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微かな疑惑

 翌朝のことである。俺は寝不足で目を擦りながら、ギルドに顔を出していた。


「おはようございます、チセさん」


「ケインズさん! しばらくぶりですね。前言っていた魔法の件はどうなったんですか?」


「ええ、おかげでなんとかなりそうです」


 結局昨日はツバキとの契約の件で話が終わってしまったので、固有(ユニーク)魔法の鍛錬はまだこれからである。


「でも、大分お疲れみたいですけど。何か問題でもあったんですか?」


「いえ、全く」


 疲れている理由は絶対に知られたくない。


「それより、この数日で何か大きな事件やクエストはありました?」


「それほど大きなものではないんですが、相変わらずクエストの依頼は多いですねえ。確か今日来たものがここに……えーと」


 チセさんが書類の束を(めく)る中で、ある記事が目に留まった。

 『アルベージュ大森林で謎の爆発 魔物同士の抗争か――』

 俺は見なかったことにした。


「ケインズ君、ちょっといいかね?」


 そんな時、思わぬ人物から声が掛けられた。


「ギルド長! お久しぶりです」


「君の姿が見えたものでね。是非君に受けて欲しいクエストが来ているんだが」


 ギルド長とはその名の通りギルドの長であり、職員の上司にあたる。普段は街の運営本部にいることが多いため、俺も直接会うのは二回目だ。そういった立場もあって、現場(ギルド)の職員からはあまり良い噂を聞かないのだが。


「どういったクエストでしょうか」


「街の治安部による統計分析の結果、ここ数ヶ月で女性型の魔物に襲われる事件が急増していることが分かった。その理由の調査と、可能であれば抜本的解決をお願いしたい。()()()()()()()のクエストだろう?」


「――なるほど。自分の疑いは自分で晴らせということですね」


「まさか! 君が優秀な魔物遣い(テイマー)であることは知っているとも。そんな君であれば、魔物界隈の情報収集にも長けているのではないかと思ってね」


「ちょっとギルド長! それってケインズさんのことを疑ってるんですか!?」


「そうは言っていない。彼の従える魔物(サキュバス)の異常な強さについて、一部の冒険者から疑問の声が上がっていたとしてもだ。それとこの事件には何の因果関係も無い。そうだろう?」


「その通りです」


 ギルドの長を務めるだけあって、中々いい性格をしている。万が一俺が黒だったとしても圧をかけられるし、白だったとしてもクエストを達成できなければ俺の評判も落とせると、そういうことだろう。

 とにかく俺が事件の原因を解決してしまえば済む話だ。データとして現れるほど襲撃が活発に起きているなら、裏で手を引いている奴がいてもおかしくはないだろう。


(これで本当に俺の身内が犯人だったら目も当てられないが……まあ、大丈夫だろう)


 シトリーとは寝ている間まで行動を共にしてきたし、性格的にも信用している。ツバキは……性格的には正直やっていてもおかしくなさそうなんだが。そんな派手な真似をしていたのなら、とっくにエレオノーラさんに見つかっているだろう。


「引き受けましょう。事件の詳細な資料はありますか?」


「うむ。期待しているよ」


 俺の潔白を示すよい機会だと捉えておこう。心配そうな顔で俺を見ていたチセさんに別れを告げ、俺はギルドを後にした。



   ◆     ◆     ◆


「……で、これがその資料ですか? 確かに多いですねえ」


「退屈そうな仕事じゃなあ」


 俺は一旦家に戻り、シトリーとツバキと共に資料を見ていた。


・複数の獣人種により商隊が襲われる。うち7名が重傷

・クエスト帰りの冒険者が鳥人(ハーピー)に襲われ、戦利品を奪われる

・複数の女性が家から貴重品を持って失踪 付近でフードを被った不審な女性と話していたという報告あり


 こうした報告がずらりと並んでいる。これら全てが女性型魔物によるものだとすれば、確かに異常な件数だろう。


「この街の近辺だけでもこれだ。お仲間(サキュバス)の仕業である可能性は?」


「ないですね」


「ありえんな」


 念のための確認だったのだが、思った以上に明確な否定が返ってきた。


「サキュバスは基本個人行動ですから、正面きって商隊や冒険者を襲うことなんてまずありません。逆にそれが出来る程の力を持った者なら、こんなしょぼいことしませんよ」


「これらは金品目当ての行為ではないか。サキュバスなら男を無事に帰すわけないじゃろう」


「となると、指揮している立場の奴がいるな。だが女性型の魔物だけに実行させている理由は何だ?」


「うーん……種族もバラバラですしねえ」


 この犯人が女性型の魔物に(こだわ)っていなければ、俺があらぬ疑いをかけられることも無かっただろう。そう考えると俄然犯人に対する怒りが沸いてきた。


「これ以上考えても仕方が無いのう。怪しそうな魔物(やつ)を捕らえて聞いてみれば良かろう」


「心当たりがあるのか?」


「実はついさっき式神から連絡があってのう。ちょうど今、街に入ろうとしていた商人が襲われておるぞ」


「ええっ!?」


「先に言え!」


 俺は慌てて家から飛び出していた。シトリーと話していると忘れてしまうが、魔物とは本来これくらい人間に無頓着なものなのだ。


「人間がどうなろうと別に儂の知ったことでは……ってこらシトリー! 尻尾を引っ張るでない!」


「いいから早く来てください! 引っこ抜きますよ!?」


「その話はよさんか! はあ、馬鹿真面目な奴らじゃのう……」

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