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 慌ててブースを飛び出し、前を歩いている『あの子』に声を掛けた。

……躊躇いもせずに。


「あっ、君っ!」


遠巻きに見ていても『綺麗な子』だと思ったのだが、間近で見てもさほど変わらないようだ。

化粧っけはないのに……『素』が良い子って、そうそう見ることがない。

それが『そのまま』……っていうわけではなくて、『基本の処理』だけは、きちんとされている。

……そんな程度なのにさ。


『あの子』は気づいたのか立ち止まって、驚いた様にこちらへと振り向いた。


「君……この間の『ミニライブ』……来てたよね?」


どう、声をかけたら良いのかも分からず、とっさに出てきた『月並み』な言葉だ。

『あの子』は、暫く不思議そうに、こっちを眺めていたが……やがて思い出したようだった。


「ああ、あんたって……リズムギター演ってた人か?」


嬉しそうに、話しかけて……って。え?


『ベッタベタ』の関西言葉……イントネーション。

(関西弁ともいうけれど)

あまりのギャップに、一瞬こちらの方が戸惑ってしまった。

俺……本当は苦手かもしれない。


でも……よく通る中性的な声。

耳障りな甲高い声とは違っていて、ホッとした。


「上手いやん。あれほどの『テクある人』って……『生』では見たことないわ」

「えっ?」

「あんた、小刻みにリズム揺らしよったやろ?アクセント変えて。

……『グルーヴ感』てのがな……ええなって思うた。」

「あ、ありがと。……そんなこと言われたの、初めてかな……」


照れ隠しに、頭を掻いてはいたげれど……。

流石に……驚きを隠せなかった。


「そやろな。ふん……みんな、キーボードに目がいっとったみたいやからな」


そう言って『あの子』の目は、悪戯っぽく笑っていた。

この子って……『印象に残る目』をしている。

なんだか……。


「なあ……『リード』演んないの?……こないだの人より……」


とここまで云いかけた時に、遠くの方で、どこからか誰かの名を呼ぶ声が聞こえた。


「あっ……『ゴウちゃん』や」

「えっ?……あ」


 いきなり『あの子』は言いかけた言葉を途中で切ってしまって、その声がした?方へと……慌てて小走りで行ってしまったのだった。

まるで『さっきの事』がなかったかのように。

……『プログラミングされたロボット』のように。

あっけない幕切れだった。


俺は声をかけることも忘れ、呆然とその様子を見ていた。


何なんだ、今のは?

……。

フツーはさ、別れるときには『じゃあまたね』なんてさ『挨拶のひとつ』ぐらいはしてから去っていくモンじゃねえのって?

……変な子だよなあ。

全く。

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