番外編: 盗賊魔王
歴史が異なり、世界が崩壊した未来。その世界を救うべく、『時渡り』で未来へ行くことになった。
「へっ、またこのパーティで冒険することになるとはな」
未来に行くメンバーは、サフィア、イヤド、オニス、エメル。またしても、世界最強パーティで挑む。本当ならばバンさん、ルビやパイにも来てほしかったところだが……
「未来の彼にとって大切な人達だった者を、連れて行くのはおすすめできない。同一人物とはいえ、記憶が違う。留まることもできないし、説得は無理だと考えてくれ」
「それに、未来のシフがどんなに残忍だろうと、大切な人達と争うことになってしまうのは、あまりに酷だ」
「……優しいな。だが、彼の前では捨ておけ。死ぬぞ」
未来のサフィアからサフィアへの忠告。未来ではよほど険悪だったのだろう。
「はんっ、何もわかってないな。だから殺し合うのだ、愛があればそんなことはない!」
「うっさいわね! サフィアが2人もいるなんて、うざったくてしょうがないわ!」
「……すまないイヤド殿、気分を損なったというなら詫びよう。協力に感謝する」
「わ、わかればいいのよ……なんか調子狂うわね」
未来のサフィアの誠実な姿勢に、イヤドは戸惑って引く。宿敵であったアクマと闘って以降、大分丸くなったもんだが、異様な光景にいつもの噛みつき具合が衰えている。
「俺は気になって仕方ねぇぜ、成長したシフが俺らを倒したんだろ? とんだスパイスが降りかかってきたもんだ! ぶっ殺してやる!」
この中で唯一、俄然とやる気があるオニス。というより、殺る気満々。
「なんか自分を討伐しに行くというのはすごい複雑なんですが……」
「案ずるな、未来の自分を倒しても君は死なない。そもそも世界が違うからな」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
「やれやれ、物騒なものだ。私は説得を諦めん。シフも、己の蛮行は止めたいだろう?」
「そりゃそうですけど……」
(辿ってきた人生がまるで違う……はたして耳を貸してくれるのか……?)
「……ちょっと待ってほしい」
そろそろ『時渡り』を行おうとすると、エメルが待ったが入る。
「どうしたの?」
「……おやつ忘れた」
「遠足じゃあないんだぞ!?」
「あ……ついでに」
エメルが指パッチンをして、未来のサフィアを完治させる。
「な、なんとこれは……!?」
エメルの治癒能力に驚愕する未来サフィア。
(そういえば、未来のエメルは何をしているのだろうか? このサフィアが知らないということは、カンダル王国にいなかったということだ。死ぬわけないだろうし……)
「さて、それじゃ出発するぞ」
「待、待て! 傷が癒えたなら私も出向く! 2人の時の勇者でかかれば、きっと奴をも凌げる!」
「却下だ! なんでそんなリンチをせねばならん! シフが可哀想だ! えぇい、エメルめ、余計なお世話を……」
未来のサフィアが傷を理由に、この世界でお留守番ということになっていたが、その理由がなくなった。
「治せるのをわかってて、あえて伏せていたな!? ひどくないか!? 自分なんだぞ! しかも同じ勇者という使命を背負っておきながら!」
「ま、まぁ落ち着くのだ。我々が結束すれば誰にも負けない、戦力は事足りてる。殺伐としすぎだ、なんとかなるさ」
「……後悔するぞ」
「しないさ、絶対に」
(同一人物とはいえ、ここまで違うとはな……未来の自分も……)
両極端な意見のまま、サフィアは『時渡り』を行おうとする。
「では、行ってくる。一旦この世界は頼んだぞ」
「……健闘を祈る」
「ちょっと!! 視界がぐにゃぐにゃしたけど大丈夫なの!?」
「時酔いと言ってな、『時渡り』の副作用みたいなもんだ」
「そういうのあるなら予めに言っておきなさいよ!? エメル! 治しなさい!」
「じゃあコーラあるから氷魔法で冷やしてもらっていい?」
「あ〜、酔いで思ったが酒持ってくんだったな」
「緊張感なっっ」
「……大丈夫かなこのパーティ」
まるで世界が歪むように変わっていく。一瞬、あまりの眩しさに目を瞑る。
そして目を開けると、荒廃したカンダル王国へといた。
「話には聞いてたけど……受け入れがたいなぁ」
戦火に飲まれた後の街並み。建物は欠けたり、焦げたような後が夥しい。人の気配もまるでなかった。
「んじゃあ、こんなことにした張本人のシフ様とやらに、ご挨拶といこうじゃあねぇか!」
未来の自分が潜伏しているのは魔王城。元魔王軍ということもあり、思い入れがあるのだろうか。
「転移するわよ」
「イヤド、なるべく本拠地から距離をパーティ離してほしい。僕が魔法を使えないとはいえ、察知される可能性はある」
「わかってるわよ」
かつて、苦難ばかりで目指した魔王城。最終的に誰もいなくなったが……それをまた同じメンバーで目指す。しかも道中をスキップし、ラスボスは未来の自分。奇妙な因果だ。
転移により魔王城が目の前に広がる。荒れているのに変わりはないが……
「……寒気が止まらない」
この先に足を踏み込むことが、本能で危険を感じる。
「こいつは上々だな♪」
「……アタシでもわかるわ。怪物以上の何かがいる」
「ふむ……名だたる強豪達を倒したというのは間違いな」
各々が凍てつくような空気に察する。一筋縄じゃいかないのがわかる。
「それで、どう接触するんですかサフィア?」
「普通にここから歩いていく」
「えー、作戦雑っ」
「当然だとも、かつての魔王と違って討伐しに来たわけじゃない」
「かつての魔王さんも、皆んなは討伐にならなかったですけどね」
「戦うのはあくまで仕掛けられた場合のみ。特にオニス! 厳守するんだ!」
「……あいよ」
戦闘狂のオニスなら絶対断りかねないが、意外にも素直に言うことを聞いてくれる。
「貴方らしくないですね……」
「大丈夫さ、このビンビンな殺気……接敵したら噛み付いてくるさ」
「よぉし、では未来のシフがどんな姿になっているか、一目見に__」
ズシン!!
目を離したわけでも、警戒を怠ったわけでもない。だというのに、サフィアの顔は地面に埋もれ、その上に人が立っていた。
「これは何の冗談だ? 勇者が完全回復し、屠った強者もお揃いでお邪魔してくるとはな」
白髪に小麦色の肌をした男性。中性的な顔立ちであるが、雄々しさが滲み出ていた。冷ややかな眼光と視線が合う。
(これが未来の僕……)
見た目的にも直感的にもそう感じた。そしてその実力にも驚きを隠せなかった。
「……おいイヤド、テメェは離れて……!?」
オニスが忠告するも、既にイヤドは倒れていた。胸に呪いの短剣が刺さっていて、血が流れ続けている。
(嘘だろ……!? 僕らが気付けずに2人もやられるなんて……しかも時の力と魔法、頼もしい戦力を真っ先に潰された……)
「残るはオニスに、知らんお子様が2人……その内1人は俺の若き生き写しとはな。何なんだ一体」
「勇者様御一行だ。話に来たんだが、肝心の勇者がやられちまったしなぁ。んで、手を出されたらやり返せと言われてる」
「どのみち、大人しくしてるタマじゃないだろう?」
「……正解♪」




