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ヘタレ退魔師・玖堂冬夜のあやかし奇譚  作者: 市瀬瑛理
第七章 決戦

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第54話 相容れない存在

「意外と簡単に開けられてしまったか。少し甘く見たな」


 まあいい、と利苑(りおん)が一人で呟くのが、かすかに聞こえてきた。


 小さく震えるコハクを大事そうに抱えた冬夜が、警戒しつつ、利苑の方に顔を向ける。


「人格が入れ替わるって……」

「たまに雰囲気が変わって、今みたいに幻妖の匂いがする時もあるんです」


 抱えられた腕の中でまだ震えているコハクは、そう答えながら冬夜の顔を見上げた。


「言われてみれば、前に会った時とはちょっと違う気もするかな……」


 冬夜が口にした言葉に志季はまた首を捻り、コハクに向けて問う。


「二重人格ってことか?」

「そこまではわからないんですけど」


 すみません、とコハクが謝ると、志季は柔らかな笑みを浮かべてみせた。


「とりあえず変なやつだってことはわかったから、気にすんな」


 そう言って、コハクの頭をポンポンと優しく叩く。

 そこで冬夜が利苑に向けて、怒りをあらわにした。


「何でこんなことを……! コハクは関係ないんじゃないの!?」


 しかし、きつく睨みつける冬夜を気に留める様子もなく、利苑はあっさりと言ってのける。


「こんなこと? その猫はお前らの仲間だからだ。私はお前ら、玖堂(くどう)の人間やその仲間に復讐したかっただけだよ」

「復讐って……」


 利苑の口から発せられた言葉に、冬夜たちは一斉に息を呑んだ。


 確かに、手紙には似たような文言が並べられていたが、まさか本当に復讐だったとは。


 冬夜たちは頭のどこかで、手紙に書かれた内容を絵空事(えそらごと)のように思っていたのかもしれない。いや、きっとそうだと信じたかったのだ。


 利苑はさらに続ける。


「お前らは何をしたのかわかっているのか? 古鬼(こき)の一族を滅ぼしたんだぞ」

「古鬼? 昔に玖堂家が退魔したっていうあれか。やっぱり関係者だったんだな」


 志季が眉をひそめながらも、「なるほど」と納得したように腕を組む。


「でも、何で古鬼の関係者が今になって俺たちを狙うの?」


 退魔したのは俺たちじゃない、と冬夜が首を横に振ると、途端に利苑の表情が険しいものに変わった。


「玖堂の人間はすべて私の敵だからだ。退魔した人間はもういない。復讐するならその子孫になるのは当然だろう?」

「でも、それは古鬼の自業自得だろ。自分たちだって散々好き勝手やってきたんだから」

「……うるさい。とにかく私にとって玖堂の人間やその仲間は邪魔者だ。もちろん退魔師も全員だ」


 呆れた様子の志季に、利苑は恨めしげな視線を投げつける。

 そこで、冬夜が真剣な表情で一歩前に出た。


「そう。お前の言いたいことはわかった。俺たちは相容(あいい)れない存在ってことだね」

「ああ、そういうことだ。わかればいい」


 ようやく満足げに頷いた利苑に向けて、冬夜は改めて口を開いた。


「ところで、本物の『利苑』はどこにいるの?」



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