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傷心令嬢の鬼ごっこ  作者: 夕鈴
第一章

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第15話前編  休養日

イリアナは肩を揺さぶられて目を開ける。


「イリア、起きて、イリア!!」

「アマル?」

「仕事でしょ?」

「今日、休み」

「休みは明日だよ」


アマルの言葉にイリアナは慌てて起き上がった。

アマルが慣れた手付きで渡す着替えを受け取る。

イリアナは慌てて着替えて顔を洗って身支度を整えて出かけようとすると、アマルから包みを目の前に差し出された。


「これ行く途中に食べて」

「ありがとう。行ってきます」


アマルからサンドイッチと荷物を受け取ってイリアナは家を飛び出した。

イリアナは一度女子更衣室に荷物を置いてロッカーを荒らされてからは荷物は第二騎士団の更衣室に置いていた。

イリアナがいても第二騎士団の騎士達は気にしなかった。


「思ったより時間に余裕があった。いつの間にかなんでもやってくれるアマルに甘えてるなぁ。アマルがいないと生活が破綻しそう……」



走って出勤したため時間に余裕ができたのでイリアナはアマルに渡されたサンドイッチの量に唖然とした。


「一切れでいいのに、アマル、ありがたいけど、量が多いかな」


サンドイッチを一切れ食べ終え、残りをどうしようか迷っているとイリアナは、視線を感じて振り向いた。


「食べますか?」

「いいの?」

「はい。量が多くて」

「ありがとう」


イリアナは騎士見習いに残りを渡した。

嬉しそうに食べている騎士見習いを見ながらイリアナは考えこんだ。

作った料理を美味しそうに食べてもらえる事が嬉しいと知っているイリアナは笑顔を作ってアマルの料理を食べた。


「美味しいよ」

「イリア、嘘をつくくらいなら無言でいい」


悲しそうな顔をするアマルを見て、瞬時に見破られたことを察した。

よく働くのに、給金を受け取らず、何も欲しがらないアマルにイリアナは何かしたい気持ちはあった。

アマルの料理に味がついている、濃いかもしれない程度は感じられることもあるが、イリアナに料理の評価をするのは難しかった。


****



午前の訓練を終えて昼休憩になった。

イリアナは今日もヒューゴに食堂に連れてこられていた。

イリアナには食堂の食事は量が多いからいつもヒューゴの皿に食べられない分を移していた。

イリアナは指導係のヒューゴと一緒に行動することが多いからヒューゴの好意に甘えていた。


「ラーナは相変わらず、食が細いな」

「いつもありがとうございます」

「別にいいけど」

「ヒューゴ、子供の頃なにか欲しいものはありましたか?」

「剣」

「他には?」

「うまい飯」

「そうですか。ありがとうございます。」


イリアナはヒューゴの参考にならない答えにため息をついた。

午後の業務を終わらせて帰ろうとするとヒューゴに食事に誘われたが、イリアナは断った。

家に帰るといつも通りアマルが食事を作って待っていた。


「今日も綺麗ね」

「うん。見た目が楽しければ美味しそうだから」

「ありがとう」

「いつか本当に美味しいって言わせるよ」


アマルは出会った頃と比べると明るくなった。


「ねぇ、アマルはやりたいことはないの?」

「イリアの傍にいられればいいよ」

「明日はお買い物に行こうか。欲しいものあったら教えて」

「イリアは金銭感覚おかしいから、一人で行かせられないもんな」


アマルはしっかりしている。

イリアナは将来アマルがやりたいことを見つけたら応援してあげようと決めていた。

イリアナはアマルのようには、なれないけどなぜかアマルを見てるとほっとした。

湯あみをして二人で一緒に眠る。

イリアナは最近寒いので子供体温のアマルの温もりをありがたいと思っていた。



****

イリアナは外の騒がしい声に目を開けた。

今日は休みだからゆっくり眠れると思ってたのに、うるさかった。


「イリアナは?」

「いません」

「イリアナ・ラーナの家はここだと聞いたんだけど」

「人違いです」


イリアナは呼ばれた気がして肩掛けを羽織って玄関に向かった。


「イリア、起きたの?」

「いるじゃないか!?」

「彼女はイリアであってイリアナではありません」

「は?」

「うるさい。休みだからゆっくり寝たかったのに」

「リア?」


自分の愛称を呼ぶ玄関にいる人物にイリアナが視線を向ける。

イリアナの寝起きでぼんやりした頭がやっと覚醒した。

目の前にはジオラルドがいた。

無礼とわかっていても言わずにはいれなかった。

無理矢理目覚めさせられたイリアナは機嫌が悪かった。


「このような姿ですみません。ただ訪ねて来るには時間を考えていただきたいです」

「イリア、もうお昼前だから」

「嘘!?起こしてくれてよかったのに。」


イリアナはアマルの言葉に素で驚いた。


「よく寝てたから。着替えてきなよ。」

「すぐすむから大丈夫。ジオラルド様、失礼いたしました」

「待ってるから着替えてきて」


ジオラルドにも言われ、アマルに寝室に手をひかれ、着替えを渡されたのでしぶしぶイリアナは着替えて玄関に向かった。


「ジオラルド様、お待たせいたしました。ご用件は?」

「リア、話し方戻して」

「もう立場が違います。ご容赦くださいませ」

「彼は誰?」


ジオラルドがアマルに視線を向けていた。

イリアナは社交用の笑顔で微笑んだ。


「ジオラルド様に説明する謂れはないです。ご用件は?」

「なにか不自由ないか心配で」

「お気遣いありがとうございます。特に不自由はありません。用がそれだけでしたらお引き取りくださいませ」

「え?」

「女性の部屋に一人で訪ねてくるなんて、誤解を招きます。ではお気をつけてお帰りください」


イリアナはジオラルドの背中を押して扉を閉めた。



イリアナはジオラルドと噂になったら面倒だった。

第一騎士団に嫌われているのは構わなかったが、貴族令嬢は敵に回したくはなかった。

マナ侯爵嫡男の婚約者の椅子が空いてたら令嬢達の目はギラギラして狙いにくる。イリアナは絶対に巻き込まれたくなかった。

イリアナはジオラルドの軽率な行動に頭を抱えたくなった。


「きっと大丈夫よね。こんなところに貴族は来ないからが噂になったりしない。絶対に大丈夫」


そんなことより、教えないといけないことがあった。


「アマル、誰か尋ねてきたら出なくていい。危険な人物なら困るもの」

「あの人は?」

「うちの騎士団の隊長の息子。怖い思いをさせてごめんね。」

「大丈夫。食事を用意するよ」


イリアナはずっとアマルの側にはいられない。

護身は大事なことである。


「ねぇ、アマル、護身術覚えたい?」

「教えてくれる?」

「貴方が望むなら」

「覚える」



イリアナはアマルの食事を食べながら午後の予定を考えた。

ジオラルドのことは頭から抜け落ち、アマルの指導計画で頭がいっぱいだった。


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