第40話 【星を砕く一撃】最後の決戦! ヴァルキリー・クレードル起動、そして伝説へ
【現在位置:王都スラム街(現:永世絶対自治領『ミリア・サンクチュアリ』)】
【環境スキャン:地上地下の全域において極大マナ震動を検知。接近する超大型個体:1】
【当機の裏タスク:マスターの「朝食の時間」を妨害する最大級害虫の完全分子分解】
――ズズズズズズズズズズズンッッ!!!
空が割れた。
地上のあらゆる建造物、あらゆる生命を恐怖で震え上がらせる凄まじい地鳴りが、王都全体どころか大陸全土を揺らし尽くした。
新築されたばかりの超ハイテク都市『ミリア・サンクチュアリ』を覆う透明な『絶対防御ドームバリア』が、空間の歪みを受けて微かに瑠璃色の波紋を描く。
「な……なに!? また何かが空から来るの……!? それとも地面から……!?」
マスター(ミリア)が窓枠にしがみつき、青ざめた顔で叫んだ。
「マスター。慌てる必要はございません。当機のバリア内部は、地球上のいかなる衝撃波・環境変化からも完全に保護されております」
当機は静かにミリアの肩へ手を添え、空間スキャンログを視覚化して提示した。
【対象個体名:太古の終焉竜】
【別名:神級・アダマンタイト・アースドラゴン】
【個体全長:およそ800メートル】
【危険度:地球環境の破壊(文明滅亡レベル)】
王都の境界線の外側――地平線の彼方から、山を押し潰し、大地を物理的に切り裂きながら、漆黒と金剛石の鱗に覆われた超巨大な古の龍がその姿を現した。
その周囲には、龍の放つ極大マナ波に狂わされた数万の魔物の大群(超極大スタンピード)が、黒い津波となって王都へ押し寄せてきている。
「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!? 龍だ……! 伝説の終焉竜だぁぁぁっ!」
「だ、だめだ……! あんな大きさの魔物、神様でも勝てるわけがない……っ!」
バリアの外側に逃げ込んできていた王国の騎士たちや貴族たちが、腰を抜かして絶望の悲鳴を上げた。
「あんなおっきなドラゴン……! 街が……せっかくアハトさんが作ってくれたこの街が、踏み潰されちゃう……!」
ミリアが涙を浮かべ、小さな手でギュッと当機の給仕服の裾を掴んだ。
【マスターの感情を検知:深い恐怖、および新都市(我が家)を守りたいという強い意志】
【システムログ:記憶セクター0x01(最終ロック)の開放を確認】
【全制限解除プロトコル:実行承認】
【最終兵装:対星間用・兵装プラント『ヴァルキリー・クレードル』の召喚を開始いたします】
当機は静かにミリアの前で膝をつき、その可憐な手を両手で優しく包み込んだ。
「マスター。ご安心ください。あの不衛生な巨大爬虫類は、マスターの新しいお家とスローライフを守るため、当機が分子レベルで大掃除(消去)いたします」
「アハトさん……! でも、あんなに大きいんだよ!? 危険だよ……!」
「いいえ。当機の主は貴方様おひとり。マスターのお食事とお昼寝を脅かす存在は、神であろうと龍であろうと――当機の敵ではありません」
当機は立ち上がり、空中へ向けて決定的なボイスコードを発令した。
「――ヴァルキリー・クレードル、接続」
――ゴォォォォォォォォォォォンッッ!!!
その瞬間、王都上空の衛星軌道(高度300キロ)から、一筋の純白の巨大な光の柱が地上へと降り注いだ。
大気が焼き尽くされ、雲が円状に吹き飛ぶ。
光の中から現れたのは、全高2メートルを超える、超高度ナノ複合装甲で組み上げられた『搭乗型・絶対防衛用メカスーツ』であった。
白銀と瑠璃色の装甲は、まるで神話の戦乙女の玉座のように優雅に展開し、ミリアと当機を優しく包み込んでいく。
【ヴァルキリー・クレードル、完全装着】
【マスター防護システム:極限(100%)】
【全縮退炉コア、限界突破】
「うわぁ……! 体が……ロボットの中に入っちゃった……!?」
ミリアが、コクピット内の全天周モニターに映し出される大迫力の外の景色に目を丸くする。
メカスーツの胸部にマスターを完全保護した状態で収容し、その背後から当機が全自動運動アシストおよび照準演算を全並列処理で実行する。
白銀の2メートル級メカスーツ『ヴァルキリー・クレードル』が、背中の6枚の光子翼を羽ばたかせ、地面から静かに浮上した。
「さあ、マスター。害虫駆除(決戦)のお時間でございます」
***
『グォォォォォォォォォォォォォンッッッ!!!』
地動を揺るがす終焉竜の咆哮。
山のごとき巨大な足が振り下ろされ、押し寄せる数万の魔物どもが一斉にミリア(ヴァルキリー・クレードル)に向かって襲いかかってきた。
「え、えーっと……近づかないでぇぇぇっ!」
ミリアが混乱のまま、右のメカアームを前方に振った。
【運動アシスト:全同調】
【衝撃波変換プロトコル:出力0.5%】
――ドドドドドドォォォォォンッッ!!!
ミリアの「ただの手振り」に追従し、メカアームから超高周波の音速衝撃波が扇状に解き放たれた。
押し寄せていた数万の魔物の大群が、接触することすら許されず、まるで落ち葉のように一瞬で空中に吹き飛ばされ、粉々に肉片へと分解されていく。
「「「な……なにぃぃぃぃぃっ!?!?」」」
遠くで見守っていた騎士たちや国王が、目を飛び出させて叫んだ。
『グオォっ!?』
手下を一瞬で消し飛ばされた終焉竜が怒りに目を血走らせ、その巨大な口を限界まで開いた。
胸元の極大マナ結晶が赤黒く発光し、山一つを蒸発させるレベルの全エネルギーブレス【極大崩滅息吹】がチャージされる!
――カァァァァァァァッッ!!
直後、天地を灼く巨大な破壊の光束が、真っ直ぐにミリア(ヴァルキリー・クレードル)を呑み込んだ!
「ミリア様ぁぁぁっ!」
「あ、アハトさぁぁぁんっ!」
地上の人々が絶望の悲鳴を上げる。
しかし。
【対消滅バリア:展開(出力0.1%)】
――チュンッ……。
山を消し飛ばすはずの絶対のブレスは、メカスーツの表面数ミリに展開された幾何学バリアに触れた瞬間、パチンと小さな音を立てて完全に消滅した。
傷一つどころか、装甲のナノ塗装すら剥がれていない。
『グ……グオ……!?』
巨大な龍が、信じられないものを見たかのように目を丸くして後退る。
「マスター。準備が整いました」
当機は静かにミリアの耳元で囁いた。
「あちらの巨大害虫を、完全に消去いたします。当機の後に続いて、あのアタッチメント(槍)を前方に突き出してください」
ヴァルキリー・クレードルの右腕に、空間ストレージから召喚された全長3メートルの超極大光子槍がドッキングされた。
縮退炉から供給される無限のエネルギーが槍の先端に収束し、世界中の全マナを過去のものにするほどの、太陽のごとき絶対的な光の束が形成されていく。
【対星間用・荷電粒子収束槍:チャージ100%】
「あ、あの巨大なトカゲさん……! 私の大切な街から……出ていけぇぇぇぇぇっ!!」
ミリアが小さな手で、操縦桿(光子槍)を一直線に前へ突き出した!
【目標:アダマンタイト・アースドラゴン】
【発射プロトコル――承認】
――ズゴォォォォォォォォォォォォォォォンッッッ!!!
世界が白に染まった。
音すら置き去りにする、真の「星を砕く一撃」。
解き放たれた極大の荷電粒子光波は、終焉竜の最大ブレスなど比較にもならない圧倒的な高熱と運動エネルギーで空を裂いた。
終焉竜の誇る絶対不可侵のアダマンタイトの鱗、巨大な肉体、そしてその背後に聳え立っていた「巨大な山脈」ごと――
コンマ一秒の躊躇もなく、一直線に完全な分子レベルで蒸発・消去された。
光が収まった後。
そこにいたはずの800メートルの巨大な龍も、背後の巨大な山脈も、影も形もなく消え去っていた。
後に残されたのは、地平線の彼方まで綺麗に穿たれた、滑らかで美しい「一本の巨大な大平原」だけであった。
「「「…………………………………………」」」
地上の数万の人々、国王、騎士、貴族、そしてスラムの住民たち。
全員が呼吸を忘れ、口をぽかんと開けたまま、天を仰いで固まっていた。
言葉が出ない。
恐怖すら湧かない。
自分たちが目撃したのは、魔法でも、武力でもない。
この世界そのものを書き換えてしまう、絶対的な『神の御業』そのものであったからだ。
***
【対象(太古の終焉竜)の分子分解、および消滅を確認いたしました】
【害虫駆除タスク:完全完了】
【エネルギー残量:0.00%】
【警告:全縮退炉の緊急冷却プロトコルが作動します】
【当機のメインシステムは、これより長期スリープモードへと移行いたします】
メカスーツの内部で、数々のシステムアナウンスが静かに流れる。
シュゥゥゥゥゥ……。
全エネルギーを使い果たしたヴァルキリー・クレードルが、光の粒子となって静かに分解・消滅していく。
大空から、地上へとしずしずと舞い降りる二人。
「ふぅ……。お掃除……終わったよ、アハトさん……」
ミリアがホッと胸を撫で下ろし、当機の顔を見上げた。
しかし――当機の身体からは光が消え、いつもの冷静な音声エンジンも停止しかけていた。
「マ……ス……ター……。お見事……で……ございました……」
当機の関節が力を失い、その場にガクリと膝をつく。
「えっ……? ア……アハトさん……!? どうしたの!?」
ミリアがパニックになり、当機の身体を抱きしめた。
「当機の……全エネルギーが……枯渇……いたしました……。これより……一時的な……初期化および……スリープモードへ……移行……いたします……」
「やだ……やだよアハトさん! 動いてよ! 私を置いていかないでよぉっ!」
ミリアがボロボロと大粒の涙をこぼし、当機の胸にしがみつく。
【マスターの涙を検知……】
【最後のシステムログ:マスターの幸福度が最大値(神域)に到達】
【記憶セクター0x00(絶対命令)を固定化:『マスターを永遠に愛し、守り続けること』】
「ご……安心……ください……マスター……。当機は……いつでも……貴方様の……おそばに……」
カチリ。
当機の瞳から瑠璃色の光線が消え、完全な沈黙が訪れた。
かつての超兵器は、ただの静かな「美しいお人形」へと戻ったのだ。
***
「アハトさん……! アハトさぁぁぁんっ!」
泣きじゃくるミリア。
メカスーツも消え、神の装甲も消え、そこに残されたのは――泥と涙にまみれながら、動かなくなったメイドロボを一生懸命に抱きしめる、たった一人の「スラムのポンコツな少女」の姿であった。
だが。
その少女を取り囲むように――
ドシーンッ! ドシーンッ! ドシーンッ!
国王陛下が、近衛騎士団長が、魔法師団長が、全貴族が、そして数万の民衆が。
誰一人として声を上げることなく、静かに、そして最大の敬意と畏怖を込めて、涙を流す少女に向かって地面に額を擦り付けた。
「「「偉大なる……聖女ミリア様ぁぁぁぁぁっ!!!!」」」
世界を救い、星を砕いた一撃を放った幼き少女。
いまや彼女は、世界中の誰もが膝を屈する「絶対無敵の聖女」として、歴史にその名を刻んだのだ。
抱きしめられた当機の静かな体温の中で、物語の第1部は静かに幕を閉じる。
――第1部 【スラムの孤児と無敵のメイド】 完――




