居なくなった花音ちゃん3
夜更けに入り口から誰かが入ってくる気配がして
横になっていた愛恵は身を起こした。
「マナエさん、起こす、した?・・・済みません」
フールンさんがそう言って少し離れた所に立っていた。
「具合、悪い?・・・何か食べた?飲んだ?寒い?ですか?」
気にして様子を見に来てくれたようで愛恵は自然と笑顔が零れた。
どうしてフールンはこっちまで来ないのだろうか
と首を傾げながらもともと眠っている場所は狭くは無いけどと
思いながらも座る場所が無いと思っているのかもしれないと、
身体をずらして見るがフールンは苦笑いして近寄っては来ない。
「・・・・少し、食べ物、飲み物、布団、持つ、来た。」
フールンが後ろを振り向くと仕切りの向こうに誰かもう一人いたようで
フールンにパンのようなものとミルクが載ったトレイを渡して
次に掛け布団をその場に置いた。
フールンと来た見知らぬその若い男の人の姿に急に緊張して
愛恵は乱れても居ない服の襟元を直した。
「寝る、場所、来た、済みません・・・驚かせて」
済まなそうにフールンが言って、
どうしてなのかその若い男もみるみるうちに赤面した。
つられて愛恵も赤面しながら俯いていそいそと寝床から起き上がって
付いてもいない埃を懸命に掃った。
「・・・・花音ちゃん・・・どうでしょうか?見付かったのでしょうか?」
しばらくして、おずおず自分からフールン達に近づいて、
おそるおそる質問した愛恵の顔を見て
静かに首を振るとフールンは申し訳なさそうな顔をした。
しょげた顔で俯く愛恵を見て、
フールンと共に来た男が慰めるように愛恵に手を伸ばそうとしたが、
愛恵はその手に気付かずにフールンの方に一歩近づくと
「・・・探して頂いて済みません
ありがとうございます・・・・花音ちゃん、きっとすぐ見付かりますよね?」
と頑張って気丈にしている事がありありと分かる表情で見つめた。
フールンは、ほっとけない気持ちになって
少し躊躇したけれどギュッと愛恵を抱き寄せて
安心させるように背中を叩いた。
「花音ちゃん!!」
深夜、見つかったと聞いて愛恵は、堪らず駆け出した。
足や、腕の筋肉の痺れで少しよろめきながらも
松明で明るく照らされたその場所に急ぐ、
「花音ちゃん!!」
ブワッと涙が溢れ出てくる。
大人達に囲まれて憮然とした表情でその華奢な子どもは立っていた。
花音を探してくれていた人達だろう、
駆け寄る愛恵に気付くと道を開けてくれた。
「何処にも行かないで、一人でどっかに行っちゃわないでよ」
愛恵の涙でグチャグチャになった顔を見て一瞬花音は、怯んだが
それにも構わず愛恵は、やっと見つかった花音を強く抱きしめた。
抱きしめた花音から、名前のように花のような、
でも心落ち着く匂いではなくて、何か心が騒ぐ浮き立つような
香りを感じて、でも、愛恵は、これが花音の香りなんだと安心した。
一緒に居たのと言えばほんの一日ほどのはずなのに、
色々有り過ぎたせいもあるのか、
今ではもう、花音が居る、花音を感じると言う事にホッとした。
「・・・・涙で汚れるじゃないですか!
まったく・・・・恥ずかしい人ですね・・・
鈴木愛恵さん・・・・・・。」
居心地悪そうに抱かれていた花音だったが、やがて元の調子で
そう言って、安心させるようにそっと抱き返してくれた。
「どうして、花音ちゃん、一人で行っちゃったの?」
少し身体を離して尋ねる愛恵に花音は手の仕草で愛恵の足を折らすと
そっと手の甲で涙を拭ってくれた。
「・・・・・貴女が邪魔だったからですよ・・・・・
足手まといでした。・・・・・でも、そんなに泣かれたら仕方が無いですね
傍に居てあげますよ・・・・・恥ずかしくて足手まといな鈴木愛恵さん。」
苦笑しながらのひどい言葉に愛恵は物凄く傷ついた。
「・・・・まったく・・・・今ならまだ離れられると思ったのに・・・
貴女の泣いてる顔を見たら、離れられなくなったじゃないですか
泣き虫で頼りにならない鈴木愛恵さん」
仕方が無いですね・・・どうなっても知りませんよ鈴木愛恵さん・・・
しょうがないから・・・・・私が守ってあげますから・・・離れないで傍に居なさい
後は小声で愛恵だけに聞こえるように耳元で囁いた花音の言葉に
そして少しいつもと違う低めた声と驚いて見つめ返した愛恵の瞳を
じっと見つめる煌めく花音の紫水晶の瞳に
何故か愛恵は頬のあたりがほんのり熱くなるのを感じた。




