推測
ドクドクと脈打つ血管を背に、皆の視線が一斉に私に集まった。
「ツミレ。庄司の……息子の魂を、私のと入れ替えてくれないか?」
「え……?」
「なんだって?」
訳が分からない、といった風にエリィが横で首を傾げた。
「以前、魔法でツミレとエリィの魂を入れ替えていただろう? あれと同じことを、私と息子にやってくれ。私がこの巨人を乗っ取れば、協力して皆を体の外に出してやれる」
「ええ!?」
「バカバカしい。コイツには魔法が効かないんだろ? それじゃ出来っこな……」
「いや、出来るはずだ」
肩をすくめるツミレを遮って、私は振り向いた。
「だろう? ミケ」
「……ふむ」
今度は皆の視線が、そばにちょこんと座っていた大きな猫に集められた。黒猫は、肯定とも否定とも取れる不思議な表情をしていた。一度曖昧に喉を鳴らした後、それっきり口を開かないミケに変わって、私は言葉を紡いだ。
「庄司は……」
何故息子は、私だけでなくエリィやツミレをも拘束したのか?
何故味方であるはずのチクワブやミケまでもが喰われてしまったのか?
そもそも国王が私をここへ連れてこさせた目的は、父親である私を殺すことなのだろうか?
巨人の腹の中に飲み込まれてから、頭の片隅に引っかかっていた様々な疑問。ここに来てようやく、その謎が解けようとしていた。
「これはあくまで私の推測だが……」
私は皆の目を見渡して言った。
「庄司の目的は……私の肉体に転生すること、なんだろう?」
「なんだって?」
ツミレが声を張り上げた。だがミケは微動だにせず、じっと一点を見つめるのみだった。
「自分のお父さんに転生するってこと? 一体なんのために……」
「自由を得るためさ」
首をかしげるエリィに、私は説明した。
「『呪い』を受け、副作用で巨大化し、自由を奪われ……一度は母親のためにと甘んじて受け入れたようだが、我慢できなくなったのだろう」
そこで私はため息を漏らした。
「全く、まだ……息子は全然若いんだ。見た目より」
「なるほど。『呪い』を解いて死ぬより、自由な体を手にいれる。そのために転生しようってハラか。なんて都合の良いやつだ」
ツミレが腹立たしげに呻いた。さっきまで魔女に転生され体の自由を奪われていたエリィが、驚いたように彼女を見つめた。
「国王軍が私だけでなく、最強の魔法使いと呼ばれるツミレやエリィを連れて来たのは、『転生魔法』を使わせるため。ミケやチクワブまで一緒に息子に飲み込まれたのは、それを見張るため……違うか?」
何よりこちらの世界で仲良くなったエリィやツミレの存在は、私に対する人質にもなっていた。もし私が転生を拒否すれば、この巨人の中で2人は朽ち果てることになる。私の問いかけに、黒い猫はやはり微動だにしなかった。私は言葉を続けた。
「……私がそう結論付けるよう、こんな場所まで誘導して来たんじゃないのか?」
「じゃあ、国王様は最初からそのつもりでおじさんをファンタジアに呼んだってこと?」
エリィが目を丸くした。
「僕、やだよ! 何でおじさんが、巨人にならなくっちゃいけないの!?」
「……私がこの体を乗っ取れば、口に指を突っ込んでエリィ達を外に出してやれる」
「でも……」
「元々、私の目的は国王を倒すことじゃないんだ。息子を……庄司を連れて帰る。そしてこの国にかけた迷惑の責任を取る。そのために来たんだ」
「攻撃は効かないんでしょ!?」
納得いかない、と言った風にエリィが反論した。彼が怒ってくれているのが、何となく私には嬉しかった。
「攻撃じゃない。あっちには都合が良すぎるくらいの、サポートさ。あちらを傷つけることさえなければ、効くはずだ。現に『呪い』も受け入れているしな」
「そんな……」
「良いぜ。私は全然構わない。確かにあんたがこの体を乗っ取れば、私は外に抜け出せるんだしな。その転生魔法、やってやる。ただし……」
困惑するエリィを押しのけて、ツミレがニヤリと笑った。
「ただし、転生した後のあんたの体の保証はしないぜ? 息子の魂が入っていようが、容赦なく私は恨みを晴らすからな? それでも良いんだな?」
「ツミレ様!」
「……構わん」
「ちょっと、おじさんまで! 勝手に話を進めないでよ!」
「うるせえ、エリンギ! 私はここから出たいんだ。こいつの都合なんて知ったことか。ところで、ミケ。さっきから黙ってるが……」
ツミレが腕まくりして杖を取り出し、先ほどから固まっていた黒猫に尋ねた。
「こいつの言ってた転生の件は本当なのか? それともただの妄想なのか? どっちだ?」
「ふむ……」
皆の視線がミケに注がれる中、黒猫はピクピクと髭を動かした。
「……それは国王に直接、聞いてみるというのはどうかの?」




