第11話 神隠しの調査・情報探し
「じゃあ、しばらくここで待っていてもらえますか?」
目的地に着くと、冬夜は運転手にそう言ってタクシーを待たせることにした。
タクシーは帰りの手段にも使うのだから、待ってもらえるのならそうするのが一番いいだろうとの判断である。
「ええ、わかりました。でもお気をつけて」
運転手の心配そうな声に、
「はい、ありがとうございます」
冬夜たちは笑顔を見せながら、タクシーから降りる。
そのまま軽く手を振って、先へと進んだ。
降りたのは住宅街の外れである。
冬夜が辺りを見回すと、少し離れたところに女性の後ろ姿があった。
「あそこに人がいる。ちょっと聞いてみよう」
そう言って駆け出すと、志季とコハクも一緒になって後を追う。
「すみませーん!」
声を掛けながら近づいていくと、冬夜たちに気づいたらしい女性が振り返った。
まだ若い女性はエプロン姿だった。この辺にいるところを見ると、近所の主婦だろうか。
「あ、はい。何ですか?」
女性はにこやかな笑顔を浮かべ、冬夜たちをまっすぐに見つめる。
「あの、最近この辺りで神隠しが起きてるって聞いてきたんですけど、詳しい話ってわかりますか?」
冬夜がそう切り出すと、女性は一瞬驚いたように目を瞬かせてから、小さく首を傾げた。
まさか自分が神隠しについて訊かれるとは、微塵も思っていなかったのだろう。
「警察の方ですか?」
「えーと、警察ではないんですが、依頼を受けて調査に来た探偵みたいなものです。あ、これ名刺です」
冬夜が簡単に素性を明かして名刺を出すと、女性はそれを受け取りながら、今度はほっとしたような表情を浮かべる。
こういう時のために、冬夜は名刺をきちんと持ち歩いているのだ。
やはり名刺があるのとないのとでは、信用の度合いが大きく変わってくる。
「まあそうでしたか、お疲れ様です。心霊調査事務所……ってことは、今回の神隠しって幽霊のせいなんですか?」
途端に眉をひそめた女性は、「本当に幽霊なんているのだろうか」と疑っているように見えた。
幽霊を見たことのない人間からすれば、見えないものはいないも同然だろう。
「それを調べに来たんです。何でもいいんですけど、気になったこととか誰かから聞いた話とかありませんか?」
「そうですね……。私が聞いたのは、今日までに四人の子供が行方不明になってることと、行方不明になる前にみんなあそこの森の近くで目撃されてるってことくらいでしょうか」
そう言って、女性は少し離れたところにある森を指差す。
「森、ですか」
その指に導かれるように冬夜たちが森の方へと顔を向けると、女性は頷いた。
「子供たちはよくあの森の中に秘密基地とか作って遊んでるんですよ。でも今は行かないように、って町内会で厳しく言われてます」
バッグからメモ帳とボールペンを取り出した冬夜が、聞いた話を素早くメモする。
「ちなみに、消えた子供たちの性別とか年齢ってわかります?」
その様子を見ながら、女性は頬に手を当てた。
「性別は確か男の子が三人で、女の子が一人だったかしら。歳はみんな小学生以下だったと思います」
「なるほど。全員が一緒に消えたわけではないんですよね?」
メモしていた手を一度止めた冬夜が、顔を上げる。
「ええ、私が聞いた話では一人ずつですね」
「そうですか」
冬夜は頷き、この情報もメモしておく。
性別や年齢については、今の段階では関係があるかどうかはわからない。だが、念のため確認しておくに越したことはない。
こういった時、基本的に志季とコハクはおとなしく冬夜の様子を見守っていることが多い。
特に志季は、下手に横から口を出すよりも、人当たりのいい冬夜に任せるのが最適だと思っているのだ。
実際、冬夜に任せておく方が情報収集も早く済むのである。
「でも、子供たちが消えた原因もわからないですし、もし森の中に犯罪者でも潜んでいたら大変ですよね」
女性は不安そうに、小さく溜息をついた。
確かに、今の時点ではまだ原因がわかっていないのだから、不安になるのも無理はない。
「その可能性もゼロではないですからね。でも警察は動いていないんですか?」
「いなくなった子供たちの捜索願はそれぞれの家で出してるみたいですけど、まだ警察の方は来てないんじゃないかしら」
警察がちゃんと動いてくれないと困りますよね、と付け足した女性に、
(警察では幽霊のせいだと踏んで、協会に依頼してきた感じなのかな……)
冬夜は頭の中でそんなことを考える。
まれにだが、警察の方ではほとんど動かずに、そのまま警察を経由して退魔師協会に流れてくる依頼があるらしい。
これまでは噂話程度に聞いていたが、もしかしたら今回の案件がそうなのかもしれない。
「そうですか、わかりました」
「これくらいしか情報がなくてすみません」
「いえいえ、少しでも情報が得られてよかったです。ではこれから調査してみますので。ご協力、ありがとうございました」
冬夜が女性に向けて丁寧に頭を下げると、すぐさま後ろの志季とコハクもそれに倣う。
「じゃあ行こうか」
冬夜たち三人は女性に背を向けると、そのままその場を離れたのだった。




