電話の声とカード
「とするとやはり内部の人ですか」
小倉は言った。
「犯人が仮定すれば防犯スイッチを押させないようにするため押さえたりするとしたらやはり構造を知っているこの屋敷の住人でしょうか?また完全に押さえつけるのは女性では難しいかも」
「また犯人とよく知った関係で安易に部屋に入れてしまった事も考えられます」
「江坂さんは鈍器で後頭部を殴られていた。と言う事は犯人に背を向けた時に」
「はい。」
「料理長はお金の管理はしません。料理の管理だけです。私たちはずっと料理室にいました。江坂さんと話しません」
「コックが女給紙達と話す機会はありました。食事会で。ところが話さなかった2人がいます。江坂さんと丸山さんです。それがどうも妙で怪しかったです」
「なくなった8時にはみな仕事や休憩でアリバイがあります」
「私は7年前から仕えています。死亡事件の際にはご主人の前にいました」
「もめ事やトラブルは」
「ないですよ」
「江坂さんは病気で寝ていて、三崎さんがちょっと様子見にいってくると言っていなくなったわ。そのあとしばらくして事件が発覚して。犯人は増田さんか三崎さんのどっちかよ」
「どっちかで全然違うんですが」
「トイレに行くと言ってそっと抜けたんです」
「あっそうだおなか痛いって。」
三崎は必死に否定した。とにかく自分の無実を証するため必死に釈明した。北条は疑い半分、信用半分の目で彼女を見続けた。それが威圧にもなっていた。
「私は確かにいたずら電話をかけたわ。でも本当に江坂さんを襲う勇気なんてない」
まだ北条は疑っている。それは三崎にも視線を通じ伝わった。あえて質問を投げかけた。
「相手は何て答えたんですか」
少しだけ落ち着いたように三崎の答え方は変わった。北条の質問が的を射ていたのだろう。
「受話器がそういえば離れたままだったと思う」
「離れたまま? セットされてないと言う事ですか?」
北条の中で疑問が大きくなった。さっきまで半ば三崎を犯人と疑っていたではないか。
「何か口論が聞こえたわ?」
意外な供述に北条は何とか状況を推測しようとした。
「相手はだれかわかりますか?」
「うーんわかんない」
「増田さんではないですか? 増田さんは江坂さんに言いたいことがあったと本人から聞きました」
「そうね、確かに増田さんはトランプ会に加わらなかったわ。江坂さんに文句言えそうな人確かに他にいないかも」
三崎はあごに手を当て推論を展開した。すっかり冷静さを取り戻している。
「これでわかったでしょ? 私はほんのいたずらでかけただけで文句を言ったり、ましてや殺す勇気なんてありはしないわ」
三崎の自信がすっかり戻っていた。しかし北条と小倉は言い返した。
「その件ですが、増田さんが江坂さんと口論をした間に電話が三崎さんの声でかかってきたと言う事なのです」
「そんな! でたらめよ! 誰かが私をはめたんだわ」
「でもその時間他の女性はトランプ会等全員アリバイがあります」
「男性が声色を使ったのよ!」
「声紋分析をした結果三崎さんのものであったと言う事です」
「江坂さんは電話があったと嘘をついているのよ!」
また三崎は感情的になった。自分でも状況がどうなってるのかこんがらがっている状態の様だった。北条はぽつりとつぶやいた。
「確か従業員入口に内線電話がありましたね。あれはどこにでもつながるんでしょうか」
そういうと北条は従業員入口に向かった。
従業員入口には確かに内線があった。しかし受付の女性はもう退社していた。
「誰か残ってないですかね」
小倉は緊急番号を押した。少しすると待機していた女性が来た。時間外であるためか少し
不機嫌そうだった。北条はたずねた。
「これの、特に特殊な使い方を書いたマニュアルはありませんか」
「料理長、あの時間は何をしてましたか?」
「私たちは味見をしていました。料理長も見てましたよ」
「料理は何でしたか?」
「何でそんなことを聞くんですか?信じてないんですか?」
かなり意外な質問だったためこれには小倉も聞いた。
「なぜあんなことを?」
「いえ、別の意味です」
「仕事の仕方をチエックします。まずあの日のメニューを作るために料理室ではいつもよりおおきな料理台を使う事になった。その時にしゃがみこむと反対側からは見えなくなる」
そして2人は小西に再度聞くことになった。呼び出し3人だけになった。
「あの日、仕事場にいましたか?」
「いました」
怒っていると言うより冷静に堂々とした感じだった。
「それを証明できる人はいますか?」
「みんないたといっていま」
この返事も同じような調子だった。そりゃそうだろう、さも当然だと言う感じだった。
「はっきりと顔を見たり言葉を交わしたりした人はいるのですか」
「そりゃ一緒にいれば顔も見るでしょう」
小倉は切り返すためふいに話題を変えた。
「ところでここに退出カードと言うのがありますね」
少し意表を突かれた様子を見せたがまた元の表情に戻って説明した。
「ええ、これは従業員が1時退出する際に置くものです。全員分あります」
「逆に言えばそこにいたとしても『ああ、〇さん退出してるんだ』と勘違いされることもありますよね。」
北条の言う事に意外そうな顔をした。こんな質問をしてくるとはと言う顔をしていた。
「えっでもチーフや料理長がいるし」
「でもそのお2人に前もって言っておいたとしたら?現場ではだれもおかしいと思う人はいなくなりますよね」
「あ・・」
指摘された時の顔は変に無垢だった。意表を突かれ過ぎたのかもしれない。
「上のお2人は前もって知っている事になり他の方は勘違いしている事になる」




