕の後ろでアレクサンダーさんが話しかける。
「そうだね。でも、まあ、偵察用のしかいないし・・・今、空飛んでいるヤツはいないじゃん。」
今、空はロボットも何も飛んでない。
地上からミサイルを撃ち込まれることはあるかもしれないけど、これだけ高く飛んでしまえばかわせるだろう。
「・・・しかし、何でこうなったんだ?」
「さあね。さっきの魔法が原因なんだろうけど・・・敵の狙いがイマイチ分からないんだよねー。」
この街に住んでいる人はだいたいロボット科学者だし、
しかも世界でもトップクラスの技術力を持っている人達ばかり。
人間がこの街の人を殺すなんてまずありえないだろう。
人間がこの街のロボットを操るなら、十中八九他の国を責めるだろうし・・・犯人は何がしたいんだろう?
「おい、何か飛んできたぞ。」
と、アレクサンダーさんは進行方向を指差す。
鳥・・・のようなものが飛んできた。
トミーだ。
「伝言ダヨ!伝言ダヨ!」
トミーは僕たちの近くにくると、伝言があることを伝えてくれた。
「・・・トミー?何でここに?」
「あ、博士からじゃないかな?トミー、再生して。」
「アレクサンダーさん!ロビンさん!ご無事ですか?」
マグノリアちゃんの声だ。どうやら無事だったらしく、僕は、ほっと胸をひとなでした。
「さっきの変な音・・・街中のロボットを操る音なんです!
命令内容はこの街の人間全てを排除すること・・・。
街中のロボットが人間を殺そうとしています!」
「あー、やっぱりそうだったんだねー。」
「実は、ワトリーさんが何か知っているみたいで・・・
アレクサンダーさんとロビンさんにも聞いて貰いたいので博士の家に戻ってきて下さい!」
ここで伝言が途切れる。
・・・ワトリーが何かを知っている?
どうして彼は敵の狙いを知っているのだろう?
・・・まあ、とにかく、博士の家に行けばわかるよね。
僕は、トップスピードで飛ばし、博士の家に向かった。
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アレクサンダーさんとロビンさんが帰ってきました。
二人ともご無事なようで本当に良かったです。
「マグノリアちゃんも無事だったんだね。」
ロビンさんがほっとしたような表情をしました。
「でも、街中のロボットは確か操られているんだろ?何でワトリーとトミーが無事なんだ?」
アレクサンダーさんがじろり、とわたしを睨みます。
・・・言霊を使ったんですって言ったら絶対怒りますよね。
「マグノリアが助けてくれたんじゃよ。」
「・・・お前、また言霊使ったな?」
「そうカッカするな、アレクサンダー。
ワシは感謝しておるよ。」
ベトット博士は静かにアレクサンダーさんを制しました。
その一言でアレクサンダーさんも黙ってしまいました。
「・・・それよりさ、ワトリー、この街の状況について何か知っているんだって?どうして知っているの?」
「・・・・・」
ワトリーさんは俯いたままずっと黙ってます。
「詳しいことは何も話せません・・・・。
いえ、話せないようにプログラミングされてしまったんです。」
「ふうん、マグノリアちゃん、言霊試してみて。」
「はい。ワトリーさん、話して下さい。・・・この街に何があったのかを。」
「・・・・あ、パスワードが解かれました。
どうやら、話せそうです。
えっと・・・この街に悪魔がいるという噂は知ってますよね?あれは本当だったのです。
悪魔は・・・ヴィンツェンティと契約しているんです。」
「なんと!ヴィンツェンティとな!」
突然、ベトット博士が大声を出して、立ち上がりました。
「なんということじゃ・・・あやつと悪魔が・・・契約してしまったのか・・・・」
「ヴェンツェンティって・・・誰なんですか?」
「ワシの開発したロボットで・・・・ワトリーの原型となったワトリーの兄のようなロボットなんじゃ。
ワトリーと同じく、人の心を持つロボットとして開発したんだが・・・試運転を前に盗まれてしまったのじゃ。」
「その盗んだ犯人ってもしかして、国?」
ロビンさんが何か考えながらベトット博士に聞きました。
「ああ、そうじゃ。ワシは絶対に渡さないつもりじゃったのに・・・不意を付かれてしまっての・・・。
そうか・・・あいつが悪魔と契約してしまったのか・・・」
ベトット博士は頭を抱えながら嘆いてました。
「・・・ヴェンツェンティはこう言ってました。
「オレ達ロボットを道具としてしか扱わなくなったニンゲンに復讐してやるんだ」と。
僕は、反対しましたが・・・彼は止まる気はなかったようです。
しかも、僕がこのことを博士に話さないようにロックをかけていきました。」
「・・・人間に復讐、ねぇ・・・。ロボットが人に憎しみなんて持つのかなぁ・・・・」
ロビンさんが考え込みながらつぶやきます。
「・・・・・持っているんじゃよ。」
ベトット博士が静かな口調で語り始めます。
「ロボットは絶対に従える人間の命令には逆らえないようにできとる・・・。
だけどな、ロボットにだって「心」はあるんじゃ。
粗末な扱いをしたりすれば、やはりロボットだとしても、悲しい思いをする。
・・・・それが表に出せないようにしたのが今までのロボットなんじゃ。
だけど・・・・ワシはそれを良しとはしなかった。
だから、「人の心を持ったロボット」は人間と同じく、
愛情や憎しみが表現できるように作ったんじゃ・・・・。」
「なるほど・・・博士のその思いが裏目にでちゃったんだね・・・。」
ロビンさんが悲しそうにぽつりとつぶやきました。
「やはり・・・・・あの時・・・・命に変えてもヴェンツェンティを取り戻せば良かったんじゃ。
すまん・・・・本当にすまないヴェンツェンティ。
・・・・・・・こうなったら、ワシが・・・・・・・・・・・・・。」
ベトット博士は思い詰めたような表情で、ふらふらとドアに向かいます。
「ちょっと、博士!どこに行くの?」
ロビンさんが慌てて引きとめようとします。
「・・・・・・・・あやつのところじゃ。
こうなった責任はすべてワシにある。
だから・・・・・せめて・・・・ワシの手で・・・・・・・・・。」
「博士・・・・・。」
「そんな!無謀だって!
だって、街中のロボットが人間を狙っているんだよ!?」
「・・・・・・行かせてくれ、ロビン。」
ベトット博士はそれだけをつぶやくと、外へと出かけてしまいました。
「・・・・・・・アレクサンダーさん!すぐに追いましょうよ!ベトット博士が・・・・・。」
きっと、博士は・・・・ヴェンツェンティさんを殺し、自分も死ぬつもりなんでしょう。
そんな悲しいこと、止めなけれいけません。
「・・・・・いや、俺たちが行ってはダメだ。」
アレクサンダーさんは静かにベトット博士の行った方向を見ながら言いました。
「どうして!!なんで!?」
「・・・・・・・・。
俺たちがなんとかしても・・・・何の解決にもならない。」
「そうだね・・・。僕もそう思うよ・・・・。」
「ロビンさんまで!?どうしてなんですか!?」
「あのね、マグノリアちゃん・・・・・。
これはね、この街全体の問題なんだ。
昔はね、この街は自然と人間とロボットが共存する街だった・・・って話は
前にもしたと思うんだけどさ・・・・。
国のお役人さんの命令でこんな街に変わってしまったんだ。
確かに、僕らは「国」に逆らうことはできない・・・。
それが、「英雄」と呼ばれる僕やアレクサンダーさんでも・・ね。
でもね、それがたとえ「命令」だとしても、こんな風に変えてしまったのはこの街の人なんだよ・・・・。」
「だから・・・・・見捨てろ・・・って言うんですか・・・?」
「そういうワケじゃなくてね。
僕たちの力で解決するのは簡単に思えるかもしれない。
だけど・・・・その後は?」
「えっ?」
その後・・・・?
問題を解決すれば・・・・世界は平和で・・・・・皆が仲良く暮らせるんじゃないですか?
「僕はね、また同じ過ちを繰り返すと思うんだ。
この事件をなかったことにして、また同じことをする・・・・・。
負の連鎖を断ち切るためには、この街の人が気づかないとダメなんだ・・・・・。」
ロビンさんが、何を言っているのか良くわかりません。
わたしには・・・・難しすぎて理解できません。
「・・・・・・・・もういいです。
わたし一人でも行きます。」
わたしは駆け足で外に向かって外に飛び出しました。
「ちょっと、マグノリアちゃん!?」
ロビンさんの静止するような声が後ろから聞こえましたが、
わたしは聞こえないフリをしてただ走り続けます。
ぐちゃぐちゃのこの感情を振り切るように、ただがむしゃらに走り続けます。
走って、走って・・・・どのくらい走ったのかよくわからなくなった時、
突然強い力で後ろに引っ張られて、わたしは転びそうになりました。
「きゃっ!」
転びそうになったわたしを誰かが支えてくれます。
わたしは、お礼を言おうと、後ろを振り向きました。
「ワトリーさん?」
そこには、ワトリーさんがいました。
「驚かせてしまい・・・・申し訳ありません。
貴方を探すように頼まれましたので・・・。」
「・・・・・・・・・・・そう、ですか・・・。」
「・・・・・・・・・。
本当は・・・・博士の家に戻るよう言われたんですが・・・・・。」
と、ワトリーさんは複雑そうにうつむきました。
「あ、もしかして・・・ベトット博士が心配なんですか?」
ワトリーさんが、驚いたような顔でわたしを見ます。
「驚きました。マグノリアさんに予測機能が搭載されているなんて・・・。」
「あ・・・いえ、これは予測機能ではなく・・・
ただ相手の気持ちを想像しただけなんですけど・・・・・。
それなら、わたしと一緒に行きましょうよ!」
「えっ!?」
「ただ待っているだけじゃダメですよ!
ちゃんと自分で行動しないと!!」
「・・・・・そうですね。
僕も博士のことは気になっていましたし・・・。
マグノリアさん、よろしくお願いします!」
こうして、わたしたちは一緒にベトット博士を探すことになりました。
―――――だけど、その時わたしたちには分からなかったんです。
ロビンさんが言っていた言葉の意味を・・・理解するべきだったんです。
そうすれば・・・あんな結末を迎えることにはならなかったというのに―――――
END