終わり3
「此処に居るぞ・・・・花音、俺達の所に帰って来い・・・」
空に向かって呟いた後、視線はそのままで、
健一は、一緒に空を見上げていた
小鳥の雛の『フフヤガーン(紫)』に、話しかける。
真っ黒な小鳥、漆黒の羽を持っているけれど
烏とはまったく違う紫の瞳をした、その綺麗な小鳥の卵、
人の拳ほどの大きさの、黒い羽根に覆われたような
不思議な卵を愛恵は、眠ったままで産んだ。
「・・・・・お前は、本当に何なんだろうな・・・
まさか羽根の卵みたいのから
小鳥が生まれてくるとは思わなかったぜ?」
愛恵の部屋のベットのすぐ右横にある窓辺に、
椅子を寄せてぼんやり呟いていた健一は、
ふと、四角い窓からの柔らかい光に照らされながら
眠り続ける愛恵の顔へとチラリと視線を落とした。
変化は、無いか・・・とでも言うように
一つため息をついて健一は、
クッションがしかれた窓辺の籠の中から
紫の瞳で健一を見上げる黒い小鳥の雛の方に視線を送り、
右の人差し指でツンツンと突っついてみる。
手の平サイズの漆黒の小鳥の雛はよろめいて、
宝石のような紫の瞳で抗議をして来た。
「フー(フフヤガーン)、お前の目も羽根の色も、花音と同じ色だな、
愛恵の身体の中にあった魔障は、お前が
ずいぶん持って行ってくれたみたいだけどな。」
小鳥が、卵から孵り、
愛恵の身体一面を這っていたらしい蔓のような痣が消えたものの、
愛恵は、まだ目覚める事が出来ない。
魔族の世界から人間の世界に帰って来たはずなのに、
時が過ぎるのが間延びしているかのように
髪と爪も殆ど伸びないままで、
愛恵は、・・・・ただ眠っている。
「いかにも何か出来そうな
不思議な鳥なんだから、
もしかして・・・・お前・・・凄い力持ってたりしないか?
例えばさ・・・時空を越えるとか・・あの虹の橋の根元に・・
虹の橋の向こうに広がっている
違う世界を越えちまったりさ・・
まあ、まだちびっ子だから無理だろうけどさ、
もしそんな力とかが付いたら、花音の事迎えに行ってやってくれよ・・・」
俺達の大事な花音を迎えに行ってやってくれ
健一は、小鳥の紫の瞳を見つめながらそう願った。




