絶対に2
「ケルレンに子どもが生まれたんですね・・・
それは、私達にとっても、喜ばしい・・・。」
先ほどの驚きをしまいこんで、フールンがにっこり笑ってそう言うのに、
愛恵は、何だか少しだけ違和感を感じた。
「バヤル<喜び・恵み>、お前に従兄弟が生まれたようですよ・・・
ケルレンの子どもと言う事は、チーフォン兄上の息子ですね、
教えてあげないと。」
更に、フールンがそんな事を言っているうちに
違和感は消えてしまって、愛恵は、一緒に笑ってしまっていた。
「愛恵さん・・・・・」
しばらくフールン達とそのまま談笑していたが、
硬い表情で迎えに来た花音に連れられて、
愛恵は、フールンのゲルから出た。
「花音ちゃん?・・・・そっち違うのじゃないの?」
愛恵は、迎えに来たはずの花音が、ドンドン集落の端のほうに
行くので不思議に思って、
先を行く花音の小さな背中に声を掛けた。
しかし、花音は、チラッと愛恵の方を振り向くと
無言で愛恵の手を取り
今度は、自分の向かおうとする場所に引っ張って行こうとした。
周りを見てみると、花音を守っている様子の、
オラーンも、狼のポチも、豹のタマも、もちろん出会ったばかりの
愛恵の義兄の健一も居なくて、
愛恵を迎えに来たのは、花音だけのようだった。
愛恵は、花音のこの様子に、
何かあるのじゃないか、という気持ちになってきて、
一つ頷くと、黙って、花音に付いて行く事にした。
「・・・・・どうして・・・何も言わないのです・・・?」
集落の端の、何処かの馬が
ゆったりと、草を食んでいる場所まで来て、
振り向かないまま花音は、愛恵に問いかけた。
「・・・・どうしてって・・・・何が?」
改めてそんなこと聞かれても、きっと、花音には、
何か理由があるのだろうと思ったとしか言いようがなくて
反対に愛恵が問いかけた。
「・・・・・貴方が行った後、皆で何を話していたか、
鈴木健一さんが、何と言ったか言ってあげましょうか?」
クルリと振り向いて、花音は、思いつめたような
表情を愛恵に見せた。
しばらく愛恵は、その表情をキョトンと
見ていたがそのうちに、
見る見るうちに花音の表情が苦しげに歪んでいったので
思わず手を繋いいる反対の手を出しかけた。
花音は、吐き出すような声で言った。
「・・・・・・お願い・・・助けて・・
私と二人だけで、・・一緒に来てください。」