第52話 廃校、深夜十二時
手紙で指定された、深夜十二時。
廃校になった中学校の体育館周辺は、不気味なほどに静かだった。
「よし、行くぞ」
「うん」
志季の声に、冬夜がしっかりと頷く。
それを合図に、懐中電灯を手にした冬夜と志季は、壊れたドアから体育館の中に踏み込んだ。
直後のこと。
体育館の明かりがいくつか点灯して、冬夜たちは即座に足を止めた。
何年も前に廃校になった場所である。まさか明かりがつくとは思っていなかった二人は、予想外の出来事に揃って目を瞬かせた。
そこに声が響く。
「冬夜さま! 志季さん!」
よく聞き覚えのある声に顔を向けると、ステージの手前に黒いケージが置かれていた。
一辺が一メートルもなさそうな小さめのケージ。その中に入れられているのは、猫姿のコハクである。
「……コハク!」
冬夜はすぐさま駆け寄ろうとするが、後ろから志季に腕を引かれ、立ち止まった。
振り返ると、志季は顎でコハクの入ったケージの方を示す。
「コハくんの後ろ、見えるか?」
「あ……」
ケージのすぐ後ろには男性の姿があった。
冬夜たちと歳の近そうな青年である。
一度だけ直接会ったことのあるその青年は、相変わらず冬夜たちよりも華奢で、古風な雰囲気を醸していた。
冬夜と志季の姿を認めた青年が一歩踏み出して、ケージの横に立つ。
「こんばんは」
恭しく頭を下げる姿や、挨拶をするその声音には、気品すらも感じられた。
「お前は……宗像利苑!」
「よく覚えてたな」
すぐ正体に気づいた冬夜が声を上げると、利苑は満足そうに目を細める。
志季は冬夜の隣に並ぶと、まっすぐに前を向いたまま、小声で冬夜に告げた。
「……あいつ、何でかわかんねーけど幻妖の気配がする」
「……うん。俺も感じる」
冬夜も志季を見ることなく、小さく首を縦に振る。もちろん志季と同様、幻妖の気配には気づいていた。
だが、どうして利苑から幻妖の気配を感じるのかわからないでいると、今度はケージの中からコハクの今にも泣き出しそうな声が聞こえてくる。
「冬夜さま、志季さん、ごめんなさい! ごめんなさい!」
「コハクは何も悪くないから気にしないで。俺が一人で買い物に行かせたのが悪いんだ」
ひたすら謝るだけのコハクに、冬夜はそう返してから、今度は無言で利苑をきつく睨みつけた。
「でも、ボクが……っ!」
「コハくん、謝るのは帰ってからにしとけ」
自分を責めながらさらに謝ろうとするコハクを、志季が優しく止めると、
「へえ、無事に帰れる自信があるのか」
そのやり取りに、利苑が可笑しそうな声を漏らす。
「うるさい、今すぐコハクを返せ!」
神経を逆撫でされた冬夜が途端に声を荒げる。
「私はもともとちゃんと帰すつもりだったよ。これが開けられたらね」
しかし、利苑は冷徹な口調でそう言って、コハクの入ったケージを指差すだけだった。




