心の旅
「……ったく、何で私がこんなことに付き合わなくちゃならないんだよ……」
船の後ろの方で、ツミレがぶつくさと文句を言った。兵士達を胃袋に残し、私達は今動脈を登り静脈を降り、太い血管の中を魔法の船で走らせていた。
庄司の……息子の心に直接問いかける。何とか巨人の体内から脱出を図るため、私達は身体中を駆け巡って息子の『心』を探すことにしたのだ。どちらにしろあそこにいたままでは、胃酸に溶かされて死を待つだけだ。
「だからぁ、心なんて臓器はねえんだって」
「じゃあツミレ。聞くが、魂は何処に宿ってるんだ? 心臓か? 脳内か? どうやってお前はエリィと魂を入れ替えていたんだ?」
「それは……魂を魔法で対象化するんだよ。普段は見えるとか見えないとかじゃないから」
「ふむ。よう分からんのう……」
「心臓はただのポンプ。脳みそは電気信号の交換。心なんてマヤカシだよ」
「でも……国王様だって元々は、僕らと変わらない人間でしょ? きっと何処かに国王様の心があるんじゃないかな……」
「ないない。どっちにしろ、この巨人には魔法は効かないんだろ? 探すだけ無駄だって……」
「ネエネエ、心が無いんだったらサ」
庄司の心を探して、頭を捻らせていた私達に、猫耳の孫娘・チクワブがあっけらかんと言い放った。
「ショージさんの脳を奪っテ、電気信号ヲ書き換エちゃえばイイんじゃナイ?」
「!?」
何とも非情な提案に、私達は一瞬押し黙った。だが、確かにこのまま何処にあるかも分からない心を探すよりはよっぽど現実的な答えかもしれない。脳に外部から別の信号を送り、私達を外に出すよう命令を下せばいいのだ。果たしてそんなことができるかどうかは別として……。皆が一斉に私の方を見た。いつの間にか、言い出しっぺの私が船の進路を任されるようになっていた。
「……とりあえず、息子の脳内に行ってみよう」
誰もが至極真面目に頷きを返した。感覚が麻痺している。冷静に考えると「何を言っているんだ私は」と頭を抱えそうな発言も、最早ここでは当たり前になっていた。
幸い息子は『食後』だったせいか、活発になっていた血液の流れに乗って脳内には割と簡単に辿り着くことができた。近くで見る息子の脳は、あまりにも規模が違いすぎて、それ自体が巨大な生物のように妖しく滑っていた。ここで行われている電気信号のやりとりに、息子の心が宿っているのかもしれない。私は意を決して剣を構えた。だが、問題はここからだった。ツミレがどんなに雷撃を喰らわせても、黒光で斬りかかっても、息子の脳みそは全てを跳ね返しビクともしなかった。もしかしたらまかり間違って息子を傷つけてしまうかもしれないなんて不安も、全くの杞憂に終わった。
「ダメか……」
「ゼェ……ゼェ……くそ……やっぱ魔法は効かない……」
「ふむ。そもそも、この脳の何処にどのような電気信号を送ればここから出られるのか、さっぱり分かってないからな。闇雲に攻撃しても無駄じゃ」
「だったらやらすな!」
息子の脳の端っこで、ちっぽけな私達は途方に暮れた。ここまできて、打つ手なしだ。どうあがいても、息子にかすり傷一つつけることは出来そうになかった。
「息子は……」
暗い脳内で、私は誰ともなしにポツリと呟いた。
「呪いのために巨大化した、と……」
「ああ。そうじゃ」
ミケが頷いた。
「『短命の呪い』と引き換えに、国王の母君は異世界で生きながらえておる」
「妻のために……」
「だからその呪いが終わってしまわないように、国王は自らの体を巨大化させて『呪い』の効果を延ばしておるのじゃ」
「ショージさん、それで体大キクなった」
「国王様も、決して悪いだけの人じゃないんだよね……」
「ケッ。だからって、人を食っていいってわけじゃないだろが」
「…………」
……一体どうするのが正しいのだろうか。私は目を瞑って、自分の心に問いかけた。
「……だとしたら、結局は呪いによって、この巨人の命もいつかは尽きると言うことか」
「いつかっていつだよ……」
「ふむ。本人が巨大化を止めれば……しかし、そうなればお主の奥方は……」
「そんな……」
だんだんと皆の口数が減ってきたところで、私は全員の顔を見渡して口を開いた。
「聞いてくれ。一つ私から提案がある」




