9話
「私、クラメと言います!是非仲良くしてください!」
「は、はい」
クラメにタジタジのルスをラヴィはジト目で見ていた。
「と、とりあえず必要であれば医者の方を呼んでもらって、僕は手続きを進めてもいいですか?」
「はっ!そうでした!ではまた受付にお願いしますぅ」
パタパタと駆け足でクラメは戻っていった。
ルス達はコイアの体勢を整えた後、受付へ戻った。
冒険者ギルド全体がなんだかざわついてる。
「おいおいあいつが…」
「本当だとしたら…」
「馬鹿言え、そんな話があるわけないだろ…」
「確かに剣士って感じじゃねえな…」
「誰か現場を見てないのか…」
ロビーに屯していた人たちが、二人の方を見ながら何かを話している。
ルスは気にせず受付に向かい、ラヴィも続いた。
「先ほどは失礼しました」
クラメが丁寧な口調で話しかける。
「コイアさんは医療従事者の方が到着次第、診てもらう予定ですので安心してください」
「良かったです」
「ところで再度確認なのですが、コイアさんはルス様に合格と仰っていたのでしょうか?実技試験にて試験官の方があのような事態になることは想定されていなかったので…」
「はい。合格ラインは超えていると、途中で仰っていました」
「そうですか…」
「もし必要な工程であれば、明日以降、試験官の方にお伺いになってからで構いません。私たちも本日中にクエストに行かなきゃ行けないわけでも無いし、ね?」
ラヴィはルスを見た。
その通りであったので、ルスも頷く。
「ではそうさせて頂きます。お手数をお掛けしますが、また明日以降こちらの受付にいらしてください」
「分かりました」
「ところでパーティを組みたいと仰っていましたが、既存のパーティに参加されるという事ですか?」
「いえ、僕たち二人で新しく立ち上げようと思って」
ラヴィは二人でという言葉に気恥ずかしさと嬉しさを覚えた。
ただ、それは顔に出さないよう取り繕う。
「ね、ラヴィ?」
「え、ええ、そうね」
取り繕う努力をしていた。
「お二人ですか。一般的なパーティ構成は3人以上が基本とされているので少し人数不足に感じるかもしれませんが、まあ創設したてですからね!ちなみにそちらの方のジョブはやはり剣士ですか?」
「いいえ、魔法使いです」
ラヴィは簡潔に答える。
「なるほど、ルス様と同じく魔法使い…え、という事は、最初から魔法使いお二人のパーティという事ですか!?」
「そうです」
クラメは大変驚いていた。
「あ、すみません。そもそもあまり多くはいない魔法系統のジョブのみで構成されている、大変珍しいパーティ構成なもので」
「もしかしてルール的に問題があったりしますか?」
「いえ、そんな事は無いんです。ただ珍しいと言うだけで…」
「なあ、てめえが噂の魔法使いか?」
急に見知らぬ男の声で会話が遮られる。
ルスの横には大柄な男が立っていた。
「噂?」
ルスは何のことだかわからず聞き返す。
それを聞いた男は舌打ちをし、大声で言った。
「てめえが実技試験の試験官を倒したとか言う奴かって聞いてんだよ!!!」
バンッ!!!と受付カウンターの机が叩かれる。
「きゃっ!?」
クラメはびっくりして身体が跳ねた。
「イラギさん!落ち着いてください!」
クラメに呼ばれた男は一切気にせず、ルスを睨む。
「そうだね」
ルスは動じずに答える。
「試験官を倒したとか言う噂を聞いてやってきてみれば…こんな奴が?オレ様でも倒せなかった試験官に勝てるわけがねえ!!イカサマだろ?言ってみろよ!!なあ!?」
大声でイラギは怒鳴った。
「話を聞いてりゃ魔法使い二人だあ?はっ、バカな冒険者もいたもんだ。いいか?オレ様がいい事を教えてやる。てめえらみたいなクソ後衛職はパーティに要らねえ!!一人でも多いくらいだ!それが最初から二人…?そんなお荷物どもの世話、誰がしたがるってんだよ!!」
イラギは続ける。
「一番強いのはオレ様みたいな剣士だ!!てめえらみたいなカス共にはない圧倒的力がオレ様達にはあるんだよ!!てめえらは一生Fランクパーティとして這いつくばってるのがお似合いだ!!」
一頻り吠えた後、男は初めてラヴィを見た。
品定めするように上から見る。
「…女の方は悪くねえじゃねえか。お前だけなら特別にオレのところに入れてやってもいいぜ?今のヤツにも飽きたところだ」
嫌な笑みを浮かべ男は言う。
「遠慮するわ」
ラヴィは即答した。
「はっ、生意気な奴だ。せっかくオレ様が声をかけてやったというのに」
イラギは悪態をついたが、そこまで期待もしていなかった。
「一つ言うと」
ルスが口を開く。
「僕はイカサマをしていないよ。もし知りたければコイアさんに聞いてくれ」
「こいつ…!!」
イラギは再び怒りを露わにする。
「本当にイラつくんだよてめえみたいな奴はよお!!今すぐここでぶっ潰してやろうか!!?」
「冒険者同士の戦闘はやめてください!」
「いいだろ、今のこいつは冒険者ですらねえ!!」
クラメに食って掛かるイラギ。
「に、人間同士、仲良くしてくださいぃー!」
クラメは負けじと声を張り上げる。
「…行こうか。何か食べたくなってきたし」
ルスはラヴィに話しかける。
「そうね」
「無視すんじゃねえ!!」
イラギは未だ怒りを抑えきれていなかった。
去り際にルスは言った。
「僕はイラギさんと戦う必要は無いと思ってる。でも」
振り返り、イラギをしっかりと捉えた上で続けた。
「必要があれば、するよ」
その目は確かな意志と、只ならぬ圧を感じさせ、イラギを少し怯ませた。
「行こう」
ルスとラヴィは街中へ去っていった。
「必要があれば、か…」
イラギは彼らを見ながらその言葉を反芻していた。
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