番外編: 盗賊魔王VS勇者一行
会話を皮切りにオニスが斧を振るう。それを未来のシフは短剣で受けきったのだ、しかも片手のみで。
(オニスすら上回るパワーを持っているのか!?)
「いいねぇ……! 力で上をいく奴は久方ぶりだ!」
「……お前は戦いの中で成長する。とっとと死んでもらおう」
「そうかよぉ!」
オニスは斧を手放し殴りかかるも、軽く捌かれてしまう。
ずば抜けた戦闘センスを誇るオニスが、まるで赤子のように扱われていた。
「オニス!!」
「失せていろ」
「ぐっ!?」
すかさず助太刀に向かうが、蹴り飛ばされてしまう。
(ただの蹴りがなんて威力だ……エメルがいなかったらとっくに再起不能だ……!)
防いだ腕は折れていた。たった1度の攻防で実力の差がはっきりする。
『災撃』
微かな隙を狙ったオニス最大の一撃。それでも未来の自分は慌てることなく悠然と構える。
『嵐廻脚』
「……ッ!!」
「嘘……でしょ……!?」
羽虫を払うが如く、軽々と相殺したのだ。
(今のは『風薙車』だ……あそこまで至るのか……!)
「八災__」
「遅い」
オニスは続け様に奥義を放とうするが、顎に掌底を貰ってしまう。
「その居合い、『八つ裂きの一振り』か。懐かしい技だが、溜めの長さが欠点だ」
『天龍雷轟』
蹴り飛ばしては『雷歩』で追い付き、繰り返していく。次第に加速し、音速を超えてソニックブームが出るほどに。
目ですら追えない速さ、周囲に散乱していく血飛沫を怯えて眺めることしかできなかった。
ズドォン!!
地に叩きつけられたオニスはギリギリ原形を留め、徐々に再生していく。
「しぶといはずだ。オニスに回復能力なんてあれば不死身に等しい。施してる奴に見当がつかんとすれば……」
(まずい!)
標的をエメルへと定めるよう睨まられ、身を挺して盾になる。
『ダイヤモンドプロテクト』
一瞬にして、未来の自分は魔壁に囲まれた。その中には復活したサフィアもいる。そしてこの魔法は……
「イヤド!」
「全く、服が血だらけよ」
「戦ってるうちに蘇らせた」
「よくやったわ。殺された記憶すらないのが怖いけど、後はあのバカ勇者がなんとかするって」
「な、なんとかって……」
オニスが完封された現状、全員で挑んでも勝ち目があるか不明。なのにどうして1人で……?
「ふぅ、大したものだな。1回死んだぞ」
「……閉じ込めたつもりか」
試すように呪いの短剣で斬りつけるも、魔壁は傷つかない。
「無駄さ、私が時を止めた」
「……ならば何故、貴様も入っている?」
「壁越しに話をするのは失礼であろう」
「話だと……?」
サフィアは剣を捨て、続けて話す。
「君を救いに来た」
「……冗談でも笑えんな」
「本気だとも」
「ハッ! 世界はおろか、身近な人間すら救えず……俺にも敗れた名ばかりの勇者がほざくなッ!!」
冷酷であった未来の自分は見相を変え、怒りをぶつける。
「おっと、自己紹介がまだであったな。私達は過去から来たのだ、しかも異なった歴史でな」
「……ならば尚更、何ができる? 口ぶりからするに、随分と腑抜けた世界だったろうな」
「そうでもないさ、特にシフの場合はな。ま、私の不甲斐なさもあって苦労をかけたさ。だったらせめて、世界が異なれどシフの力になりたいのさ」
「……そうか。なら__」
俯き、返答を述べる直前に睨みつける。
「死ね」
残像すら残し、サフィアの首元に短剣を突きさそうとしていた。
「血の気が多いな、戦乱の世を制しただけはある」
(止めた!? 僕やオニスすら捉えきれなかった攻撃を……!)
サフィアは未来シフの手首を掴んでいた。そのまま不自然に地へと倒れ込む。
「合気か……!」
「ご名答」
『蛇削拳』
『時読み』×『風身一体』
未来シフは残る片手で蛇行する連撃を放つも、サフィアは手首を掴んだまま避けきる。
「ふぅ、危ない危ない」
「チッ」
(振り解けん、力が分散される……それにしても身のこなしが前の勇者とは違う……何か種があるな)
「サフィア……すごい!」
元より柔術に長けていたとはいえ、あの化け物じみた存在と渡り合えていることに驚嘆する。
(これがサフィアの全力……!)
「勇者として相応しくないが……守るべき存在がなく、自身の肉体すら顧みなければ、私は最強だ」




