31話
(人間が…飲み込まれた…!?)
その後の行動は全員異なっていた。
ルスは何も言わずにラヴィの前に行き庇えるようにした。
ラヴィは杖を握ったまま動かない。
フードの男は口を開けたまま身体を震わせている。
「…なぁにすんだてめえぇ!」
静寂と切り裂いたのはクロルだった。
「…っ! 行くなっ!!」
ルスの声は届かない。
剣を取って走り、黒いスライムに斬りかかるクロル。
「シロルを!返せ!」
何度もスライムを斬り刻むがやはり手ごたえは無い。
スライムは自分の身体の一部を薄く広げ、クロルに覆いかぶさるように襲い掛かる。
それは投網の様であった。
「くっ! はやっ…!」
クロルは身を引いて躱そうとしたが、相手の拡張速度の方が早かった。
スライムの身体の一部は、意志を持ったマントの様にクロルをとらえ、腹部や下半身を包み込む。
身体を支えられなくなったクロルの上半身は地面に落ちる。
「うわ!やめろ!この!」
彼女は底なし沼から抜け出すように体を捩じり、地面を掴むように這い出ようとする。
しかしスライムから逃れる事は出来ない。
少しずつ身体は飲み込まれていく。
「う、うわあああああああ」
錯乱したように剣で斬りつける始めるクロル。
やがて剣を持っていた手も飲み込まれてしまう
「あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
クロルの声が響く。
そして音もなく、深い黒に飲み込まれていった。
ごくりと唾を飲むルス。
(この世界をよく知らない僕でもわかる。あれは異常だ。そして信じたくはないが…)
ルスはどす黒いスライムをもう一度よく観察する。
人間が完全に飲み込まれる度に、物体は僅かに大きくなってる様に見えた。
「な、なんだアレは…あんなもの、オレは見た事が…!!」
腰が抜けたまま後ずさるフードの男。
男はルスやラヴィと違い立つことも出来ず、ただひたすらに震えて見ていた。
黒いスライムは距離が一番近いフードの男の方へ向かう。
「ひいぃっ!!?」
悲鳴を上げた男は両手両足を地面につけたまま後ずさる。
スライムはゆっくりと歩みを進めていた。
「く、来るなっ!」
男は両手をつきながら逃げ出そうとする。
近づいてきたスライムは大きく口を開ける。
「い、いやだああああ!!!」
四足歩行で逃げようとする男。
しかし薄い布団が上から覆いかぶさったかのように、男の身体全体をすっぽりと包んだ。
広がった形状から少しずつ元のスライム状に戻っていく黒い何か。
そして元の形に戻った頃、男の姿は無かった。
(なんだ、これは…)
ルスは目の前で起きた悲劇を受け止めきれずにいた。
明らかに異質な物体は果たして何が目的なのか、次に何をしようとしてるのか全く分からない。
対処法も逃げ切れるのかも皆目見当がつかない。
しかし、野放しにするべきでない事は分かっていた。
「ラヴィ…動ける?」
「ええ」
震えた声が後ろから聞こえる。
「ゆっくり下がるんだ、僕が囮になるから」
「!? 何言って…」
「僕なら大丈夫だから」
精一杯気丈に振る舞う。
「それよりも教えてほしい事がある。属性系の魔法だ」
(物理攻撃が通用していない。それ以外の方法を試すしかないだろう)
ルスは考えながら続けた。
「特に土属性と光属性と闇属性だ。そこら辺が鍵だと予想している。もし出来るなら今の順で教えて欲しい」
「分かった」
ラヴィはルスに呪文を教えた。
「クレイ」
教わった呪文を唱えながら杖を振る。
スライムの目の前の地面が盛り上がり、1メートルほどの壁が出来る。
スライムはそれを避けるようにしてルス達の方へ進んだ。
ルスはそれを見てもう一度杖を振る。
スライムの周りの地面が盛り上がり、立方体になるようにくっつく。
黒いスライムを閉じ込めた。
「ふぅ…」
ルスは息を吐いた。
「すごい…けどルス、本当にアレと戦うつもりなの!?」
「ああ。僕も聞くけどラヴィは逃げないつもり?」
「ルスだけ危険な目に合わせられないわ。例え私が役に立てなくても」
(いや、多少なりとも何かして見せる)
ラヴィは覚悟を決めていた。
「アレとの距離は十分にとるし、無理だと判断したらすぐに逃げるわ。でもルスが立ち向かうのであれば、私も手伝う」
ルスはラヴィの目を見た。
「わかった。くれぐれも無理はしないで」
「ルスもね」
「うん、勿論。それで、ラヴィはアレの正体は知らないんだよね?」
「ええ。あんな深い黒のスライムは本でも見たこと無いわ。それに剣での攻撃が通用しないなんて」
「きっと普通は物理攻撃も通じるんだよね?」
「もちろん。ちゃんとぶつかるし、攻撃を受けたような反応があるわ。それに色がもっと青っぽい」
「じゃあやはりアレが異質…」
ルスは立方体の土を見る。
特に動きは無い。
「あの四角の手前側を開ける。デバフや攻撃が出来ればして欲しい」
「分かったわ」
「いくよ。クレイ」
立方体のうち、ルス側の側面が開く。
中にいた黒いスライムはゆっくり動き出す。
「ウィンド」
ルスの杖から突風が起こる。
スライムは風に飛ばされ、再び立方体の中に入る。
「ファイア!」
ラヴィの杖から火の玉が放たれる。
それはスライムに直撃したが、反応は無かった。
特に怯む様子もなくゆっくりとこちらに向かってくる。
「き、効いていないのかしら」
「もっと色んな属性を試そう。アクア」
ルスの杖から水が噴き出る。
直撃したスライムは止まり、少し後ろに仰け反る。
「ダーク!」
ラヴィの杖の先に黒い靄のような球体が現れる。
ラヴィはそれを火の玉と同じように放つ。
スライムに直撃したが動きに変化は無い。
「アイス」
氷の牙がスライムを襲う。
スライムは止まり、少し震えた。
(非常に分かりにくいが、効いている…?)
ルスはスライムを注視する。
「ライト!」
ラヴィの杖の先から白い光線が放たれる。
それはスライムを貫通した。
スライムの動きは止まり、徐々に押し返されていく。
「! 効いているみたい!」
ラヴィは声をあげた。
光線の威力が上がる。
耐えきれなくなったようにスライムは後方に飛ばされた。
(白い光線で立方体が壊されたのか)
光線が消えてからルスは確認する。
二人から離れたスライムはブタの魔物の近くに転がった。
ブタはそっぽを向いて草を食べている。
少しの間動かなかったスライムだが、そのブタの方へ進み始めた。
「え!?」
「まずい…!」
スライムは近づいた後、口を開け、補食に入ろうとする。
マントの様な身体がブタの上に広がった。
「ライト!」
ルスは全力で魔法を放つ。
ラヴィのよりも大きく早い光線はブタにギリギリ当たることなく、スライム全体に直撃した。
光線を暫く放った後、一度止める。
魔法の通過した場所には何も残っていなかった。
「はぁ…」
杖を持っていたラヴィはぺたん、とその場に座り込む。
「対処出来たかな」
「ええ。たぶん」
ブタは穏やかに草を食べ続けていた。
次回更新:2/13 12:00以降
追記:
次回更新遅れます…m(__)m 2/14中、若しくは2/15にはどうにか…
それと誤字訂正してくださった方、ありがとうございますm(__)m




