第14話 帰国
ジオラルドはレオナルドからの極秘任務を終えたので半年ぶりにザビ王国に帰国した。
レオナルドの執務室に行くとレオナルドは笑顔でジオラルドを迎えいれた。
「ジオ、お疲れ様。1週間休みをあげるよ。復帰したら楽しいことがあるから」
「わかりました。失礼します」
ジオラルドはレオナルドの言葉に疑問を感じるが、それ以上話す様子がないので退室した。
レオナルドは必要なことしか話さない。
ジオラルドにできるのは、レオナルドの命令を完遂することである。
ジオラルドは配属先の第一騎士団を目指したが、第一騎士団長室に行くと第一騎士団長は留守だった。
小隊長室に行き、騎士団の予定表を確認すると共同訓練と記載されていた。
共同訓練場に行くと、騎士達が盛り上がっていた。
ジオラルドを見つけた女性騎士が近付いてきた。
「ジオラルド、お帰りなさい」
「ただいま。何してるの?」
「第一騎士団と第二騎士団の模擬戦」
「1対3に見えるのは、俺の目がおかしい?」
ジオラルドの目には第二騎士団の制服を着た小柄な少年が第一騎士団の制服を着た三人と戦っている。
女性騎士は笑いながら答えた。
「第二騎士団の連中が女狐に懐柔されてるから現実を教えてやろうと」
「第二騎士団の女狐?第二騎士団に女性はいなかったはずだが…」
「ラーナ、やっちまえ。第二騎士団の実力をみせてやれ」
「ラーナ侯爵家の実力も、たかが知れてる。父親は王を守りきれずに死んだんだって?」
ジオラルドは聞こえてきた名前に嫌な予感がしてならなかった。
「待って」
聞き間違えであることを願いながら、ジオラルドを止められる騎士仲間の声など気にとめずに前に進んでいく。
一人の小柄な騎士を囲み、剣を構える第一騎士団の騎士達にジオラルドは言葉を失う。
「ではお望み通りお見せしましょう。侮辱したこと許しません」
聞き覚えのある声にジオラルドはレオナルドの笑顔の意味がわかった。
模擬戦がしっかり見える位置まで行くと、イリアナが二人の騎士を倒していた。
最後の一人と斬り合っているとイリアナに石が飛んできた。
イリアナは石に当たっても気にせず、最後の一人を倒した。
「ラーナ侯爵家は亡くなりました。ですがラーナ家や務めを果たした父への侮辱は許しません。いつでも相手になります。わがラーナ家では手合わせ中に第三者が介入することなどありませんでしたが、これが第一騎士団の流儀ですか。ご指導いただきありがとうございました。失礼します」
礼をしてイリアナが第二騎士団に戻っていく。
「ラーナ、血」
イリアナは頭から流れる血も、声を掛ける騎士にも気に留めずに第二騎士団長のもとに行き跪いた。
「隊長、申しわけありません。私情をおさえきれませんでした。処分は受けます」
「いや、処分すべきはお前じゃない。責めは避けなかったことだ」
「力不足で申し訳ありません」
「隊長、ラーナは俺に」
「ラーナ、もういい。ヒューゴ、頼む」
「失礼します。ヒューゴ、大丈夫です。すぐに止まります」
「バカ、お前は自分の傷は治せないんだから来い」
いつの間にかイリアナの姿はジオラルドには見えなくなっていた。
第二騎士団長が第一騎士団長を見て眉間に皺を寄せている。
「さて、第一騎士団長、申し開きを聞かせてもらおうか」
「私の指導不足で申し訳ない」
「ラーナから処罰の申し出があった。仕事に私情を挟んだことは許されない。だが家の誇りを傷つけられ、耐えられなかった彼女を責めるべきだろうか」
「ラーナへ謝罪もさせましょう。第一騎士団からラーナへの処罰を望むことはありません」
「よろしくたのむよ」
第二騎士団長は第二騎士団を率いて場を後にした。
第一騎士団長が怖い笑顔を浮かべて、ジオラルドは帰ってくるタイミングを間違ったことを後悔した。
「ジオラルド、貴方のお父様もいつの間にかあの女狐にかどわかされてるのよ」
ジオラルドはいつの間にか隣にいた女性騎士の言葉に悪意を感じた。
「なんで、そんなに嫌ってんの?」
「あの女狐は自分の婚約者が亡くなって鞍替えしてうちに来たんでしょ?殿下や第二騎士団の連中に気にいられてちやほやされて。同じ女として許せないわ」
忌々しげに話す女性騎士。
ラーナ領が好きだったイリアナが自分の意思でこの国に来たわけではないことをジオラルドは知っていた。
泣き叫んでいたイリアナのことを何も知らず、貶める言葉はジオラルドには不快でしかなかった。
「お前が彼女の何を知ってんの?」
「ジオラルド、貴方、まさか」
「イリアナに危害を加えたら許さない」
「ジオラルド戻ったか」
第一騎士団長の声でジオラルドは無意識に殺気を出して女性騎士を睨んでいたことに気付く。
殺気をおさめてジオラルドは第一騎士団長に礼をとった。
「はい、来週より復帰しますのでご挨拶に」
「隊が緩んでいるから絞めないとな」
「はい。1対複数、手合わせ中に第三者の妨害。同じ騎士として恥ずかしいです」
「減俸と騎士見習いの降格だな。これでわきまえられないなら剥奪だ。第二騎士団長に示しがつかない」
第一騎士団長の言葉に周囲の騎士達の顔が青くなった。
「隊長、それは、」
「罰の意味がわからないから問題なんだよ。士官学校からやり直しても構わないが。後でゆっくり話をしよう」
「隊長、俺はこれで失礼します。」
騎士の処分は騎士団長の領分のためジオラルドにできることはない。
ジオラルドはイリアナが心配なので、第二騎士団にも挨拶に行くことにした。
第二騎士団の訓練場に行くと、イリアナの頭に包帯が撒かれていた。
「ヒューゴ、いささか大げさでは。血も止まりましたし」
イリアナが不満気にヒューゴを見つめていた。
「これがこの国の普通だから。治るまでは手当してやるよ」
「そうだよ。イリアナ、お前仕事はできるのに他は駄目なんだから先輩の言うこときけよ」
「わかりました」
「そうそう。素直が一番。食事行こうぜ、おごってやるよ」
「お気持ちだけで」
「残りは俺が食べてやるから好きなもの注文していいよ」
「ありがとうございます」
第一騎士団に疎まれているイリアナは第二騎士団に馴染んでいた。
ジオラルドは第二騎士団に顔を出すことをやめてマナ侯爵邸に帰った。
久々の息子の帰宅に喜ぶ母親の相手をしていると父親のマナ侯爵が帰ってきた。
「ジオラルド、帰ったか」
「ただいま帰りました。来週から第一騎士団に復帰します」
「聞きたいことがあるんだろ?」
ジオラルドは父親に見透かされてることに苦笑した。
「なんでイリアナが第二騎士団に配属されてるんですか?」
「殿下が連れてきた。第一騎士団はシュナイダー王国との戦に出兵しただろう?ラーナは出陣していなくても禍根は残るだろうから、うちに配属された。素直で真っすぐで根性もあり、遠征も余裕でついてくるし慣れない者のフォローもうまい。最初は色々あったが、入団して三カ月、うまくうちに馴染んだよ」
「旦那様、それだとジオは余計に心配しますわ。憧れのイリアナ嬢が殿方に囲まれているなんて。僕がお嫁さんにするってずっと言ってましたもの」
「懐かしいな。今も彼女に御執心か」
「はやく嫁をもらってくれれば安心なんですけどね」
「ラーナに憧れる奴も多いからな。ラーナの休養日は明後日だ。ラーナは休養日は誰の誘いものらないらしい」
「ジオ、頑張ってね。お母様は貴方の初恋を応援してるわ」
ジオラルドは両親の生暖かい視線にどうすればいいかわからなかった。
父親の第二騎士団でのイリアナの話を聞き複雑な思いを抱えながらジオラルドは久々の家族での食事をおえた。




