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TS魔王の『モン娘』ハーレム綺譚  作者: 九條葉月
第二章

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12.運命の再会 (???視点)



 12.運命の再会 (???視点)





 ――罪があった。


 ――罰せられなければならなかった。



 けれども、私の立場でそんなことが許されるはずもなく。


 国のため。未来のためと言い訳をして。私は、決して許されることのない罪を背負い込んだ。


 せめて。


 せめて“彼”が恨んでくれればよかったのだけど。最後の瞬間に恨み言を残してくれれば容赦なく自分を責めることができたのだけど。


 すべてを受け入れた彼は、笑っていた。仕方がねぇなぁとでも言うように。出来の悪い妹をなだめるように。


 ……あの日交わした言葉のままに。


 あぁ。


 きっと“彼”にとって私は今も守るべき対象でしかなくて。


 結局。


 私は“彼”の隣に立つ権利すらなかったのだ。




 ――罪があった。


 ――罰せられなければならなかった。




 今生では無理だろう。私の立場が許さない。


 ならば、次で。


 私は罰を受けるだろう。


 八大地獄に落とされて、百三十六地獄を這いずり回り、六万四千地獄に染みついて。なおも許されぬ罪を犯したのだから。罰せられぬはずがない。許されていいはずがない。


 畜生か。虫けらか。あるいは救いようのない大罪人か。輪廻転生があるのなら、私はきっと――いいや、絶対にろくなものには生まれないだろう。生まれていいはずがない。


 それが罰というのなら。私は甘んじて受け入れよう


 ……ただ。

 私の苦しむ様子を“彼”に見せられないのが残念だけれども。



 そんなことを考えながら私は『前世』から息を引き取った。






 ――気がつくと、白いモヤがかかった不思議空間にいた。


 地獄にしては綺麗すぎる。

 いや、『天国か』と安心させておいて絶望に叩き落とすパターンもあるかもしれない。


 そんなことを考えていると違和感に気がついた。どうにも自分の身体が自分のものではないような不思議な感覚があるのだ。


 おそるおそる自分の身体を見下ろすと……光っていた。具体的に表現すると私は20cmくらいの光る球(?)になっているようだった。


 死の間際に見ている夢。にしては情緒がない。夢ならばせめてもう一度“楽”に会わせてくれてもいいようなものを。たとえ罵倒されようが、殺されようが、もう一度あの姿を目に出来るのなら安いものだというのに……。



「――いっそ感心するね。そこまで想っているのなら、あんなことをしなければよかったのに」



 不意に呆れたような声が響いてきた。

 いつの間にか、目の前にいたのは金髪金目の美女だった。いやこの光る球(?)の状態で『目の前』という表現が正しいのかどうかは分からないが、とにかく、すぐ近くにとんでもない美少女が立っていた。


 流れるような金髪は宝石をそのまま糸にしたかのようであり。輝くような金瞳は宝石などと比べることすら烏滸がましい。肌はヒマラヤの山領に降り積もる雪よりもなお白く、その美貌は、美しさの頂点を極めんとしたギリシアの彫刻すら越えている。


 そして。

 それらの美しさを並べ立ててもなお。より衆目を集めるであろう純白の羽根。


 人ではない。

 天使という表現が最もふさわしい。


 ただ。

 咎人である私の元へ天使が現れるはずもないのだが。



「――私個人としては、キミのことが許せない。キミのせいで“楽くん”は死んでしまったのだから」



 その罪を言い逃れるつもりはない。

 私のせいで、楽は死んだのだから。



「――神様としてはキミを称えなければならない。キミは楽くんとの誓いを守り、多くの人を幸せにしたのだから。多くの命を救い、多くの夢を守ったのだから」



 そんな賞賛など無用だ。

 私はすべきことをしただけで。

 犠牲を伴わなければならなかった私は、どうしようもなく無能なのだから。



「――私は神様としての判断を下すべきだけど、下したくない。だから、楽くんに任せる。楽くんが許すなら私も許そう。楽くんが許さなかったら、残念だけど……地獄というものを味わってもらおうかな?」



 とてもいい笑顔で笑いながら。

 金髪の天使――っぽい存在は腕を振り払った。












 ――転生先は人間だった。


 裕福な商人の家だった。

 両親は健在で、経済的な不安もなく、兄も優しく優秀。さらにいえば自身の見目も麗しい。地球とは異なる世界であるようだったが、そんなことは些末な問題だ。


 なんだこれは、と思った。

 こんな『幸せ』は私にふさわしくないと思った。


 救った人の数だけを足し引きすれば、確かにこのような来世でもいいのだろう。

 けれど、けれども。非道を行った私がこんな『幸せ』な来世を送っていいはずがなかった。


 きっと何かあるはずだと疑いながら、それでも、優しい両親に心が穏やかになった。優しい兄様に心を開いていった。


 ……兄。

 出来ることならば、楽ともそんな関係でありたかった。血筋とか、使命とか、そんなものは関係なく。普通の少女として生きて、彼のことを兄のように慕いたかった。兄妹のような関係でいたかった。


 ……まぁ、実際に『普通の少女』として生きていたら、絶対に『兄と妹』の関係では我慢できなかっただろうけれど。


 バカなことを考えられる程度には幸せだった。幸福だった。ひととき、自分の罪すら忘れてしまうほどに。


 急転直下したのは、兄様が王都に新たな拠点となる屋敷を購入した直後のこと。


 両親から事業を引き継ぎ、順調に売り上げを伸ばしていた兄様の商売が暗礁に乗り上げたのだ。


 魔石などを買い取っていた氷竜姫様は何処かへと去り。『人魚の涙』を作っていた人魚たちはクラーケンに生活圏を奪われ、酒造ができなくなったらしい。


 それでも兄様は慎重な人だったからすぐにお金に困ることはなかったし、次の事業も手堅く始めようとしていた。


 想定外だったのは私が『悪腫病』になってしまったこと。

 少し前までは不治の病だったものが、『ポーション』の開発によって治癒可能になった。らしい。


 不治の病ならまだ諦めがついたのだろう。

 しかし、治るというのなら希望を抱いてしまうのが人間というものだ。大切な家族であるなら尚更に。


 ……そう。大切な家族。

 私がそう思っていたように、父も、母も、兄も。私のことをそう思ってくれていたのだ。大切な娘で、妹だと思っていてくれていたのだ。


 大切な家族のために皆は動いてくれた。伝手を辿り、高位貴族しか入手できないはずのポーションを入手しようとした。


 しかし『神授の薬』と謳われ、あらゆる病気を治すと言われるポーションの競争率は高く。そこそこ裕福であった我が家でも入手することは難しそうだった。

 数年掛ければ平気だっただろうが、その数年先に私が生きている保証はない。


 普通にやっていてはどうしても手が届かない金額を提示され。

 兄様は、非道に手を出した。


 亜人奴隷売買。


 忌み嫌っていたはずの奴隷商人に落ちた兄を見て、私は神の真意を察した。

 自分が苦しむだけなら耐えられるだろう。楽への罪悪感を胸に、どんな責め苦にも耐えられるはずだ。


 でも。

 家族に関してはどうだろう。

 私のせいで。

 あの優しかった兄が外道に落ちようとしている。裕福な暮らしをしていた両親が、メイドを解雇し、集めていた宝石やドレスを売り払い、屋敷の掃除すらままならない生活を強いられている。


 私だけならいい。

 なのに、実際は家族に不幸が降り注いでいて。病気による苦しさも、家族の現状を見れば苦しみにすらならなかった。


 私のせいだ。

 私のせいだ。

 私が間違えたから。

 あのとき、決断してしまったから。

 楽を殺してしまったから。

 国のためだと言い訳をして、最も簡単な道を選んでしまったから。

 私のせいで。

 私のせいで。

 何の関係もない家族が苦しんでいる。

 あんなにも優しい家族が苦しんでいる。


 これは地獄に違いない。

 自身への責め苦を覚悟していた私に対する、私の想像を超えた地獄。

 自分のせいで家族が苦しみ、外道に落ちていく様を見せつけられている。


 これは地獄に違いない。

 病魔に冒されたこの身体では逃げ出すことも出来ず、ただ、ただ、ベッドの上から家族の苦悩を眺めていることしか出来ない。


 神様とやらは性格が悪い。

 私が最も苦しむ地獄を用意したのだから。


 いっそのこと自分で命を絶てば、なんてことはできない。そんな『逃げ』を私に許されているはずがない。これだけ性格の悪い神様が相手なのだ、私亡き後の家族の平穏が約束されているとは限らない。


 資金は足りず。屋敷も売れず。とうとう奴隷取引のために王都から離れていった。商売仲間から『白いアラクネ』の情報を得たらしい。


 兄様が直接アラクネを捕まえて、奴隷にしたわけではない。兄様がやるのはあくまで中間取引。だけれども、それでも奴隷取引に関わることに変わりはなくて。


 私のせいで兄様が非道に落ちた。

 奴隷取引が合法だとか、違法だとか、そんなことは関係ない。

 人間相手だとか、亜人相手だとか、そんなことも関係ない。


 人が、人をモノとして買う。モノとして売り払う。

 真っ当な人間がやることではない。

 真っ当な人間がやっていいことではない。

 なのに兄様はやってしまった。

 私のせいで。

 私を助けるために……。


 そうしてしばらく経ったあと。

 兄様は王都へ帰ってきた。

 予想外の客人を連れて。


 部屋の外から庭を見下ろしていた私は帰宅した兄と、白いアラクネ、そして、他数人の女性の姿を確認することが出来た。


(……は?)


 驚きで思考が止まった。心臓が締め付けられるかと思った。


 ありえない人がいた気がした。

 いてはいけない人が屋敷に入った気がした。


 だが、ありえない。

 ありえないのに、私の心が『間違いない』と告げている。


 頭では否定し、心が認めるというせめぎ合いの中、気がつくと兄様が私の部屋にいた。


 そして。

 兄様に促されて私の部屋に入ってきたのは、金髪の眩しい美少女だった。あまりに綺麗すぎて現実味がなく、二次元の住人なのではないかと疑いたくなるような美貌。


 こんな美少女に知り合いはいない。あったこともない。


 けれど、私は確信を抱いてしまった。



 ――楽?


 浦戸楽?



 髪色は違うし瞳の色も違う。顔つきも異なるし、そもそもの性別が逆転している。


 なのに、不思議と『そうに違いない』という確信を抱けてしまう。


 落ち着け、と自分に言い聞かせる。

 彼――いや、彼女が“楽”であることは間違いないだろう。が、前世の記憶があるとは限らないし私のことを覚えている保証もない。


 だからこそ。私は努めて平静な声を絞り出した。


「まぁ、お兄様。お客様ですの?」


 ベッドから出て楽を出迎えようとしたけれど、慌てて近づいてきた兄様が止めた。優しくベッドの上に戻される。


「シイシャ。無理をしてはいけないよ」


「大丈夫よ、今日はとっても調子がいいのですから。ふふ、きっといいことがあるに違いありません」


 姿形は違うとはいえ、もう一度楽と会うことが出来たのだ。これ以上の幸福はないだろう。


「シイシャ。実を言うとね、この御方がポーションを譲ってくれるらしいのだ」


 兄様の言葉につい笑いたくなってしまう。信じられない……わけではなく、せっかく生まれ変わったというのに、相変わらず人助けばかりしているであろう楽に対して。


 バカは死ななきゃ治らないとは言うが、楽の場合、死んでもバカ(美点)は治らなかったらしい。


 嬉しくなってついつい笑顔を浮かべてしまう。


「肺の病気か?」


 私の病状を正確に指摘した楽。驚愕するべき場面なのだが、前世での妙に鋭い彼を知っている身としてはあまり驚けなかった。……恋愛関係だけは鈍かったがな。


 楽が治療をするためにベッドへと近づいてくる。すると、彼の後ろにいたメイド――いや、話に聞く氷竜姫か? 氷竜姫が心底楽しそうな声を発した。


「ラーク、その薬を使うなら直接肌にかけた方がいいぞ?」


 わざわざ私に聞こえるような声で。楽が困りそうなことを口走る氷竜姫。

 氷竜姫に会うのはこれが初めてだが、仲良くなれる気がする。


「いやいや、ダメだろう。病気は肺だぞ? つまり胸。おっぱい。さすがに初対面の女性の胸を露わにするのは……」


「胸なんぞ見慣れておるじゃろうに、今さら何をためらうのじゃ?」


 おや? 見慣れているとはどういうことだ? 私の記憶する限り、前世のラークはそのような関係になった女性はいなかったはずだが。


 ……今世か。

 私の知らないうちに、色々とやっていたらしい。

 そう。私の知らないうちに……。



「――あら、ではお嫁さんになれば治療していただけるのでしょうか?」



 無意識のうちにそんなことを口にした私だった。


 楽がウンザリしたような、呆れ果てたような顔をした。ずいぶんと懐かしい表情だが初対面の女性に向けていいものじゃない。

 もしかしたら楽も私が『私』であると気がついているのかもしれないな。


「……嫁にならなくても治療してやるって」


 コホン、とラークがわざとらしい咳払いをする。


「はじめまして(・・・・・・)。ウラド・ラークという者だ」


 はじめまして、の部分を不自然なほどに強調した楽。

 そういうことならと私も朗らかな笑みを浮かべる。


「えぇ、はじめまして(・・・・・・)。エルドー村のシイシャです。ラーク様はお医者様なのですか?」


「お医者様ではないな。偶然丁度いい薬を持っていただけで」


「医療系の鑑定眼(アプレイゼル)を持っていて、私の病気を治せるようなポーションを所持しているのにお医者様ではないのですか?」


 いやほんと、どんな伝手を使ったのだろう? 前世の頃から楽は非常識に過ぎる存在ではあったのだが、さすがにポーションを入手できるほどではなかったはずだ。転生して、まさかあの非常識さに磨きがかかったとでもいうのだろうか――


「隠してもしょうがないから改めて自己紹介しておくか。俺の名前はウラド・ラーク。一応は今代の魔王であるらしい」


 魔王かーい。

 思わず心の中でツッコミしてしまう私だった。


 というか善人の中の善人である楽を魔王に転生させるとか、あの神様の目は節穴である上にコンクリートで埋め立てられているに違いない。


 楽も楽だ。『ウラド・ラーク』とか、もう少し名付けを頑張れと言いたい。そういえば前世の浦戸楽もネーミングセンスは皆無だったな。


 いや、それはまぁよくてだな。全然よくないがいいということにしてだな。


 ……私を治すこと前提で話が進んでいるが、いいのだろうか?


 楽の反応からして私であると気がついているはず。何をしたか知っているはずなのに、それでもなお私の治療をしようとする楽は――間違いなく、底抜けの善人だ。


 許してくれるのだろうか?


 許してくれるのだろう。


 ――あのときの笑顔を思い出す。


 仕方がねぇなぁとでも言うように。出来の悪い妹をなだめるように。すべてを受け入れた彼は、笑っていた。


 そもそもの問題として、きっと、楽は私を恨んでいないのだ。


 自然に笑みがこぼれる。

 魔王であろうが、なかろうが、関係ない。

 だって相手は楽なのだから。


「まぁ、魔王様でしたの。魔王様のお手を煩わせるのは忍びないですけれど、他に希望もありませんし、治療をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「……いいのか? 魔王だぞ? 怪しいぞ? 現にお兄さんは驚愕で今にも気を失いそうだし」


 自分で怪しいと言ってしまうところが、何というか、どうしようもなく『楽』だ。


「氷竜姫様が一緒にいるのです、悪い方ではないでしょう。それに、私を騙すつもりなら『魔王』だなんて名乗らないはずですし。わざわざ自らの正体を明かしてくださったラーク様はとても優しく誠実な方だと思いますよ?」


 そう。優しくて誠実。

 知っているからこそ私は上着のボタンを外しはじめた。慌てふためく楽の姿を想像しながら。


 私の想像通りに楽は慌てふためき、私は笑みを深めてしまう。


 やはり彼は『楽』であるし、彼も私が『私』だと気がついているのだろう。


 そうして彼は治療をしてくれた。




「――ま、しょうがないか。約束は約束だ。神様は契約を守らなければならないのです」




 脳裏にそんなどこかで聞いたことのある声が響いてきた。


 神様が認めたのだから、私は許されたのだろう。


 ……いいや、許されていいはずがない。私はそれほどに罪深い。


 けれど。

 けれども。


 贖罪の機会は与えられた。

 ならばその機会を活かすのみ。


 とりあえず。

 楽には今度こそ幸せになってもらわなければならない。幸せな恋をして。幸せな愛を育み。幸せな家族を得る。そんな、前世の楽では為し得なかった幸福を。


 その第一歩として。

 私は、楽のことを『お姉ちゃん』と呼んだ。





「……どうしてそうなるのかなぁ?」





 呆れたような声が脳裏に響いてきたけれど、きっと気のせいだ。








 ニィル

「え? ユルって鬼畜すぎない?」


 ユル

「ちがいますー。冤罪&偶然ですー。むしろあんなお金持ちの家に転生させた私って超優しくないー?」


次回、8月16日更新予定です。




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― 新着の感想 ―
[一言] わぁ、前世の事情が超複雑ですね。。。 鬼畜の所が有るけど、今回のユルさんは女神ぽいですw 寧ろ残念臭いの扱いながら、偶には良い待遇を報わせたいかもw
[一言] 前世からの妹めいたそんざいか。 血の繋がってない妹な緑髪のあやつを思い出す
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