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ヘタレ退魔師・玖堂冬夜のあやかし奇譚  作者: 市瀬瑛理
第二章 神隠しを調査せよ

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第13話 神隠しの調査・残された言葉

「冬夜さま、志季さん!」


 幻妖が消えたのを確認したらしい猫姿のコハクが懸命に駆けてくる。

 冬夜はそれを優しく抱き上げると、隣の志季に顔を向けた。


「さっきの幻妖の言葉、どう思う?」

「大きな事件……ね。何で幻妖がこれからの事件のことを知ってるんだ? それとも予言みたいなもんか?」

「幻妖って普通は単体で行動するものだよね? まさか幻妖同士で情報交換とかしてるってわけでもないだろうし……」


 そんなの聞いたことないよ、と思案し始めた冬夜から顔を背けた志季は、手にした蒼月(そうげつ)に視線を落とす。


「おやすみ、蒼月」


 静かにそう言って、蒼月を軽く一振りした。


 その声に応えるように冷気を消した蒼月を(さや)に収めながら、志季が改めて冬夜の方へと目を向ける。


「ここでごちゃごちゃ言ってても仕方ないだろ。まずはこの依頼を片づけるぞ」

「あ、うん、わかった」


 これまでうつむいてブツブツ言っていた冬夜が顔を上げ、歩き出した志季の後を追う。

 その腕に抱えられたコハクは、心配そうに冬夜の顔を見上げていた。



  ※※※



 少しして、冬夜たちはさらに奥まった場所に、古ぼけた小屋があるのを発見した。


 中にいた四人の子供については、多少衰弱している子もいたが、大きな外傷はなかったため、すぐさま警察に通報して後は任せることにした。


「退魔師協会の名前を出して名乗れば、警察にちゃんと話が通じるっていうのも何だかすごいよね」

「まあ、今回は警察に捜索願も出てるって話だったからな。そっちの手続きの関係もあるんじゃねーの。オレらで勝手に家に帰すわけにもいかねーだろうし」


 帰っていく数台のパトカーを見送りながら、冬夜と志季がそんなことを話す。


 すでに森の中だけでなく、外も暗くなっていた。


 今回のように警察が大きく関わる事件の場合には、協会が裏から手を回して退魔師に手間がかからないようにされていることが多いとは、噂で聞いていた。


 いや、正確には手を回しているというよりも、互いに協力し合っているといったところなのだろうか。良く言えば、の話だが。


 もちろん、今の冬夜たちがその辺の事情を詳しく知っているはずもなく、これは推測の域を出ない。


「じゃあ、俺たちも帰ろうか」

「そうだな」

「はい!」


 ずっと待たせていたタクシーに三人で乗り込むと、運転手は不思議そうにしきりに首を捻っていた。


「パトカーとか来てすごい騒がしかったですけど、何かあったんですかね?」

「確かに騒がしかったですよねー。俺たちもよくわかんないんですけど、ってことで駅までお願いします」

「あ、はい」


 冬夜がニコニコと人好きのする笑顔でそう言うと、運転手は素直にタクシーを発車させる。


「アンタ、ごまかすのだけは上手いな……」

「そう? 誉め言葉として受け取っとくよ」


 運転手に聞こえないように呟いた志季に、冬夜はまたも満面の笑みを向けた。そのまま、持ってきていた小さめのバッグからスマホを取り出す。


 すると、今度は人間姿のコハクが自慢げに胸を張った。


「冬夜さまはそれだけじゃなくて、もっと色々すごいんです!」

「コハクはよくわかってるよね」


 冬夜はうんうん、と何度も頷きながら、コハクの頭を撫で、スマホを操作し始める。

 これから協会宛てに、依頼完了の報告メールを送るのだ。


「色々って何だよ……。全然見当つかないんだけど」


 だって料理くらいしか特技ないだろ、そう言って志季が首を傾げると、


「後は、通販ですごいものを見つける能力!」


 冬夜は先ほどのコハクと同じように胸を張って、きっぱりと言い切る。


「ふざけんな!」


 直後、冬夜が志季にどつかれることになったのは言うまでもない。



  ※※※



 タクシーを降りた後、また駅から電車に揺られて、事務所に無事帰ってきたのは夜九時を過ぎてからのことだった。


「今回は思ったより被害が少なくてよかったね」

「まあいつも通り、暇人(ひまじん)の幻妖が勝手にやってただけだったしな」


 所長用の椅子に座った冬夜が笑顔をみせると、志季も素直に頷いた。


 しかし、冬夜はマグカップに半分ほど入ったコーヒーを一口(すす)ると、今度は天井を仰ぐ。


「だけど、幻妖の残した言葉、なーんか引っかかるんだよねぇ」


 その様子に、ソファーで同じようにマグカップを手にしている志季が首を傾げた。


「『もっと大きな事件が起こる』ねぇ。なら協会に報告しとくか?」

「でも、聞き間違いかもしれないし。変なこと言ってまたヘタレ呼ばわりされるのも嫌だなぁ」


 冬夜は心底うんざりした表情を浮かべて溜息をつくと、デスクの上で丸くなって眠っているコハクの背をそっと撫でた。


「オレも聞いたから間違ってないとは思うけど、まあこれで事件が起きなかったらまたヘタレって言われるんだろうな。それは間違いないわ。その時はオレも一緒にヘタレ呼ばわりされる未来しか見えねーし」

「だよねぇ……」

「だったら、このまま報告しないでおくか?」


 聞きながら、志季が冬夜を見やる。


 これは所長である冬夜が決めることだ。自分が決めることではないと、志季はきちんとわきまえている。


 冬夜は顎に手を当てながらうつむいて、しばし考え込むような素振りをみせたが、少ししてその顔をゆっくり上げる。


「そうだね。何となく嫌な予感がしないでもないけど、きっと気のせいだろうし。俺が心配しすぎなだけだよね。もし何かあっても、協会の偉い人たちが対処してくれるよね」

「だな。まずは協会に報告が上がってくるだろ」


 オレたちの出番があってもその後のはずだ、そう言って、志季はマグカップの中身を一気に飲み干した。



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