事件の犯人
「大丈夫ですか!」
「ひいっ、ひいっ、た、助けてくれ!」
街から程近い橋の上を、一人の男がよろよろと歩いていた。周囲には魔物の気配はない。
「怪我はありませんか?」
「ああ、かすり傷だ! それより俺の商品が、荷馬車ごと奪われちまって……」
男の指差す方向を見ると、遠くに豆粒ほどの大きさの荷馬車と魔物らしき影が見えた。
「あれにはこの街に卸すはずだった薬の類も積んでいるんだ! 冒険者さん頼む、何とか取り返してくれ!」
「任せてください――シトリー!」
「いきますよご主人様! 『スルーラ』!」
俺とシトリーの体が緑色の結界に包まれたかと思うと、瞬時に矢のような速度で打ち出された。当然標的はあの魔物である。俺達が前を塞ぐように降り立つと、魔物達にどよめきが走った。
「な、なんだ貴様らは! 突然空から降ってくるなんて――」
魔物の数は5体。予想通り、その全てが女性型の魔物である。
「荷物を返してもらおう。ついでにお前らのボスも教えてもらう」
「クソッ、やっちまえ!」
先頭にいた獣人の女が鋭い爪で俺を狙ってくるが、危なげなく回避する。この程度、俺達の敵ではない。
「シトリー、一体は殺すな」
「了解です! 『荒嵐の槍』!」
シトリーの手元に風が渦を巻く。そこから目にも止まらぬ速さで打ち出された不可視の槍は、魔物達の体を易々と貫き、魔物達の断末魔が響いた。
「ぎゃあああぁぁぁ!」
「ば、馬鹿な! 瞬殺だと!?」
「さあ、話してもらいましょう! さもないと……」
「ひいっ! 分かった、話す! ボスの根城はこの先の洞窟だ!」
魔物はシトリーの圧倒的な力に戦意を消失したようで、命乞いのようにべらべらと喋り始めた。その時、後ろから遅れていたツバキもやって来た。
「せっかちな奴らじゃのう。商人の男を連れてきてやったぞ」
「おお、まさかこんな早く取り返せるとは! ありがとうございます冒険者殿! 突然こちらの魔物に声を掛けられたときは、今度こそ死んだかと思いましたが……」
「ああ失礼、そいつは自分の仲間です。ツバキ、ありがとうな」
「当然のことじゃ。それよりもそこの魔物じゃが、嘘を吐いておるぞ」
「ほう?」
俺とツバキの目が向けられると、今度こそ魔物は顔面蒼白になった。
「お主、狼の獣人じゃろう。人を騙すのに慣れてないのう。儂の目はごまかせんぞ?」
「ひ、ひいぃ……本当の拠点はこの先の古い城です……」
「よし、案内しろ」
俺達は商人の男を街に送り返すと、こいつらのボスの下へと向かった。
◆ ◆ ◆
「こ、ここです……」
着いた場所は、街からそれ程離れていない廃城だった。こんな場所が魔物達の拠点になっていたとは。近くに街道やダンジョンがあるわけでもないので、今まで誰も気づかなかったのだろう。
「何やら妙な気配がするのう。恐ろしくはないが、何となく不快なような……」
「よし、入りましょう!」
ツバキの言うことも気になるが、シトリーは全く気づいていないようだ。仕方が無いので俺も入ることにした。
「あの、中には私の仲間がいるんですけど、ここで見逃してもらうわけには……」
「駄目だ。人間を襲った責任は果たしてもらう」
狼の獣人をツバキの術で縛りつけたまま、俺達は城に足を踏み入れた。
「侵入者だ! 殺……ぎゃっ!」
中には配下と思われる無数の魔物がいたが、シトリーの魔法で簡単に片がついた。本当に女性型の魔物、それもわりと美人しかいないのが気になるのだが。
そして俺達は、彼女達のボスと思しき人物と遂に合間見えることになった。
「この扉の先です……。ローズ様、どうかお赦し下さい……」
扉を開けると、そこはかつての玉座の間だった。そしてその玉座に一人の男、いや魔物が腰掛けていたのだ。
「――ようこそ、可憐なる我が仇敵。オマケにみすぼらしい人間の男よ」
朗々とした声が響く。男は王都でも見ないほどの壮絶な美形であり、それを誇示するかのように、周囲に裸の女達を侍らせていた。
「……なんか思ってたのと違うなあ。お前が人間を襲っていた魔物達のボスか?」
「そうともさ。私こそは全ての美しき女性達を統べる王の中の王――ローズニルである!」
周囲の女性達から黄色い歓声が上がるのを、俺は白けた目で見ていた。確かにこの男は相当な美形だが、全く強そうな気配がしないのだが。
「ローズニル様! どうか私めをお赦し下さい! この者達に脅されて仕方なく……」
その時、俺達を案内してきた獣人がローズニルに駆け寄り、その前に跪いた。この男が配下から慕われているのは本当らしい。だが――
「ふん。自分の命惜しさにこの私を売るような浅ましい心の持ち主など、我がハーレムに不要!」
「そんな! お願いしますローズニル様! どうかお慈悲を――」
男がパチンと指を鳴らすと、左右の扉から武装した女魔物達が現れ、どこかへと連れ去ってしまった。碌な目に遭わないであろうことは想像に難くない。
「お見苦しいところを見せた。さて、では客人共よ、要件を聞こうか――特にそこのサキュバス共!」
配下を処分するときでさえ冷静だった男の態度が、途端に豹変した。
「汚らしい淫売が我が城に足を踏み入れて、五体満足で帰れると思うなよ!? その辺のオークにでも売りつけてやろうか!」
「ほう。チ○コを勃たせるしか能のない下郎が、儂に歯が立つとでも考えておるのか?」
突如始まった口汚い罵り合いに俺が面食らっていると、シトリーがこそっと耳打ちしてきた。
「ご主人様、あいつインキュバスですよ! 女を誘惑して無理やり性交するという、私達サキュバスが唯一忌み嫌う種族です!」
……お前らと似たようなものじゃないのか?




