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ヘタレ退魔師・玖堂冬夜のあやかし奇譚  作者: 市瀬瑛理
第六章 崩れる日常

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第52話 廃校、深夜十二時

 手紙で指定された、深夜十二時。

 廃校になった中学校の体育館周辺は、不気味なほどに静かだった。


「よし、行くぞ」

「うん」


 志季の声に、冬夜がしっかりと頷く。

 それを合図に、懐中電灯を手にした冬夜と志季は、壊れたドアから体育館の中に踏み込んだ。


 直後のこと。


 体育館の明かりがいくつか点灯して、冬夜たちは即座に足を止めた。

 何年も前に廃校になった場所である。まさか明かりがつくとは思っていなかった二人は、予想外の出来事に揃って目を瞬かせた。


 そこに声が響く。


「冬夜さま! 志季さん!」


 よく聞き覚えのある声に顔を向けると、ステージの手前に黒いケージが置かれていた。

 一辺が一メートルもなさそうな小さめのケージ。その中に入れられているのは、猫姿のコハクである。


「……コハク!」


 冬夜はすぐさま駆け寄ろうとするが、後ろから志季に腕を引かれ、立ち止まった。

 振り返ると、志季は顎でコハクの入ったケージの方を示す。


「コハくんの後ろ、見えるか?」

「あ……」


 ケージのすぐ後ろには男性の姿があった。

 冬夜たちと歳の近そうな青年である。


 一度だけ直接会ったことのあるその青年は、相変わらず冬夜たちよりも華奢(きゃしゃ)で、古風な雰囲気を(かも)していた。


 冬夜と志季の姿を認めた青年が一歩踏み出して、ケージの横に立つ。


「こんばんは」


 (うやうや)しく頭を下げる姿や、挨拶をするその声音には、気品すらも感じられた。


「お前は……宗像(むなかた)利苑(りおん)!」

「よく覚えてたな」


 すぐ正体に気づいた冬夜が声を上げると、利苑は満足そうに目を細める。

 志季は冬夜の隣に並ぶと、まっすぐに前を向いたまま、小声で冬夜に告げた。


「……あいつ、何でかわかんねーけど幻妖の気配がする」

「……うん。俺も感じる」


 冬夜も志季を見ることなく、小さく首を縦に振る。もちろん志季と同様、幻妖の気配には気づいていた。


 だが、どうして利苑から幻妖の気配を感じるのかわからないでいると、今度はケージの中からコハクの今にも泣き出しそうな声が聞こえてくる。


「冬夜さま、志季さん、ごめんなさい! ごめんなさい!」

「コハクは何も悪くないから気にしないで。俺が一人で買い物に行かせたのが悪いんだ」


 ひたすら謝るだけのコハクに、冬夜はそう返してから、今度は無言で利苑をきつく睨みつけた。


「でも、ボクが……っ!」

「コハくん、謝るのは帰ってからにしとけ」


 自分を責めながらさらに謝ろうとするコハクを、志季が優しく止めると、


「へえ、無事に帰れる自信があるのか」


 そのやり取りに、利苑が可笑(おか)しそうな声を漏らす。


「うるさい、今すぐコハクを返せ!」


 神経を逆撫でされた冬夜が途端に声を荒げる。


「私はもともとちゃんと帰すつもりだったよ。これが開けられたらね」


 しかし、利苑は冷徹な口調でそう言って、コハクの入ったケージを指差すだけだった。



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