第37話 封印された力
征一郎が低い声で、静かに口を開く。
「お前はいまだに退魔師協会でヘタレ扱いをされているようだな」
「……はい」
征一郎にそう言われた冬夜は、姿勢を正して正直に頷いた。
父である征一郎の耳にも届いていることは知っていたが、目の前でこうもはっきり言われてしまうととてつもなく気まずいものがある。
もしかしたらあまりにもヘタレなせいで、征一郎が自分を息子だと認めたくなくなって、先ほどの話をでっち上げたのではないかと考え始めた時だ。
「実は、それにはきちんとした理由があるんだ」
「え?」
思わず顔を上げて聞き返した冬夜に、征一郎は続ける。
「もともとお前の父、辰巳は退魔師としての力が強かった。だからだろう、その子供であるお前も生まれた時から大きな力を持っていた」
「まさか。初歩的な術しか使えない俺に、大きな力なんてあるわけないじゃない。父さんだって俺の力知ってるでしょ?」
即座に冬夜が否定すると、腕を組んだ征一郎はゆっくり天井を見上げた。
「まあそう思うのも仕方ないだろうな。だが、もしその力が封印されているとしたら?」
「どういうこと?」
「言ったままの意味だ。お前の力は大きすぎるために、今は封印されている」
征一郎の言葉に、冬夜が信じられないとでも言いたげな表情で首を捻る。
『封印』などという言葉は日常ではなかなか聞かない。あるとすれば漫画やゲームの中くらいのものだ。
「そんな中二病みたいなこと、ホントにあるの?」
「お前の腕時計、それに封印されている。お前の両親が『力を使いこなせるようになるまでは』と封印したんだ」
「え、これ!?」
嘘でしょ、と冬夜が思わず時計のついた腕を持ち上げて指差すと、征一郎はしっかりと頷いてみせた。
「そうだ。正確には文字盤だがな。だから、小さい頃からずっと身に着けていろとうるさく言っていたんだ」
「確かに、絶対になくすなとは言われてたけどさ。これって、ただ術を使うために必要なものだと思ってたんだけど。志季はピアスを媒介にして蒼月に自分の力を送ってるよね。それで蒼月に冷気を纏わせて戦うでしょ?」
「ああ、そうだな」
冬夜に顔を向けられた志季が、「間違ってないな」と素直に首を縦に振る。
今冬夜が言った通り、志季と蒼月の関係はそのようなものになっている。
志季は左耳につけたピアスから蒼月に自身の力を送り込むことによって、蒼月を使っているのだ。
ちなみに、蒼月は逢坂家に代々伝わる刀で、蒼月に持ち主として認められた者にしか扱うことはできない。
刀を羨ましいと思った冬夜は、一度だけ特別に蒼月を持たせてもらったことがあるが、重すぎて持ち上げることすらできなかった。認められていないとそうなるらしい。
「俺も志季と似た感じで、腕時計に俺の力を送って術を使ってるつもりだったんだけど」
「いや、どちらかというと逆だな。腕時計からほんの少しだけ漏れている力をお前が使っているんだ」
「ええ!? 何で今まで言ってくれなかったのさ! ちょっとくらい教えてくれてもよかったんじゃないの!?」
大声を上げて驚く冬夜の姿を見て、征一郎は自身の額に手を当てた。そのまま大仰な仕草で嘆息する。
「言ったら言ったで、さっきのように取り乱すと思ったからだ。それに、今みたいに力の流れもわからないヘタレに言っても理解できないだろう? まったく、その辺りは封印に関係なくヘタレだな」
「えっと、それは……」
征一郎にぴしゃりと言われてしまい、冬夜は気まずそうにそっと顔を背けた。
「とにかく、そういうことだ」
「あ、そっか。つまり、その封印を解けば古鬼やその関係者とも戦えるってことだよね?」
そうしたら強い力が戻るってことだもんね、と冬夜が顔を戻す。納得したように「うんうん」と頷くその表情は明るいものになっていた。
封印を解けば古鬼と対等に戦える可能性があるだけでなく、もうヘタレと呼ばれなくて済むようになるのかもしれないのだ。冬夜が嬉しくなるのも無理はない。
征一郎は一つ咳払いをして、続ける。
「まあ、簡単に言えばそういうことになる。相手がどの程度強いのかはわからんがな。それから、ついでにこの話もしておこう」
「今度は何の話?」
先ほどまでとは一転して不思議そうな顔で首を傾げる冬夜に、征一郎はまたもゆっくりした口調で話し始めた。




