十三話 元公爵令嬢、うっかり前世がバレる
「さぁ、もう着くわよ。窓の外に見えるのが、ランカスター伯爵邸ね」
「で、でっか……! 流石、うちと比べて伯爵邸はレベルが違いすぎる……!!」
「そう? あまり気にしたことなかったわね。セラフィーナ時代はもっと大きい家に住んでいたから……」
馬車がゆっくりと速度を落とし、伯爵邸の門の前で止まる。
私は乗車した時と同じように、馬車から先に降りてフリージアに手を差し出した。
フリージアはその手を慣れない動作で取って、顔を少し赤く染めながら馬車を降りる。
「……セシリア様って、スパダリ属性だよね……」
「すぱだり? なによそれ」
「王子様みたいにかっこいいってこと!」
「……王子様、ねぇ……確かに美形だったけれど、そんなに良いものかしら」
私の呟きに、フリージアが不思議そうに首を傾げる。
そういえば、この子には私が前世で王太子の元婚約者だったこと、伝えてなかったわね。
「詳しい話は、お茶を飲みながらしましょうか」
***
「え!? セシリア様って、王子様の婚約者だったの!?」
庭に響き渡るような大声で、フリージアが叫んだ。
淑女として、そんな大きな声をお茶会中に出すのはどうかと思うけれど……二人きりのお茶会だもの、指摘するのも野暮な話ね。
「そうよ。まぁ、『元婚約者』だけどね」
「……なんで婚約者じゃなくなっちゃったの?」
……まぁ、気になるわよね。
本当はあまり……知られたくはないけれど。でも、フリージア……いえ、ユリは全て話してくれたんだもの。
なら、セラフィーナもちゃんと自分の話をするべきだわ。それが礼儀ってものよね。
「簡単な話よ。王太子とは元々恋愛感情のないパートナーだったのだけれど……彼に好きな人ができたうえに、冤罪を次々と被せられてしまったの。その結果、無事に私は身分剝奪からの処刑エンドというわけ」
「セシリア様って、セラフィーナ様の時も悪役令嬢だったんだ?」
「あなたの国の言葉で言うなら、そうなんでしょうね」
口を大きくあんぐりと開けて固まってしまっているフリージアをスルーして、お茶を口に含む。
……うん、今日の紅茶も最高ね!
「な、なに優雅にお茶飲んでるの!? セラフィーナ様、そういう大事なことは早く教えてよぉ~!」
「別に、前世は前世だもの。私達は今を楽しまなきゃ……そうでしょ?」
「そうなんだけどさぁ……」
複雑そうな表情をしているフリージアに笑いかけてあげると、彼女はなんとか納得したようだった。
だって、今は私の前世なんて本当にいいのよ。それより私が話したかったのは、『攻略対象』が誰か、という話だもの。
「ねぇフリージア、確認したいのだけどいいかしら」
「? なに?」
「攻略対象って、一体何人いるの?」
私がそう問いかけた途端、フリージアの目がギラリと光った。
____なんだか、変なスイッチを押しちゃったみたいね……。
「よくぞ聞いてくれました! 『花の乙女』……通称『はなおと』には、四人の攻略対象がいるよ! それに加えて、エドナ様とソフィア様との友情ルートがある感じ!」
「よ、四人!? そんなにいるの……?」
「うん! 一人目は、セシリア様の弟のギルバート様でしょ? で、二人目が……」
フリージアが二本目の指を折った、その瞬間。
「俺が、なんだって?」
「ギ……ギル!? なんでここに……!」
どこからやってきたのか、さっきまでいなかったはずのギルが突如会話に参加をしてきた。
というか、どうしてここにいるのよ!
「いや……俺の家でもあるんだから、いるだろ、普通に」
____紛れもなく、正論だわ。
「それより、あんた達声デカすぎ……会話丸聞こえなんだけど」
「え!? ど、どこから聞いてたの!?」
「最初から」
「う、うそ……ちょっと、フリージア、どうしましょう!?」
「やばい! 本物のギルバート様、顔面偏差値高すぎるんですけど……! 眼福~~!」
____もう、肝心な時にこうなっちゃうんだから! というか、あなたの推しは私じゃなかったの!? いえ、別になんでもいいけれども!!
「……っていうわけで、セシリア、あんたが本当は何者なのか……ちゃんと俺にも教えてくれるよな?」
私が焦っているのにも当然気付いているでしょうに、ギルは素知らぬふりをしながらその整った顔面でにっこりと告げてきた。
しかし、その表情からは確かな圧が感じられて……。
「は、はい……全部話します……」
……私は、大人しくギルに従うことしかできないのだった。




