盗賊少年と海賊少女
「おまっ、シフだよな……シフじゃねぇか!!」
姿は違うものの、やはりパイだった。イントゥリーグ王国潜入の際、5日間という短い間だったが、共に過ごした大事な友達だ。
国外に脱出させてからは知らなかったが、こんなところにいたとは……
「パイッ!! 久しぶりじゃないか!」
「おいおいどうしたんだよ、こんなとこでよ!」
近づき肩をポンポン叩いてくる。身長も大分伸びていて羨ましい。
「船乗りを探してて……それよりその格好は……?」
「ん、あー……見ての通り海賊やっててな……」
「「「お頭の知り合いなんですか!?」」」
「……んで船長やってる」
「マジか!?」
「お頭が……男の子と……」
「ヤダ青春」
「やかましい! テメェら食糧調達だろ! はよこなせ!」
「「「ア、アイアイサー!」」」
パイの一括で、慌てた様に退散する3人組。本当に仕切ってるんだな……
「……大物になったね」
「まぁな……あの後色々あってよ。また会えるとは思わなかった……お前さえ良ければ再会を祝して何か食べないか?」
「そうしたいのは山々なんだけど……」
「なんだぁ、また重要な任務みたいなもん背負ってんのか?」
「いや……世界の危機なんだ」
これまでの経緯をパイに話す。
「おいおい、情報量が多すぎて頭がパンクしそうだ……まずお前が勇者の仲間ってところからビックリなんだが」
「けど、その勇者はもういない。だから取り戻すためにも、魔族領域に運んでほしい」
「……んで魔王に会いに行くだってなぁ……友達ん家に行く感覚かよ」
「否定はできない。それに君は1度船で行けたんだろ?」
「あぁ、運ぶことに関しては問題ない。むしろ、恩を返せて嬉しいね。俺らのアジトを紹介する、ついてきな」
言われるがまま、パイについて行く。渡りに船だ、無条件で連れてってくれるのは非常にたすかる。
段々と街並みが汚れていく。すれ違う人達もゴロツキが多い。それでもパイは、道行く人々に道を空けられ、敬服されている。
「……随分と顔が効くんだね」
「……地元なんだ。あれからここに戻って、のさばってる奴らをシメたらここの連中に慕われて……養うために海賊から物資奪って配ってたら、海賊狩りの海賊、なんて呼ばれたよ。今じゃここは縄張りさ」
「すごいことじゃないか……!」
「初めはなる気なんかなかったんだぜ? でも、ほっとけなくてよ……俺も誰かさんみたいになりたくてさ」
「……歯痒いね」
「今の俺があるのは、お前のおかげだ。あん時返せなかった借り、倍にしてくれるぜ」
「頼もしい」
風格が前とは全然違う。それに歩き方でわかる……完全に強者だ。軽く教えたつもりだが、ここまで成長するとは……
「なんだなんだ、人の身体をジロジロ見やがって? お前も年頃だもんなぁ」
「あ、いや、そういうんじゃ……でも格好も大胆になったね……」
「女を隠す必要なくなったからなぁ! それに女海賊団の長が男装って訳にもいくまい」
「そうなん……はい?」
「着いたぜ」
古びた屋敷の前に焚き火と樽や荷物が散在し、パイの手下が屯してる。そして……全員が女性だ。
「……なんで女性しか……?」
「恥ずかしい話、俺に憧れた奴らと……居場所のない女が集まってできたんだよ。特に若い奴が1人で生きるのはしんどいからな」
「……よくわかるよ」
「だな……そんじゃあ今度はお前を紹介しないとな。おーい皆んな!! 注目してくれ!」
パイの号令で海賊達が一斉にこちらへ向く。
「次の航海が決まった!! 魔族領域にこの俺の命の恩人を連れて行く! 俺だと思って丁重にもてなしてくれ!!」
「「「「アイアイサー!!」」」」
まるで軍隊のように規律がある。それでいて、皆んな表情は穏やかだ。忠誠というよりは好かれてるんだろうな……
「よし! 今夜は宴だ、明日に備え存分に英気を養いな!!」
「「「「「イェーー!!」」」」
皆んなが作業を止め、各々が酒や食糧を持ち出し、騒ぎ出す。豪快な人達だ。
「お頭お頭! そのお方がいつも自慢してた例の男かい!?」
「おうとも! 俺以上の大物よ!」
「じゃあお頭を女にさせた男だ!!」
「思ったよりガチ年下だ!!」
「海賊だから非合法上等ってわけっすか!!」
「テ、テメェら変なこと言ってんじゃねぇ!? ぶっ飛ばすぞ!!」
「んじゃあ恒例の船長ハント開催っすね!」
「「イェーー!!」」
「……船長ハント??」
「っと、要は俺との腕試しだよ。勝ったら船長交代ってことにしてよ」
それで大盛り上がりしてるわけか……でもザッと見た限り、パイだけが頭1つ抜けてるな。
「そうだ! お頭とそのお方、どちらが強いんだい?」
……ほほう?
「そいつはまぁ……俺も気になるところだねぇ」
面白そうにこちらを見つめてくるパイ。こちらとしても気にはなっていた。見ただけでは完全に測れない。丁度組み手の相手が欲しいと思ってたとこだ。
「……やるかい?」
「……のった!」
「「「「ヒューー!!」」」」
歓声とともに中央の積荷がどかされ、円状の広場ができる。
「獲物はその短剣かい?」
「いやこれだと斬れ味良すぎて勝負にならないから、サーベルをお借りするよ」
サーベルを片手に土俵へと立つ。自分が手解きしてから、どれくらい成長したか見定めるとしよう。




