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お嬢の声に振り返ると、そこにお嬢が立っていた。
「呼んだらさっさと来なさいよ」
若干苛立ちのこもった声と姿に昨日の事案が
脳裏にフラッシュバックする。
い、いけない!
お嬢の事だ、スライムなんて踏み心地が良い
水たまりぐらいにしか思っていないだろう。
果物のお礼も出来ていないうちに
みすみす恩人?を失うわけにはいかない。
スライムさん逃げて!!!
そう強く念じるとスライムさんを背に隠すよう、
大きくポーズをとって構える。
不肖このカニ太郎・・・。
お嬢の凶刃、この身でもって遮って見せます!!!
カッコよくセリフも決まったところだったのだが、
私を通り抜けてスライムがお嬢の前に躍り出る。
そんな!スライムさん!!!
いくらスライムさんが強くともお嬢には・・・!
一瞬惨劇が起こるのではと手で目を隠してしまったが。
状況に変化が現れない。
「「・・・」」
無言で見つめ合うお嬢とスライムさん。
そんな不思議な状況に、
私もどうすればよいのかわからず固まってしまう。
「な!」
最初に動いたのはスライムさんだった。
一言発してプルっと身を震わせるスライムさん。
それに対してポーカーフェイスなお嬢の表情の裏に
驚きが見え隠れする。
ゆっくり。
ゆっくりと、スライムの前に歩み出てしゃがみつつ、
人差し指でスライムさんをつつく。
「な!な!」
そういって楽しそうに震えるスライムさん。
「な・・・何このスライム!!!」
改めてスライムさんの鳴き声を認識したお嬢は
スライムさんを両手で鷲づかむと頭上へ持ち上げる。
向きを変えたり光に透かしたりして
お嬢なりにスライムを観察しているようだ。
私はその光景を見てスライムさんの無事に安堵し、
改めてスライムさんの特異性に驚く。
やっぱりスライムは鳴かないよな。
そう一人で納得していると。
「大発見よカニ太郎!早くお爺様に見せなくちゃ」
そういって塔へ走るお嬢を、
私は必死に追いかけるのだった。