蘇生魔法と……
「さて……」
ルキフェナとの契約が完了した俺は、ステータスを確認してみた。
★名前:ルキフェナ
★レベル:237
★種族:堕天使
★スキル:聖魔法Lv7、闇魔法Lv7、石化の魔眼、隷属の魔眼、心失の魔眼……
そこに並んでいたのは、通常の冒険者であれば一生目にすることが無いであろう、あり得ない内容ばかりだった。レベルだけでも魔王軍幹部級、聖属性と闇属性という相反する属性を共に"大魔導師級に扱い、更にはごく一部の者にしかあつかえない『魔眼』を使いこなす。
天使族という種族がいかに規格外の存在か、よく思い知らされる。
「ところでお前、なぜ堕天使になったんだ?」
俺はふと気になったことを聞いてみた。天使族というだけでも稀な存在のに、堕天使ともなれば尚更だ。
「別に大した話ではありません。ちょっと他の無能な天使共から力を奪おうとしただけですわ」
「おいおい」
「優秀な者が力を持っていた方が世界の為でしょう? それなのにあの方達ときたら私を悪者にして、最終的に熾天使共まで出張ってきてボコボコにされましたわ」
「お前は悪そのものだろうが」
ルキフェナは特に悪びれもせずに言った。こいつも魔物とは別の次元で、倫理観というものが欠如しているじゃないか。
「ああ、貴方に邪魔をされなければ、ゆくゆくは地上の人間共を支配して、その信仰心で神をも超える力を手にする筈でしたのに!」
「言ってることが魔王と同じだな」
「ちょっとご主人様! 魔王様は配下である魔族の為に地上に侵攻しているんです! こんな自分勝手な奴と一緒にしないで下さい!」
「はっ。繁殖しか能のない下等生物は大変ですわねえ」
「さっきまで泣きながら漏らしてた人に言われたくありません!」
「なんですってぇ!?」
シトリーとルキフェナがバチバチと火花を散らす。この二人が和解する日は来るのだろうか。
「……で、本題だが。お前が殺した冒険者達の蘇生は可能なのか? というか、信仰が欲しいなら何故殺したんだ?」
「こほん……あれは他の冒険者の餌にするために仮死状態にしただけです。天使の能力である『蘇生の奇跡』を使えば復活するでしょう」
「そうなのか。じゃあ、すぐにでも戻せるのか?」
「それは不可能ですわね」
「……何故だ?」
「『蘇生』は天使が起こす奇跡の中でも最たるもの。私のような堕天使でしたら、最高レベルである300にならないと使えませんわ」
……そういうことか。俺は大きく溜息を吐いた。対照的にルキフェナはニコニコと微笑んでいる。
「あの方達には気の毒ですけど、もうしばらく寝てて貰うしかありませんわねえ。レベルを一気に上げる方法でもあるなら別ですけど?」
当然、先ほどの説明の中で俺は『レベルドレイン』とその方法についても話している。つまりこいつは、俺達をおちょくっているのだ。
「さあどうします? 新しい私の主。人間にとって人命は、何よりも優先されるべきものでは?」
「……」
俺は横目でチラりと二人の方を見る。
「こいつ、清々しい程のクソ女じゃなあ」
「ぐぬぬぬぬぬ……」
ツバキはともかく、問題はシトリーだ。『蘇生』のためには『レベルドレイン』が、そしてその為にはルキフェナと交わらないといけないわけで……。何とか説得する方法はないものか。
と、その時俺の視線に気付いたらしいツバキが、シトリーに小声で耳打ちし始めた。
「(どうじゃシトリー。いっそ『レベルドレイン』の方法についてバラしてしまうべきでは?)」
「(それだけは無理です! でもご主人様があの女にいいように搾られるというのも……ああ! とても耐えられません!)」
「(ふむ。ではいっそこうしてはどうじゃ? まず主殿に……)」
内容は聞き取れないが、おそらく説得してくれているのだろう。しばらくして、二人はようやく戻ってきた。
「……ご主人様、お願いがあります」
「な、なんだ?」
「これは愛のある交わりではなく、その女への『仕置き』ということにして下さい!」
シトリーは高らかに宣言した。そんな大声で『交わり』とか言わないでほしいんだが。
「その女の歪みきった性根を叩きなおし! ご主人様の従順な下僕にするための行為であると! 割り切ってください!」
「あ、ああ。そのようにしよう」
俺はシトリーの剣幕に押されるように了承した。最初からそのつもりだったんだが。
一方でなりゆきを見ていたルキフェナは、意地の悪い笑みを浮かべたまま俺を見る目を細めた。
「ふふ、情けない主人ですわねえ。それにしても、人間と交わるなんて初めてですわ。どのように可愛がってあげようかしら?」
ルキフェナは舌なめずりをしながら、その裸体を露にした。彫刻のような美しい造形美に思わず目が奪われてしまう。気が付くと俺は彼女に押し倒され、いつの間にか下も脱がされていた。
「さあ、主。貴方の体中を愛して、天国へ連れて行って差し上げますわ。まずは唇から――」
「あー、その前に一つ。いいか?」
俺は自分の心臓の鼓動を感じながらも、何とかルキフェナを制して言った。
「あら、何ですの?」
そして嗜虐心に満ちた彼女の瞳に目を合わせて――例の『魔眼』を発動させた。
「あっ……ああああぁぁぁぁっ!?」
ルキフェナの全身から力が抜け、俺の横に倒れこんだ。紅潮させた顔を何とかこちらに向ける。
「な、なんで貴方がそれを……」
「言っただろう。夢の中なら、俺に出来ないことはない」
まあ実際は何でも出きるというわけでもないのだが。少なくとも、一度見た魔眼を再現するくらいは余裕だ。
だがルシフェナも多少耐性がついてきたようで、何とか主導権を取り返そうとしてくる。
「ふ、ふふふふふ……ですが所詮貴方は人間! 数々の天使や魔物と交わってきたこの私が、そんな貧相なモノにイカされる筈ありませんわ!」
……別に自分のモノにそこまでの自信があるわけではないのだが、そこまで言われては多少頭に来るというものだ。
「じゃあ、どれ位なら満足するんだ」
「そうですわねえ、少なくとも私の腕くらいの太さがないと満足できませんわね! まあ人間の貴方にそこまで求めては可哀相――」
「これくらいか?」
俺は強くイメージした。そしてイメージできたことは何でも実現するのが、この【明晰夢】の世界である。
「……えっ?」
俺の変化を見て、ルキフェナの顔色が見る見るうちに赤から青に変わる。
「い、いや……さっきのは言葉の綾というか、冗談だって分かりますよね? いくら何でもその大きさは無理でしょ!?」
可哀相な気もするが、このクズ天使に立場を分からせてやるいい機会だろう。逃げようとするルキフェナを、後ろからシトリーがガッチリ押さえ込む。
「そう遠慮しないで下さいよ天使様。大丈夫、ご主人様は優しいですから!」
「優しいとかそういう問題じゃないでしょう! あんなものを入れられたら私、本当に死んでしまいますわ!」
「なあに、天使殿の体は頑丈じゃから大丈夫じゃろう。ワシら淫魔かて、あれくらいの大きさの獣と交わることくらいあるぞ?」
「だったら貴方がやってみればいいじゃないですか!」
「いやあ、ワシは普段の主殿が一番好きじゃからのう。さあ主殿、一思いにやってやれ」
「ちょ、待っ……ひぎぃっ!?」
◆ ◆ ◆
しばらくして。さすがにやりすぎたかと心配になり、俺はぐったりとしたルキフェナの身を起こした。
「……大丈夫か?」
「はぁっ、はぁ……。ふっ……ふふふ……」
ルキフェナは目をトロンとさせたまま、俺の手を取って言った。
「……私は今日、本当の『天国』というものを知りました。私は今この時より、貴方様の忠実な下僕となります」
「……は?」
「どうか憐れなる私を赦し、そして時には……罰をお与え下さい!」
顔を赤らめながら、俺の手を強く握り締めるルキフェナ。その瞳には、先程までとは異なる狂気が浮かんでいた。
「主のためならどんなことでもします! ですからどうか、この私に主のお恵みを!」
「うわあ」
「壊れてしまったかのう」
当のシトリー達ですら、あまりの変貌に引いているようだ。俺もまさかこうなるとは思っていなかったので、心が痛むのだが。
「……ええと、じゃあまずは『蘇生』から頼めるか?」
「お任せ下さい! 例えゾンビだろうと生き返らせて見せますわ!」
……本当にこいつに任せて大丈夫なんだろうか。