少年の話
今朝、おばあちゃんが死んだ。僕の七歳の誕生日だった。
いや、正直あれが本当に自分のおばあちゃんなのかはわからない。ただ、僕が父と呼んでいるあの男が、その遺体の前でおいおいと泣いていた。あの人が泣いているところを、僕は初めて見た。
おばあちゃんの体は〈みるもむざん〉だったらしい。お別れの会に来た大人たちがそう言っているのが聞こえたが、僕にはその意味がよくわからなかった。ただ、ひそひそと喋る大人たちのその様子から、あまりいいことじゃないんだろうなあとだけ思った。
父のことはあまり好きじゃなかった。だけど、目の前であんなにも落ち込んでいるのを見ると、おばあちゃんのことよりも、誕生日がおじゃんになったことを悲しんでいる自分が恥ずかしくなって、慰めてあげようと思った。
「大丈夫だよ。きっとおばあちゃんは天国で幸せに暮らしてるよ」
天国。前に外からやってきた人に教えてもらった特別な場所だ。
それまで僕は、死んだ人がどうなるのかなんて考えたことがなかった。だから、ふとその疑問を口からこぼすと、その人がこっそりと教えてくれた。そこは、素敵な人だけが死んだ後に行ける素晴らしい世界らしい。それで、僕はこれが父に今一番必要な言葉だと思った。僕にとってはそうじゃなくても、おばあちゃんは彼にとって特別な人だったからだ。
僕の言葉を聞いて、父はこちらを振り返った。何か感謝の言葉でももらえるだろうかと思って、僕はにこりと微笑んだ。
しかし、聞こえてきた言葉は僕の期待とは全く別のものだった。
「天国なんてあるわけないだろ!ランジ!」
彼が大きい声を上げたのは、怒鳴ったわけではなく、嗚咽を堪え、その合間に声を出したからだというのはわかっている。けれど、突然の大人の大声に僕の体は萎縮したし、その声は僕の脳の深いところで何度も反芻されることとなってしまった。
――天国なんてあるわけないだろ!
じゃあ、おばあちゃんは今どうなっているの?息をしないその人は、天国がないならどこへ行ったの?
無。
音も光もないそんな世界が思い浮かんだ。いや、思い浮かべられなかった。思い浮かべられなかったからこそ、僕は体の震えが止まらなくなった。
あの神とはまた別の、純然たる死への恐怖。七歳の誕生日に、僕はそれを覚えた。




