小西と言うコック
「僕は料理室にずっといました」
「なあ、俺たちはずっといたよな」
「ええ、アリバイはそれぞれあります」
「江坂さんとの交流は」
「ありません。」
平然と答えた小西だったが小倉もここで引けなかった。
「しかし履歴書をお借りしましたが、貴方は江坂さんのすぐ後に入社してますよね」
「資料あったんですか」
まずそうな顔をした小西に小倉は突っ込んだ。
「奇遇じゃないですか。すぐ後に入ってくるなんて」
「そんなことは良くある事です」
平然と答えようとした小西だったが、どこか気まずそうだった。それでも押し切ろうとする傲慢さもあった。
「もしかして追って来たとか」
小倉のこの突っ込みはさらに核心を突いた。しかし小西は退かず、自分の強硬な態度を崩さなかった。
「コックと給士が一緒に食べる機会があったんですよ」
「ところが話さなかった」
「時々怖い感じで目を合わせてまたそらしてた」
「そのコックは……」
北条たちはそのコックに聞き込みに行った。若いコックは眠そうな顔で迷惑そうに応対した。
「俺が犯人? 勘弁して下さいよ」
コックは頭をかいていた。抑えるように小暮は言った。
「まだそうとは言ってません。これからお部屋にお邪魔したいのですが」
「いいですよ」
また嫌そうな顔をされた。桂はしぶしぶ承諾した。
3階の桂の部屋に移動し中に入ると何やら怪しげな雰囲気であった。散らかってもいるが置いてあるものが物騒である。
「あっのこぎりやバットが置いてある」
「ちょっと見せて頂いてもいいですか」
そういって北条たちはのこぎりを手に取り細部を見つめた。桂はいらいらした表情で行った。
「もう僕を犯人扱いですか?」
「そうはいってないけど、よくのこぎりとか使うんですか?」
「はい工作とかします」
「工作、日曜大工みたいにですか?」
「まあそうですね木工とか」
「まあ、今回の事件の凶器は鈍器だったそうですからまだ疑ってはいません。それに。それならばのこぎりはなぜ死体の解体に使われなかったと言う事になる」
「僕をもう犯人だと断定してるんですか? 動機は? 証拠でもあるんですか?バットやのこぎり何てだれも使うじゃないですか」
言い方は苛立ち、攻撃的だった。
「確かに。どこのキッチンにも包丁はありますしね」
その言い方が皮肉に聞こえたのかさらに畳み掛けてきた。
「俺の人相が悪いから怪しいっていうんだろう。たしかにここの労働者はあまり怖い顔の人いないですからね。」
小倉は話を変えるため、わざと別の品物を手に取った。
「それと、これはなんでしょう」
「かつらですか。長い髪の」
何で当たり前の事を聞くのかそれとも怪しいと言いたいのかと言う顔をした。
「これがあれば長い髪の女性に化けられますよ」
「化けていません」
睨んでいった。
「貴方はかなり細身だ。筋肉質な男性ならともかくあなたの体格なら長い髪をかぶれば後ろからなら女性に見えるかもしれない」
「僕が、だれかに罪を着せるために?」
「そうは言っていません。それはこれからです」
「ここにもう1つかつらがあります」
「あっサングラスも」
「これは人に渡して誰かに化けてもらうためですか」
「違う!でたらめだ!」
小西は手振りを含めて全力で否定した。
「怪しい男、と言うか部屋でしたね。のこぎりにサングラス、かつら。全部犯罪に使われているものです。」
「そのまま放置しているのは不自然ですが、我々が抜き打ちで来ることが分からなかったのでしょう」
「まだ証拠がない、しかし三崎さんの後に入ってきたのも非常に不自然です」
「目下一番怪しい人物といっていいかも」




