参
ステージが終わったあと、シールド類の後片付けもそこそこに、俺は『彼女』が消えたドア付近を彷徨いていた。
しかし、肝心の『彼女』はもうそこには居なくて、すでに他所の階に移ったようだった。
あの子……確かギターケース背負ってたよな……。
ということは『レンタル・ブース』の方かな……?
呆然としている俺を見てメンバーが不思議に思ったようだった。
「田畑?……どしたよ?」
「……や、客の中にさ……ちょっと……な」
「なーんだ、可愛い娘でも、居たのかよ?」
「……」
「えーっ!……マジ?ビンゴ!かよ」
「ちっ……違うって」
訳の分からない?歓声が上がり……『親しくもない』メンバーに、思いっきり冷やかされた。
『一目惚れ』……ってやつ?
いいや……『なんか違う』気がする。
そんなんじゃあ、ないんだよなー。
だって俺は……。
……。
おまけに……あの子が見てたのって……俺の『顔』じゃなくって確かに『手元』だった。
俺の『手の動き』を真剣に見ていた。
『あの目』って……あれは一体……?
更に、『微妙な笑』を浮かべていた。
それが……何に対しての笑なのかは、分からないんだけれども。
それがやけに、記憶に残っていたりして。
挑発しているように、思えたんだ……。
まるで『全てを見透かしている』かのように。
『……それで満足なの?』って。
なんでだろう?
俺は、それで良かったんだ。
そう思っていたのに……。
あの笑……俺は『それら』を全部否定されているように、捉えてしまったんだ。
あれから……俺は階下にある『レンタル・ブース』を覗きにいった。
防音完備の分厚い扉に仕切られた練習場が、ワンフロアにかたまっているところだ。。
勿論『音楽センター』なので、機材の種類は豊富にある。
鍵盤とドラムが設置されたブースもあり、個人からバンドまで幅広い層が利用している。
個人レッスン場も、此処は兼ねているところだった。
やっぱり『あの子』は見当たらなかった。
……ふん。
そんな上手くいくはず……ねえよな。
でも、楽器を持っていたんだ。
そのうちまた現れるに違いない。
根拠はないが、何故かそう思えた。
でも……俺……あの子に会って、何をしたいんだろう?
何が言いたい?
そういう疑問がふと頭をよぎった。