盗賊少年と黒バラ
「リーダー今助ける! 『スネークショット』!」
クーツが放つ銃弾が不規則に蛇行しながら、こちらへと向かってくる。混戦は避けられないとわかってはいた。それでも、アメトさんの存在にいち早く気付いたパルこそ難敵だ。多少強引にでもマークしておいたほうがいい。
視線をパルから外さないまま、銃弾をキャッチする。
「なんだとっ!?」
「こうなったら人質ともども焼き殺してやる!」
驚愕する“黒バラ“のメンバーだったが、トパだけは魔力を練り上げ、火炎魔法の準備をする。
「おおっと、すまねぇなトパの旦那。逆らうと魔刻印が痛くてね、ちょっくら邪魔させてもらうぜ」
マイトがトパの前に現れて牽制する。
「お前本格的に裏切るつもりか!」
「助けてくんなかったのそっちじゃん!」
「ふん! それはお前の落ち度だ! 諸共も灰にしてやる!」
「あっちゃ〜、こりゃ大変なことになっちゃったッスね……」
「『ファイアーボール』!」
「あちゃちゃ!? いきなり何してくれるんッスか!?」
混乱している隙にルビが火球を放ったことで、引火した服を慌ててはたくガネット。
「せっかくイヤド様が仕立ててくれた一張羅を台無しにしてくれたッスね……丁度良いッスよ!戦場じゃあ弱い奴から潰すのがセオリーッスから!」
「……奇遇ね、私も同じことを考えて狙ったの」
「カッチーン!! 処刑決定ッス!」
「まずい、ルビ姫様が……!」
その光景を見たアメトがルビの援護に回ろうとする。しかし、進行先の足元に銃弾が着弾し、瞬時に立ち止まる。
「これ以上は好きにさせんぞ」
小銃を構え、アメトに向かって威嚇するクーツ。
「ふぅ、参りましたね……」
各々が戦闘を開始していく。しかし、一対一で当たっても、数では不利だ。まだ相手は2人残っている。
パルを早く仕留められればいいのだが、距離をとられながら魔法で迎撃され、イタチごっこを繰り返している。
「見事な奇襲だが、残念だ。何もしなければ何もしなかったというのに。見せしめに、人質は始末させてもらおう」
パルが指差す先は、残りの"黒バラ“が人質達へと危害を加えようとしていた。
「……貴方達がこのウィッチを陥落させた実力は認めます。でも僕らがいなかった。今この状態で、またウィッチの人々を制すことはできますかね?」
「何……!?」
「このスーツ集団が!! さっきはよくもやってくれたな!」
「10倍に返してくれるわ!」
歓声のように怒号が飛び交い始める。アメトさんが奇襲を仕掛ける前に、エメルを人質達の中に忍び込ませていた。全員が魔法使いである村人達は、復活すれは再び大きな戦力となる。
「例の回復術師か、いつの間に……それにこうも短時間でほぼ全員を治すとは」
「……降伏しますか?」
「いえ、最悪我らはどうなっても構わない」
「……何故そこまでイヤドに肩入れをする?」
「ハハ、あくまで我らの悲願と同じだっただけさ。相討ちにでもなってくれれば理想だね」
……まぁ救出したのに急に手下にされたら、腹の内なんてこんなもんだろうな……
「……やはり狙いはサフィアか」
「そうだとも。そしてもう遅い。既に我らの計画は始動している。この場の争いなど、結果に反映すらされないよ」
……何故そこまで言い切れる? サフィアを仕留められたとして、最終的な目的は一体……?
「何はともあれ……貴方はここで討つ」
「いいとも、興じようか」




