盗賊少年と別れ
拘束されてた黒手が解かれ、自由となる。喋るようにもなったので、急いで注意する。
「だめだエメル! 君はイヤドと一緒に逃げるんだ!!」
「……シフのこと宝石化してもいらないんじゃ?」
「えっ?」
「……この人は欲しいものをちゃんと手にしてきた。今更シフの盗賊能力なんて欲しい?」
「あ〜うん、そうなんやけど……仲間なのに残忍やなぁ」
「えー」
「……その点私は、どんな人体の異常も治せる。おまけにイヤドの魔法付き」
「アタシをおまけ扱いすんなっ! というかなんでアタシも!?」
「こちらとしては少年より、魔法使いの方が脅威かなぁ」
「うっ……! アタシ達が降ったとして、シフに勝ち目なんかないでしょ……?」
「……歴戦の、盗賊だから」
「……! 意図はなんとなくわかったわ……いいわ、シフに託すとしましょ」
「話は決まったかい?」
「……うん。別れの挨拶していい?」
「どうぞお好きに」
放心状態になっていたが、エメルが近づいてきて我に帰る。
「……というわけで後はよろしく」
「む、無茶だよ!?」
「シフならなんとかできる」
「こ、今回ばかりは無理だって……」
「こっちもなんとかする」
「……え?」
「だからシフは……宝となった私達を盗み出して」
この一言が自分を奮い立たせた、盗賊として。
「……元気いる?」
「いいや……必要ない」
「……食っちゃ寝、ちゃんと準備しといてね」
「……何がいる」
「ポテチとピザとコーラとアイス」
「……多いなぁ」
この絶望的な状況のなか、自然と笑えた。そしてエメルも一緒に。思えば、初めてエメルの笑顔を見た。今までのけだるく無表情な顔が嘘みたいに。
「……またね」
「うん、また……」
そう言ってイヤドは、アクマの方へと戻っていく。
「もうええの?」
「うん……ばっちこい」
「粋な子やね、嫌いちゃうでそういうの」
「……私も」
「自画自賛かい」
アクマがエメルに触れると、光輝きだす。エメルの身体が翠色の光となり、小さな翠玉となった。
「エメル……」
「さて、次は……」
「言っとくけど、アタシは負けてないんだからっ! 借り物の力で調子こく卑怯者と違ってね!」
「それは褒め言葉やなぁ。借り物の力で他者を凌駕する……制作者として冥利に尽きるわぁ」
「バーカバーカバーカッ!」
「語彙力」
イヤドも同様に変化していき、金剛石となる。
「ほな、さいなら。お仲間が繋いでくれた余生、大事にするんやで」
「えぇ、絶対に……」
それだけ交わし、アクマは消えていった。自分も兵達に事情を説明し、この場を去る。
悲観はしない。絶対に盗り戻すという意思だけが頭をめぐる。仲間だけではない、自分自身も成長しなければならないと、固く決意した。
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あれから数日、リオストロ城下町から離れ、とある港町に来ていた。バンさんに会いに行くため、海を渡らなければならないからだ。
しかし、船乗りからは連続で断られている。
「魔族領域に行きたいだぁ? 魔族がいなくたって、周辺の海には強力な魔獣どもがウヨウヨいるんだぜ。ダメだね、他を当たんな」
「そう、ですか……他に了承しくれる方に心当たりはいませんか?」
「俺が知る限りではぜってぇいねぇよ。命が惜しいしな」
「そう、ですか……ありがとうございます」
遠距離の移動手段はイヤドに頼ってたうえに、目的地が目的地だ。なかなか行くツテが見つからない。
「おい待ちな。なんで行きたいのか知らねぇが、噂で魔族領域に人を運んだっていう噂を耳にしたことがある」
「本当ですか!? 是非詳しく!」
「しかしなぁ、小僧に教えてやるには危険すぎてな……」
船乗りで危険……そうとくれば……
「海賊ってことですか」
「当たりだ。だからやめとけ」
「なら安心を。腕っぷしには自信あるので」
「だとしてもだ。そんじょそこらの海賊じゃない。むしろ、海賊を狩る海賊なんだよ」
同業者狩りか……リスキーな連中だ。でも、それだけ実力があると。
「名うての海賊どもはみんな奴らにやられてる。おかげでこっちは助かってるがね。でも所詮は海賊、ロクな連中じゃないだろうよ」
「じゃあなんで、そんな危険な所に人を運んでくれたんでしょう……?」
「開拓したい国々が、まともな船乗りじゃ無理だと判断して、海賊を雇ったらしい。どうしてもって言うんだったら、夜の酒場にその海賊が現れて、ベラベラ喋ってるみたいだ。気をつけろよ」
「……ありがとうございます」
言われた通りに夜まで待ち、酒場へとやってきた。大変賑わっているが、とあるグループだけ避けられている。見た目は荒くれで、確かに海賊っぽいが……なんと女性の3人組だ。
「あの、失礼します」
「なになに君ぃ? ナンパ!?」
「ヤッベ、モテ期来た!」
「待て待て、まだ誰狙いかわかんねぇだろ!」
完全に酔っ払っている。そうでなくても、好んで話に来る輩などいないからか、変に思われても仕方ない。
「魔族領域まで人を運んだと噂を聞きました。どうか、僕を連れてってはくれませんか? どうしても会いたい人がいるのです」
「面白いこと言うねぇ……」
「俺たちゃ海賊、無償でボランティアじゃねぇぞ」
「おいおい子供にたかるなよ〜」
「これが僕の全財産です」
机の上に金貨十数枚ばら撒く。全て盗んだものだが。
「ふぅ〜ん」
「じゃあこうしよう。金はもらう、依頼は受けない」
「ギャハハ! わっる〜」
「……なら、有り金とピストルは貰っていきますね」
「「「んな!?」」」
どうせこうなるだろうと思って、あらかじめ盗っておいた物を見せびらかす。
「おいガキ、表へ出な」
「店に迷惑はかけらんねぇ、ここは俺達憩いの場だからな」
動揺してからの切り替えが早い。海賊達は睨みつけて警戒してくる。
「喜んで」
舐められた話し合いよりも、直接手を下したほうが早い。乱暴になるが、みんなを早く助けたい。
自分から先に出口のほうへと歩いていく。そして店の外に一歩出た瞬間、尻を蹴られようとする。
「おらァ!……ってうおっ!?」
蹴り上げた脚を掴み、引きずり上げて転倒させる。
「この野郎!」
転んでなお攻撃に転じようとしてくる。威勢も状況判断も悪くない。海賊狩りを生業としてるだけある。
「こいつ強ぇ……」
「くそ、てめぇなんかお頭がいればーー」
「俺がいるとなんだって?」
海賊達の相手をしてると、後ろから荒々しくもどこか懐かしい女性の声が聞こえてくる。
「お、お頭!?」
「ヤッベ!!」
「テメェら! サボったうえに騒ぎを起こしてんじゃねぇ!!」
「「「すいやせん!!」」」
「大体絡んでの子供じゃねぇか! みっとも……ねぇ、ぞ……!」
黒い帽子を被り、胸元と腹を出した大胆な格好。印象は違えど、短い間だったけど、その顔は忘れはしなかった。
「……パイ……?」




