第17話 初心者セット(廃人用)で彼女が俺を狩りに来る(違う意味で狩られちゃった)
イルカが永友瑛をエクレガに誘おうとしている。
それというのは、永友瑛=エーヒレという身バレの発生リスクが高まるわけだが……。
今日は青井瑠夏から話しかけられていない。
珍しい。いつもなら決めたら真っ直ぐ、猪突猛進なのに。
「はーい、みなさーん。もうすぐ遠足ですねー。遠足はBBQでーす」
うぇぇぇい‼︎ あげええええ‼︎ と騒がしいクラス。まさにお日様みたいな明るさだな。
どうでも良い。今は遠足なんてどうでも良い。
「でも、雨が降ったら隣町の歴史館になりまーす」
うぇぇぇい……さげぇぇぇぇ……。
みんなのテンションが明らかに下がった。まるで大雨だ。
でも、俺のテンションはどちらでもない、曇り空。
あ、うん。どうでも良いから‼︎ 俺をさっさとエクレガへ行かせてくれ‼︎
♢
今日はちょっぴり遅めのログイン。ってのも、遠足の話でちょっぴりHRが長引いたからだ。
「──というわけでエーヒレさん! 上層エリア『神竜の住まう祭壇』へ行きますよ! 今すぐ、ナウです!」
ログイン直後、イルカが放った言葉に、俺は思わず耳を疑った。
「……は? あそこ、推奨レベル90以上の廃人エリアだぞ。何を考えてるんだ」
「何って、永友くんへのプレゼント調達ですよぉ! 初心者がいきなり死なないように、全耐性+90%、自動HP回復(超)がついた『神竜の鱗チャーム』を獲りに行くんです。それを取らないと永友くんをエクレガに誘えません」
あ、なるほど。だから誘って来なかったのね。
──ん?
「いやいや、初心者セットの次元を超えてるだろ。そんなの装備させたらゲームバランスが崩壊するわ‼︎」
「いいんです。ゲーム崩壊上等。大事なのは私と永友くんの愛。エクレガの世界で私と永友くんは末長く、安全に、幸せに暮らすんです。ほら、行きますよぉ‼︎」
イルカは俺の返事も待たず、高価な転移結晶を躊躇なくパリンと割った。
強制的に連れてこられたのは、空に浮く巨大な祭壇。視界に入るザコ敵ですら、俺が全力で戦わなければならないレベルの魔境だ。
「さぁ、私の愛の糧になれっ」
すげぇ愛だな。
♢
「イルカ、下がれ! 咆哮が来るぞ!」
「ひゃふっ!? 『三重魔法障壁』!!」
俺は双剣を交差させ、神竜の放つ衝撃波を紙一重で受け流す。
イルカはパニックで杖を振り回しながらも、持ち前の超火力魔法で神竜の鱗をゴリゴリと削り取っていく。
「あああもう! 永友くんのために、その鱗を寄こしなさいよぉぉ!!」
「物騒な愛だね」
死闘を繰り広げること数十分。俺たちの見事な連携(というかイルカの執念)により、ついに神竜は光の塵となった。
ファンファーレと共にドロップしたのは、虹色に輝く『神竜の鱗チャーム』
「やりましたぁぁ! 見てくださいエーヒレさん、これで永友くんへ初心者セットが作れます」
「初心者セット(廃人用)だがな」
俺は汗を拭うジェスチャーをしながら、その場で寝転がった。
神竜との激しい攻防で、雑魚敵も吹っ飛んだからな。リスポーンまで時間があるし、しばらくは安全だ。
「お疲れ様でした」
言いながら、イルカが膝枕なんてしてくれる。
「ありがとうございます。私のワガママに付き合ってもらって」
「んにゃ。自分の今の力も試せたから良かったよ。ここ、廃人向けだけど、俺も廃人様に一歩足を踏み入れているんだなぁ」
「否定はできませんね」
あははと笑い合うと、イルカが嬉しそうに言ってのける。
「今度リアルの方で遠足があるんですよ。それまでに名前呼びできたら良いなぁと」
「だな。今度のエクレガのイベントで名前呼びして、遠足でBBQしたら良い流れだろ」
「……え?」
「でも、雨降ったら歴史館だもんな。せっかく名前呼びして距離が近くなっても、歴史館じゃあ味気ないよなぁ」
あはは。なんて笑うと、イルカはなんだか神妙な顔をしていた。
「……エーヒレさんがなんで私の学校の遠足のこと知っているんですか?」
心臓がドクン、と跳ねた。
「あ、いや。遠足なんて、この時期の学生ならどこでも……」
「雨が降ったら歴史館というのは今日発表がありました。そんなおそろしく地味な場所になったのを愚痴れるのは、同じ学校の人間だけですよぉ……?」
終わった。
完全に口が滑った。
「エーヒレさん……あなた、まさか……」
イルカの目が、鋭く細められる。
「私の学校の人……なんですか?」
「あ、あああ……いや、それは……ほら、ええっと、永友くんを知っているというか……なんて言うか……」
あかーん‼︎ 追い詰められるとボロがボロボロ出てボロボロになるタイプなんです‼︎
やめてくれ……その名探偵みたいな目で俺を見ないでくれ。てか、名探偵が膝枕して追い詰めてくる絵面はなんなの?
「な、永友くんを知っている⁉︎ エーヒレさん永友くんを知っている……え、それって……」
終わった。身バレした。
どうしよう。どう言い訳しよう。
「エーヒレさんの正体は……松波純平くん⁉︎」
「……は?」
予想の斜め上すぎる名前に、俺の思考が停止した。
「そうです、そうです! 松波くんなら永友くんの親友だし、エーヒレさんが松波くんだと思えば納得ですぅ」
「ちょっと待て。違うんだが⁉︎」
「恥ずかしがらなくていいですよぉ! ああ、明日からどうしましょう。松波くんにこんなに恋愛相談してたなんて……私、恥ずかしさで爆発しちゃいます……でもでも、私も松波くんの痛いところ沢山知ってるからお互い様ですよね♪」
「いや、ちょ、それは──」
「ではでは。また学校でね、エーヒレさん」
「待てって、イルカっ‼︎」
こちらの声は届かず、イルカはそのまま、顔を真っ赤にしてログアウトしていった。
一人残された俺は、虚空を見つめる。
「……ぺーぺー。すまねぇなぁ。お前、明日から青井瑠夏に『エーヒレ』だと思われて、熱烈な視線を浴びることになっちまった」
明日、学校でペーペーにどう説明すれば言えばいいのやら。
俺は深すぎる溜息を吐きながら、ゴーグルを外した。




