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傷心令嬢の鬼ごっこ  作者: 夕鈴
第一章

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第23話 ラーナ領の騎士

両騎士団長はイリアナ達の広報活動は大成功したと判断した。

第一騎士団長とジオラルドの報告を聞いてレオナルドは笑っていた。

この広報活動の責任者は第一騎士団長だった。


「イリアナは面白いなぁ。民達に恐れられ、時に厄介者扱いされている騎士が子供やご婦人に人気になるとは思わなかったよ。」

「殿下、ご満足いただきましたか?」

「予想外だけど期待以上の成果だから構わないよ。第二騎士団の街の詰め所が子供の学び場のになり、感謝状まで送られるとは。さすがイリアナだよ。ないとは思うけど、子供達に無体なことをしないように徹底させてね。子供が苦手な騎士もいるだろうけど、子供も国の大事な資源だ」

「もちろんです」



第二騎士団の成果を誇らしげに語る第一騎士団長とレオナルドの話をジオラルドは無言で聞いていた。

今日は共同訓練日だったため、報告を終えたジオラルドは訓練場に向かった。


「おまえらのせいで迷惑してるんだよ」


聞き覚えのある挑発している声にジオラルドが近付くと、第一騎士団の騎士だった。

ジオラルドが入隊した時から第一騎士団と第二騎士団は競い合い、仲が壊滅的に悪かった。


「なんで?」

「子供が絡んでくるんだよ。おまえらのせいで騎士団が軽く見られるんだよ」

「あの広報か。本当は第一騎士団の仕事なのに、うちの隊長が頼まれたんだよな。第一騎士団には頼める人材がいないから、うちに回ってきたんだってな。代わりに引き受けてやったことに感謝すべきじゃないか?そんなこともわからないから、外されたのか」

「お前ら!!」

「うちの詰め所にも子供がくるけど、人に絡むなんて迷惑なことはしない、聞き分けのいい、いい子ばかりだよ。理不尽に当たり散らすしかない大人にならなそうで見てて安心できる」

「お前らと違ってこっちは呑気じゃないんだよ」

「両騎士団の仕事量は同じはずだけど、なんでだろうな。うちは仕事に追われてないから呑気かもしれないな。俺、第二騎士団に配属されて良かったよ」

「さっきからいい気になりやがって」

「そうか。そうか。悪いな。羨ましいなら、移動願い出せば?そういえば、こないだ騎士団に魔女がいるの?って聞かれたな。うちのラーナと比べられたらそれは、な?子供には魔女はいないって言っておいたから安心してくれ」

「どーいう意味よ!?」

「子供には俺達騎士団の紋章の違いなんてわからないだろう?だから、ラーナと間違えて声を掛けたら、怖いおばさんだったから、魔女に見えたんだろうな。約束守ったのに怒られたって、泣いて可哀想だったよなぁ。うちの優しいお姉さんのラーナが宥めたけど」

「当事者はどうしてるのよ!?」

「第二騎士団の仕事は第二騎士団全員のものだから、俺らが当事者だな」



第二騎士団ではイリアナを一人で共同訓練に行かせないことを本人には秘密で決められていた。

イリアナが共同訓練場に行くと絡まれることを予想しているヒューゴ達はイリアナがギリギリの時間に訓練場に着くために足止めしていた。

イリアナがいない鬱憤をぶつけられるだろう、華奢で気弱な騎士に口達者な騎士が付き添い、口論していた。

もうすぐ共同訓練の開始時間が迫っており、勤務時間内の騎士の喧嘩は罰則が設けられている。

上司に見つかる前に納めないと大事になることがわかっているジオラルドは口論している第一騎士団の騎士の肩に手を置いた。



「何をしている」

「ジオラルド?第二騎士団の奴らから侮辱を受けたので、」

「侮辱?俺は第二騎士団の話しかしてませんが、誤解を招いたなら手合わせしても構いませんよ」


私的な喧嘩は禁止されているが、訓練として手合わせすることは認められている。

第二騎士団の騎士からの申し出に、ジオラルドは手合わせならいいかと頷き、第一騎士団の騎士の肩から手をどかした。



「手合わせするか?」

「いや、それはちょっと」


ジオラルドは威勢よく口論していたのに、手合わせを嫌がる部下と静かに反論していたのに、好戦的な第二騎士団の騎士を見比べた。

第二騎士団の騎士のほうが実力があり、口論した相手に無様に負けることは避けたいだろう心情は理解できても、認めるわけにはいかなかった。



「戦場に出たら敵は選べないから、格上相手に経験を積むのは貴重だが」

「格上!?」

「隊長達が来たので、これで」


第二騎士団の騎士は素早く第二騎士団の隊列に足を進めた。

ジオラルド達も話はやめて、所定の場所に戻った。

両騎士団、隊列を組み、両騎士団長を迎えた。

第一騎士団の後ろに第一騎士団の制服を着た華奢な男が3人立っていた。


「え?」


静寂の中、イリアナの声が響いた。


「失礼しました」


イリアナが真顔で謝罪をしたのを第一騎士団長が受け入れた。


「臨時の入団試験の成績優秀者だ。充分な実力があるので、見習いではなく騎士として第一騎士団に配属した。アドニス、リック、イワン、挨拶するか?」

「慣例通りに、団長からの紹介のみでお願いします」


初めから見習いではなく、騎士として配属されるのはイリアナ以外で初めてのケースである。

増員があれば、全体に紹介するまえにジオラルドにも紹介されるはずだったが、全てが初めて聞く話だった。

新人の3人が挨拶が終わり、共同訓練が開始さてた。

共同訓練の最後は第一騎士団と第二騎士団の力比べの手合わせである。

最後の力比べは立候補者がいない場合は上官が指名することになっているので、ジオラルドが誰を選ぶか考えていた。


「第二騎士団、イリアナ・ラーナが立候補します。第一騎士団長、お許しいただけるのあれば、入団されたアドニス様を指名させていただけませんか」


元気に手を上げて、前に出てきたイリアナは第一騎士団長に礼をした。


「ラーナが指名するのは初めてだね。アドニスやるか?」

「御指名とあれば」


第一騎士団長の問いかけにアドニスは頷いた。

イリアナとアドニスが礼をして、剣での手合わせが始まった。

素早さ重視のイリアナにしては緩やかな剣の動きで、いつもより明らかに遅かった。


イリアナは観戦者に聴こえないように、声を出さずに、アドニスに話しかけた。

二人とも読唇術は身に着けており、緩やかに剣を振るっているので、会話する余裕があった。



「アド、なんでいるのよ」

「忠誠を捧げた俺を置いていったイリアナ様が悪い」

「アベルトを支えてって頼んだのに」


不満そうなイリアナにアドニスは笑う。


「姉に忠誠を誓った騎士などいらないから、ラーナ家門に恥じない行動をせよと放り出されました」

「アル…」

「ラーナ領もラーナ家も心配はないと伝言を頼まれてます」

「よかった。忠誠を返そうか?」

「それなら俺の首をイリアナ様が落としてください」


アドニスはイリアナが初めて、忠誠を受け取った騎士である。

忠誠を誓った騎士の全ては主のもの。

ラーナ侯爵令嬢でなくなったイリアナは忠誠を誓った騎士に与えられるものは少ない。

それでも、忠誠を受けた責任として、命失う時まで忠誠を誓った者を投げ出すことは許されないので、頑固なアドニスの言葉に首を横に振った。


「私、目立ちたくないから立場をわきまえて」

「我が主の仰せのままに」

「一緒に来たリックとイワンは?」

「俺が許されるなら自分達も行くと騒ぐので、面倒みきれないから、責任持って連れて行けと兄上に押し付けられました」


イリアナはアドニスの剣を受け流しながら、その光景が目に浮かんで遠い目をした。


「アル達の警護は?」

「アベルト様に忠誠を捧げている護衛騎士長の兄上達がいますので、心配はいりません。過剰防衛ってほど固められていますよ」

「そうよね。どうしてアルには誠実な騎士が多いのに私には…」


アベルトに忠誠を捧げる騎士達は一見は物静なタイプが多かった。

騎士の性格を深くは知らないイリアナにアドニスは苦笑する。

アベルトに忠誠を捧げるのは主によく似た腹黒い者が多かった。


「兄は誠実ではありませんよ。兄より確実に扱いやすい俺で我慢してください」

「リックとイワンの手綱も握って。この兵達はバカばっかり。バカは相手にするなと伝えて」

「我が主が望むなら」

「それも禁止。アドと私の関係は秘密よ。知られたら面倒なのよ。見せないと証明できないものなんてたかが知れてる。私のアドならできるよね?」

「イリアナ様の命であれば」

「そろそろ少し真面目に手合わせしようか。私の騎士が弱いなんて許せない」

「お手柔らかに」


イリアナが微笑むとアドニスは頷いた。

緩やかだった剣戟が風を切る音がした。

凄い速さの斬り合いに目で追える者は少数だった。

勝敗の見えない二人の手合わせは制限時間が終わるまで続いた。


「そこまで。両者、剣をおさめろ」


ジオラルドの声に、イリアナとアドニスは剣をおさめて礼をした。


「アドニス様、ありがとうございました」

「お名前を聞いても」

「名乗らずに申しわけありません。イリアナ・ラーナと申します」

「イリアナ様、これからよろしくお願いします。アドニスとお呼びください。貴方の剣に魅入られました」

「ご謙遜を。わかりました。こちらこそよろしくお願いします」


アドニスの差し出した手をイリアナは握り、友好の握手を交わした。

二人はお互いの陣営に戻っていき、次の相手が指名されたが、イリアナ達以上の剣技を披露する者はいなかった。

その後の手合わせは第二騎士団に勝ち星がつき、最近は第一騎士団は連敗記録を更新していた。

共同訓練が終わり、新人のリックとイワンは殺気交じりの瞳でアドニスを睨んでいた。

ジオラルドは三人に話しかけられる雰囲気ではないので、第一騎士団長室に移動した。



「隊長、俺、なにも聞いてないんですが」

「悪い。伝えるの忘れてたよ」

「あの三人って…」

「ジオも読唇術使えるから、二人の会話でわかったろう?シュナイダー王国からの亡命で、あの様子だとラーナ領の騎士だろうな」

「シュナイダー王国からの亡命なら、なんでうちなんですか」

「ラーナは未成年だから、母国と戦った騎士団に配属するのは、はばかられたが、あの三人は成人しているから、配慮はいらないだろう?最近の戦績でわかるよに第二騎士団のほうに能力の偏りが出ているから、三人はうちに配属した。新しい風になるだろうか」

「馴染もうとする様子が欠片もないですが…。隊長の期待する新しい風は嵐ですか?」

「志のないものに騎士の制服を着せておけないから、丁度いいだろう。罷免するにも理由が足りないからねぇ。新しい風がどう変化をもたらすか…。将来はジオがやることだ。統制はもちろん、騎士の見極めも身に付けないといけないよ。同じ侯爵家としてラーナに劣っている事実を認めた方がいい」

「劣る?」

「ラーナが入隊し、第二騎士団の結束が強まったのはあの子の手腕だ。もしラーナが平民ではなく、貴族として入団したら俺は小隊長に任命したよ。未成年で華奢でも騎士の見本にしたい逸材だ」


イリアナがここにいてば、何もしていないと反論しただろう。

イリアナに絆された騎士達が第一騎士団からのイリアナへの嫌がらせに対して結束しただけである。

イリアナがしたのは、手合わせの時にアドバイスだけで、華奢な少女に負けた騎士達が必死に訓練しているから腕が上がっただけである。

ノックの音に第一騎士団長とジオラルドは会話をやめた。


「失礼します」


入室許可を求めず入ってきたアドニスを第一騎士団長は咎めることなく受け入れた。


「アドニスか。さっきはご苦労だった」

「いえ、きっとお呼びがかかると思い、参りました。俺達の会話に気付いていましたし」

「わざとだろ?」

「はい」

「騎士団の移動は認められないよ」

「そんなことは望んでません。無礼をお許しいただけますか?」

「初日だからな。腕もあるし聞いてあげるよ」

「うちのイリアナ様をバカにしないでください。同じ土俵にも立っていない、騎士達を掌握できずに野放しにしている方と一緒にするなど、侮辱もはなはだしい。俺達の至宝を貶めるような言葉はお控えいただけると助かります」

「アドニスはラーナに心酔してるね」

「ええ。第一騎士団長、騎士の規約を貸してください」


第一騎士団長がぶ厚い本と要約された薄い本を差し出した。


「両方お貸しいただいても」

「ああ。構わない」

「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」


アドニスは本を受け取り去っていった。

ジオラルドは茫然とアドニスの後姿を見送った。

マナ侯爵家のジオラルドに力不足とはっきり言う騎士は騎士団にはいなかった。


「ジオ、大丈夫?わかってなさそうだね。父親に聞いてみなさい」

「隊長は教えてくれないんですか」

「俺は甘やかす趣味はないから。試練を与えて眺めるだけ、乗り越えられなければそれまでだ」


翌日から騎士規約を熟読したアドニス達が罰則に触れないようにイリアナをバカにしている人間に報復をはじめた。

アドニス達は第一騎士団に馴染む様子はないが、罰則に触れず、忠実に業務はこなしているので、ジオラルドは見守るしかできなかった。

第二騎士団は遠征に行くため、父親に相談することもできなかった。。

ジオラルドは自分の間の悪さに落ち込みたくなったが、イリアナの不在を知り、荒れたリックとイワンが騒ぎをおこし、落ち込む余裕は与えられなかった。


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