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二十九話 元公爵令嬢、告白の返事をする

 殿下が口にするであろう言葉は予想出来ていたけれど……いざ本当に言われてしまうと、信じられない気持ちになる。


 ____殿下が私を好き? 本当に?


 心臓がバクバク音を立て始める。


 だって私達、出会ってからまだちょっとしか経っていないわ。


 乙女ゲームの世界がどういうものかわからないけれど……こんなに展開が早いものなの!?


 半ばパニックになっていると、殿下が私の手を再度ぎゅっと握り直した。

 カッと顔に熱が集まるのがわかる。


「セシリア嬢……君は、私のことをどう思っているのか、聞かせてくれないだろうか」


 何も言わない私に業を煮やしたのか、殿下が返事を急かしてくる。


 そうよね、殿下にこ、告白……をされているのだから、何か返さないと失礼よね。


 けれど、私は、私は…………。


「わ……わからない、です」


 ……なんの解決にもならないような答えしか導き出すことが出来なかった。


「わからない、とは?」


 殿下が不思議そうに尋ねてきた。私は静かに俯きながら、口を開く。


「……その、恥ずかしながら……私には恋愛経験というものがないのです。ですから、好き……という気持ちがどういうものなのか、よくわからなくて……」

「ほう……君ほどの美しい女性がな」

「うつっ……!?」


 本当に、油断も隙もない人ね!?


 でも、仕方がないじゃない。

 だって、セラフィーナ時代の婚約者は……好きなんて一言も言ってこなかったし、実際私達の間に愛なんてなかったんだもの。


 それに、王太子の婚約者である私にそういう目的で声をかけてくる男性もいなかったし……!


 私はもう、いっぱいいっぱいなのよ……!


 ……そんな様子を、殿下も察したのだろう。

 静かに頷いてから、ゆっくりと目を細めて私を優しく見つめてきた。


「……君は、美しいだけでなく可愛らしい女性だな」

「ひぇっ……」

「だが、わかった。それなら、君の気持ちがはっきりするまで、私はゆっくり待つことにしよう。……それまでは、私も急かしたりはしない」


 そう言って、殿下は私の手を離してくれた。


 ……何かしら、この余裕の差は。




 そうこうしている間に、馬車がゆっくりと速度を落として、止まった。


 どうやら伯爵邸に戻ってきたらしい。


 殿下にエスコートされながら馬車を降りて、私は真っ赤な顔で口を開いた。


「本日は、本当にありがとうございました」

「それはこちらの方だ。では、また明後日、学校で会おう。変に意識しなくていい。……だが、私が君を想っていることは忘れないでくれ」


 ____そんなこと言われたら、意識しちゃうに決まってるじゃない……!!


 私はもう、耳まで顔を真っ赤に染め上げながら、王族の紋章が入った馬車が遠ざかっていくのを呆然と眺めることしか出来ないのだった。

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