もうひとりいる!?
流は映画館の真ん中付近の座席に腰掛けて、虚ろな瞳でスクリーンを眺めながら、何とも言えない居心地の悪さを感じていた。
右隣では由香里が鼻水をすすりながら、涙を滝のように流して食い入るように画面を見つめている。
また、左隣では若い男女がお互いの股間をまさぐりながら、映画そっちのけで熱烈なディープキスをかましていた。
映画はクライマックスに差し掛かっており、仰々しい劇伴をバックに、主人公と思われる白人男性が、戦いで致命傷を負って横たわった親友の上半身を、悲痛な面持ちで抱き抱えていた。
「どうやら俺はここまでみてえだ…。最後に懺悔させてくれ…。実は高校の時に、お前の彼女を一度寝取った。誠に申し訳ない」
「…気にするな」
「あとお前の妹とも寝た」
「気にす…何だって?」
「あ、そうだ…。あれも言わなくちゃな…」
「いや、別に無理して言わなくても…」
「お前のお袋にも手でしてもらった、2回」
「…分かった、もう十分だ」
「あ〜そうそう、思い出した。お前の嫁と前にバーで会って…」
主人公は親友の頭部を拳銃で撃ち抜いた。
そのまま、自身のこめかみに銃口を向けると、躊躇なく引き金を引いた。
感動的なバラードとともにスタッフクレジットが流れ、映画は終わった。
ショッピングモールを出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
帰り道の途中にある、ドブ川の上にかかった細長い橋を2人で渡っている最中、由香里が唐突に言った。
「へぇ〜!流さんこういう曲が好きなんですね!」
気が付くと、いつの間にか由香里が彼のイヤホンを片方、耳につけていた。
「おい、勝手に…」
「何か悲しい曲ですね~!何て曲ですか?」
「………モグワイの『cody』だよ。君には面白くないだろ?」
突き放したような口調で流がそう言うと、由香里は屈託のない笑顔で笑った。
「そんなことないですよ!寂しいけれど…優しい曲で好きだなぁ、私」
「……………」
「…ちなみに終わったら私が厳選したマノウォーのプレイリストでも聴きますか?」
「いや、それはいい」
ふいに、由香里の携帯が衣服の中で音を発した。画面を確認すると、彼女は呆れ気味に言った。
「兄さんてば、私の帰りが遅いから連絡して来たみたいです!心配性だなぁ」
「…妹思いの大した兄貴だな、少なくとも僕なんかよりは」
彼のセリフに、由香里は大袈裟に目を丸くした。
「えっ!流さん一人っ子じゃないんですか〜!?」
由香里が尋ねると、流は遠い目をして答えた。
「ああ…言ってなかったか、双子の弟がいる。もう長い間会ってないけどな。今頃、どこにいるのやら…」
「…意外とすぐ近くにいるんじゃねーか?」
背後から聞こえた声に、2人がギョッとして振り向くと、パーカーにジャケットを重ね着した男が佇んでいた。
そいつを見るなり、由香里は困惑気味に呟いた。
「な、流さんがもう一人…!?」




