第21話 手合わせ
ジオラルドは後悔していた。
セインにイリアナとはじめからやりなおすことを提案されたけど、昨日は失敗した。
目の前で責められ泣いているイリアナを見たら放っておけず体が動いた。
ジオラルドはイリアナが第一騎士団に嫌われる理由がわからなかった。
帰国してから第一騎士団の雰囲気がおかしかった。
ジオラルドは第一騎士団長室へ向かった。
「隊長、この隊はどうしたんですか?」
「ジオ?」
「俺が殿下の命で離れてる間に空気が変わりましたよね?」
第一騎士団長はジオラルドが数カ月任務に出ていたことを思い出した。
ジオラルドはレオナルドに気に入られているので、時々単独任務を命じられることがあった。
「女性騎士の未成年の抜擢なんて初めてだろ?突然殿下が連れてきて、入団試験なしの大抜擢への騎士達の反感が凄まじかった。特にうちの隊の騎士はうちの女性騎士に弱いだろ?」
ジオラルドには試験を受けていないイリアナが騎士見習いではなく騎士として抜擢されて、反感を持たれるまでは理解はできた。
ただそれ以外はジオラルドには意味がわからなかった。
「は?」
第一騎士団長は純粋なジオラルドには伝わっていないことを理解した。
第一騎士団長はジオラルドがイリアナを好いているのは知っていた。
第一騎士団長は好きな人が嫌がらせを受けていることを話したら、ジオラルドは私情で動くことも察しているため、当たりさわりのないことだけ伝えることにした。
隊の緩みについての問なのであえて、必要以上のイリアナの情報を伝える必要性も感じていなかった。
「うちの女性騎士達はラーナが第二騎士団で苦労しているのを楽しそうに見物していたよ。ただラーナが第二騎士団に馴染んだのが面白くなかったようだ。それからラーナに嫌がらせをされたとうちの騎士に泣きついている。ラーナは強かったし、訳ありのラーナより仲間の言葉を信じるだろ?」
ジオラルドは絶句した。
『状況がおかしいだろう。年下の少女に嫌がらせをされて泣きつくって状況の方がまずい。騎士なら自分でなんとかしろよ。幾つ年が離れてるんだよ…。だからあの時、囲まれてたのかよ。まず未成年の新人騎士が苦労しているのを面白く眺めていることもありえないだろうが』
相手がイリアナじゃなくても、ジオラルドは現場を見つけたら取り締まる自信があった。
ジオラルドはいったん自分を抑えて、大事なことを確認することにした。
「隊長、なんで放っておくんですか?」
「せっかくだから見極めようかと。女性騎士は珍しいから期待していたんだけど、あれだと広報にさえも使えない。ラーナと交換してほしい」
ジオラルドは第一騎士団隊長の目が虚ろになっていることに気づいた。
「隊長?」
「お前の父親に自慢される俺の気持ちわかる?昨日ラーナは第二騎士団長に感情のコントロールができなかったから降格してくれって言ってきたんだと。しかもその後、すごい集中力で三日分の内務処理を終えたんだと。第二騎士団の連中には遅刻と騒がしたことを謝罪するだけで何も言わない。うちのは騎士は、はめられたって騒いでるのに。被害者がラーナなのは誰の目にも明らかだ。第二騎士団に行きたい。素直で優秀で可愛い部下が欲しい。なんで殿下は俺にラーナを預けてくれなかったんだろう」
「隊長よりも、うちの父上の方が強いからでは」
「殿下は女性騎士の登用も考えられていて、うちは広報も任されてるんだけど第二騎士団に回してもらおうかな。ラーナに任せた方が集まりそうだ」
イリアナとセインはシュナイダー王国で民達から人気があった。
二人をザビ王国に、送り出すことに涙する国民が多かった。
ただレオナルドが二人を欲しがっていたので、ザビ王国の者たちが影で暗躍し、二人は自ら志願してレオナルドに忠誠を誓ったという話に塗り替えられていた。
「彼女はシュナイダー王国でも民に人気がありましたから、うまくやりそうですね」
「お前から父親に頼んでくれない?」
「嫌ですよ。隊長の仕事でしょ。でも隊の乱れはなんとかしないといけませんね。まずは根性叩きのめしましょうか」
「ああ。頼むよ」
ジオラルドは曖昧な笑みを浮かべた第一騎士団長を残し、第一訓練場に向かう途中で騎士に声をかけられた。
「ジオ、お前、ラーナと知り合いなの?」
「ああ」
「ラーナは嫌がらせするような子?女性騎士を弱いとバカにする?」
「しないと思うけど」
「だよな。一部のバカが騒いでるだけか、」
昨日のことでまだ騒ぎがおさまってないことにジオラルドは苦笑した。
第一騎士団長の話だと第二騎士団では昨日の段階で片付いていた。
「余計なことを考えられないくらいに、弱さを突きつけようと思う」
「今日はジオの地獄のコースなの?」
「たまにはいいだろ」
「お手柔らかに」
ジオラルドは片っ端から騎士たちを叩きのめした。
この話を翌日セインに話したら、騎士道の教育の見直しを考えろと言われた。
騎士道の見直し方法に悩むジオラルドにセインは何も言わなかった。
セインはヒントは与えるけど、答えを教えるほどジオラルドに甘くなかった。
ジオラルドはぼんやり歩いていると第二騎士団の訓練場に来ていることに気づいた。
イリアナが槍を振り回していた。
「リア、付き合おうか?」
「時間があるならお願いします」
誘ったけど、了承されるなんてジオラルドは思わなかった。
「槍、剣?」
「槍でお願いします」
向かってくるイリアナの槍をジオラルドは軽々と受けとめた。
イリアナの槍は軽い。
小柄で力のないイリアナには槍は向いていなかった。
「リア、俺の槍の動きを利用して」
イリアナの動きがかわり、槍に重みが出た。
ジオラルドはイリアナの槍を飛ばした。
槍を拾ったイリアナが悔しそうにジオラルドを見た。
「敵いませんね。ありがとうございました」
「構わないけど、なんで槍?剣の方が得意だろ」
「剣はお父様に合格をいただいたんですが、槍は駄目で。戦場では武器が選べません。どんな武器でも戦えないといけないので。」
「仲間に訓練に付き合ってもらわないの?」
イリアナが曖昧な笑みを作った。
「ジオには見つかったけど、槍が苦手なのは隠したいんです。ラーナ家の者が苦手な武器があるなんて弱みはみせられません」
ジオラルドにはイリアナの槍は弱みとなるほど弱くはなかった。
ただイリアナが弱みと思ってるなら、へたなことは言わないほうがいいとジオラルドが珍しく空気を読んだ。
「厳しいんだな。じゃあ俺が付き合うよ」
「第一騎士団の方に怒られるので、お気持ちだけで」
今日はなぜかイリアナに避けられていないジオラルドは思い切って聞いてみることにした。
「リア、俺はお前とどう関わればいい?セインに俺とリアたちとの立場の違いを考えて関われって」
「わからないなら関わらなければいいと」
「それは嫌だ」
ジオラルドの即答にイリアナがため息をついた。
「侯爵家って目立つんです。爵位のない私達がジオに礼儀を欠いて関われば不敬罪で首を飛ばすこともできるんです。人の視線があるところでの貴方への態度を間違えるわけにはいきません」
ジオラルドはイリアナの言葉に驚いた。
不敬で人の首が飛ぶなんて見たことがなかった。
「嘘だろ?」
「事実なので覚えてください。セイン兄様は同性なのでまだいいですが、私達は特に注意がいるんです。ジオラルド様はまだ婚約者を決めていません。侯爵家の婚約者の椅子は令嬢達に人気です。貴方の行動は貴族特にご令嬢達の注目の的なんですよ」
「リアも婚約者を探しているんだろ?」
「レオ様の命ですから。自分でなんとかします。もし幼馴染として私の事を心配してくれるなら人前では関わらないでください。話しすぎました。これ以上の講義はセイン兄様に頼んでください。失礼します」
イリアナは礼をして槍を持って去っていった。
ジオラルドは考え込んだ。
人前じゃなく、視線に気をつけて関わってもいいと解釈したジオラルドの話を聞いたセインは苦笑するしかなかった。




